ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

「営業と開発の強力タッグ」に使いやすさの源泉

「現場を気持ちよく」シーネットのWMS戦略

2023年5月25日 (木)

話題「現場をITで気持ちよくする」。ITをより使いやすく実効的なツールとして磨き上げることで物流を効率化して社会貢献と継続的な発展を目指すシーネット(千葉市美浜区)。設立から30年あまり、WMS(倉庫管理システム)を軸に、物流現場が抱える課題を解決に導くITシステムの開発・提供を推進してきた。今や、WMSの開発企業として随一の存在感を出すまでに成長を遂げている。

シーネットは、EC(電子商取引)サービスの急速な普及や消費者の購買スタイルの多様化が、物流現場の風景を激変させようとしている中、自身の強みをどう訴求していくのか。また、WMSを始めとする独自のシステム開発力の源泉はどこにあるのか。これに対し、「お客様の現場の声を反映した最適なシステムを、必ず稼働させる」との使命感こそが、シーネットの最大の強みであり、物流というインフラの強靭化を支援する力になると、鈴木喬・執行役員営業本部長は強調する。

▲シーネット執行役員営業本部長の鈴木喬氏

「日本でも必ず倉庫管理基盤になる」と見込みWMSの開発を決意

荷物の保管や仕分けをはじめとする、物流で「扇の要」の機能を果たす倉庫。その運営は、これまで、いわゆるベテランの熟練経験者の経験に基づく「勘」やノウハウの伝承によってなされてきたことは間違いないだろう。一方で、昨今では、ECの普及などを契機とした宅配ビジネスの急速な広がりに加えて、輸配送サービスに対する荷主や消費者の要求レベルが高まっている。しかし、少子高齢化や就業スタイルの多様化により、物流の現場では人手不足が顕著で、倉庫運営では、こうした動きを反映した効率化が求められるようになった。

そこで注目を集めているのが、WMSだ。入出荷や検品、在庫管理など倉庫内のあらゆる業務を管理・支援するITシステムとして、その機能が改めて見直されるようになったのだ。米国発祥のWMSは、すでに1980年には実用化されていた。

「米国でWMSに出会った衝撃から、『必ず日本でも倉庫管理の基盤となる』と日本での開発を決意して、当時勤務していた通信機メーカーからスピンアウトする形でシーネットを設立したのが、創業者の小野崎伸彦社長でした」(鈴木氏)。

シーネットが発足した1992年は、社会にITという概念が浸透する10年も前だ。そして、倉庫現場は戦後からほとんど変わらない運営スタイルが続いており、「物流」という機能に対する社会の認識も現在では考えられないほど薄弱なものだった。

そうした時代から、物流という領域に特化した現場業務の効率化・最適化を支援するITシステムの開発を着実に進めてきたのが、シーネットだったのだ。

現場のニーズに臨機応変な対応する「Himalayas(ヒマラヤ)」

倉庫をITシステムで管理する時代――。広大な国土に点在する各都市へ航空機や大型トラックなどで大量に輸送していく米国式の物流スタイルは、99年の米プロロジスによる東京オフィス設立を皮切りに、徐々に浸透し始めることになる。そして、2000年代に入り、ようやく国内の物流市場もインターネットの普及でECビジネスの黎明(れいめい)期を迎える。こうして、大都市圏を中心に各地で大型物流施設の開発が加速していくことになる。

(イメージ)

それは、倉庫運営の手法にも変革をもたらすこととなった。経験と勘を重視するスタイルからIT管理による効率的なシステム型へ。ただ、そのITシステムであるWMSを活用するのは、現場で荷扱いに汗を流す作業従事者や管理担当者。つまり、現場に導入するITシステムは、コンピューターのプロではなく現場従事者が自在に使いこなせる仕様でなければならない。その事実をいち早く認識していたことが、物流特化型ITシステム開発事業者としてシーネットが成長を実現できた要因だ。

「物流倉庫における現場のニーズに臨機応変な対応ができる、それがシーネットの強みです。さらに、こうした取り組みを通して物流インフラの円滑化という社会的な責任を果たす使命を担っているのです」(鈴木氏)。シーネットは、「物流×ITで社会を明るくする」というミッションステートメントに基づいて、ITの活用による物流領域における顧客の課題解決に向けた最適解を提示するとともに、使いやすい仕様のシステム開発に注力している。その象徴が「Himalayas」ブランドのWMSシリーズだ。

▲WMS「ci.Himalayas/R2」のサービス概要

WMS開発の自由度を飛躍的に高めた「クラウド」

顧客が現場で抱える問題を抽出して解決策を提示する手段として、WMSなどITシステムを自在に編み出す――。そんな夢のような取り組みを可能にしたのは、クラウドという概念だった。

「シーネットのWMSは、かつてはクライアント・サーバ型、今でいうオンプレミス型が主流でした。クラウド型でのサービス提供が可能になったことで、お客様の『真』のニーズへの機敏な対応が実現できるようになしました」(鈴木氏)。

サーバーやソフトウェアをユーザー側に導入をしなければならない従来のオンプレミス型と比べて、クラウド型サービスはシステムをサービスとして提供が可能なため臨機応変な対応力にたけている。その利点が、WMS開発で顧客満足度を高める要因となった。

開発陣が物流に精通する「顧客起点のWMS開発」

クラウドの活用で、より顧客に寄り添うWMSの開発を推進するシーネット。その実現を促す要因は、決してクラウドだけに依存しているわけではない。その神髄は、シーネットが独自に培ってきた「営業チームと開発チームの連携の在り方」にある。

一般的にITシステム開発という仕事は、営業チームが顧客から受けた相談を開発チームに依頼し、自社パッケージや既存のフレームの組み合わせなどしながらシステムを作り上げていく。その場合、開発エンジニアの知識や経験がないと進めることができないため、スピード感が遅くなることや、システムよりの考え方になるため現場のニーズが反映されにくいケースもあることが指摘されてきた。

シーネットは設立以来、こうした開発サイドに依存した手法を採らない。「シーネットは営業が要件定義に近いことができるほど自社パッケージや物流運用の知識に長けており、営業が顧客のニーズの深堀をすることができます。ヒアリングした内容を正確に開発に伝え、見積依頼を行いますが、開発側も物流に精通しておりシステム面から様々な指摘を行う。その連携こそがシーネットのスタイルです。情報が不足していれば開発も現場に赴き、お客様へ最適なシステム提案とブレの少ない見積を提示することが重要であると考えています」(鈴木氏)

顧客に安心感や充実感を抱いてもらうにはどうすればよいか。「まずは営業と開発がお客様と同等に物流の共通言語を使えることが重要」と鈴木氏は言う。そのうえで現場運用に精通した営業とシステム運用に精通した開発が、現場の問題認識を把握し、システム開発の要件定義を実施する。この両輪がしっかりとお互いに連携して稼働することで初めて、シーネット流の「顧客最適システム」が完成するというわけだ。

「何」を選ぶかではなく、「誰」を選ぶのか

シーネットのシステム開発力。そのこだわりは、現場の声を反映した最適な要件定義と、それに基づく的確で創意工夫にたけた製作力だけではない。「当社のWMSをはじめとする各種システム開発のモットーは『確実に稼働させる』ことです」(鈴木氏)。

どういうことなのか。顧客はシステム製作の依頼にあたり、様々な要望を抱いている。システムの具体的な内容や性能、使いやすさもさることながら、費用や納期についても重要なファクターとなる。発注する事業者は、「より自社に最適なシステムを安く、そして早く導入したい」のが本音なのだ。ただ、システム開発で往々にしてあるのが見積時に詰め切れずに要件定義を実施したところ、大幅に費用や納期が膨らんでしまいとん挫するということである。そのためシーネットは見積時からできるだけ詳細の仕様確認を行っている。「お客様からは『今ここまで打合せが必要か』、と言われるくらい細かく内容の確認を営業にはさせています」(鈴木氏)。

顧客のシステム導入の理由は様々である。保守切れ、荷主要望、物量増大など。ただ共通しているのは導入ができないと、業務へのインパクトが大きいということ。「シーネットとしても要件後に内容が膨らむことはゼロではないですが、お客様の状況を踏まえて何としてでも稼働するように努めてまいりました。この積み重ねがお客様からの信頼につながっているのだと考えています。」(鈴木氏)。

「現場の業務を効率化・最適化するためのシステムである以上、それを担う人のニーズをいかに的確で迅速に把握するか。ここが、システムを確実に早く稼働させる最大のポイントだと考えています」(鈴木氏)。

顧客(利用者)がWMSを採用する上でもっとも重要なのは、(1)そのWMSによって自社(あるいは荷主)の物流をどのように管理したいのか(2)その考えは正しいのか(3)結果として導入するWMSは(1)を実現できるのか——の3つの視点が、すべて満たされていることだろう。

そうであるならば、WMSを選ぶというよりも誰(どのWMSベンダー)を選ぶのか、という視点が不可欠ではないか。

最初のポイントは、顧客がWMSベンダーと接触する「動機」の部分。次の「その考えは正しいのか」という問いにきちんと答えを出すためには、顧客以上に顧客の物流現場を知らなければ、実現できるはずがない。

さらに最後のポイントに対しては、そこで出た答えを実現するWMSを提供するための知識、経験、対応力をベンダー側が備えなければならないことがわかる。顧客が求める「真の要件」に、スピード感を持って応えていくためには、営業担当者だけでなく開発サイドも同じ温度感で顧客に向き合わなければならない。

取材を通じて気づいたのは、これこそが、シーネットの基本姿勢であり、強みであるということだった。

(イメージ)

要件定義やシステムの仕様まで携わる営業チーム、技術的な側面だけでなく物流における課題認識まで掌握できる開発チーム——。営業が顧客の要望を抽出して的確に開発へ伝えることにより、満足度を最大化する。さらに、「絶対に稼働する」との意思を3者で共有することにより、顧客の安心感を担保する。

もとより、大量データの処理速度を強みとするシーネットの技術は、物流現場におけるスピード感とも整合性が高い。鈴木氏は「受注データをもらってから出荷を終わらせるまでいかに短くするかを追求してきた」という。

顧客が満足する処理速度を実現しながら、スクラッチ開発でなくパッケージに落としこまれたのがシーネットのサービスだとすれば、その核心はデータベースにあるといったほうが適切かもしれない。

柔軟な対応力でパッケージ化するノウハウも含めて、シーネットは物流現場が抱える課題の解決力をさらに磨いていく。

特集トップページに戻る