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WES不要論を徹底検証、ロボット物流に黄信号〜第3章

明確なビジョンを持ったシステム活用が肝要

2023年6月30日 (金)

話題第2章では、WESを“不要”とする物流会社の現場担当者の考えを伝えた。第3章では、WESを導入し成果を上げている3PL事業者と、導入したメーカーの思惑を通して、システムの有効性を確かめていく。

導入で存在価値に気付いた3PL事業者

九州を本拠に外食チェーンの物流を受託する3PL会社のエイシン(福岡県粕屋町)。従業員は108人と、規模は決して大きくはないが、2021年2月にシーネットのWESを導入した。

きっかけは、音声ガイダンスに従って作業することでピッキングの効率を向上させる、シーネットのボイスピッキング(音声認識)システム(VPS)の採用。導入にあたり、制御基盤として取り入れた。

それまで紙帳票とラベルの出力に使用していた基幹システムとのデータ連携をWESに差し替え、現在は、総合的な基盤として稼働させている。VPSとWESの導入効果で、生産性が2割も向上したという。

▲シーネットのボイスピッキングシステム(出所:エイシン)

また、データ連携が容易になったメリットも挙げられる。企業のサーバーからWESにデータを送信するアプリが用意されており、アプリ内にあるフォルダでデータファイルをやり取りすれば自動連携する仕組みになっている。

「(導入当初はWESを)入れたという実感はなかった」と、小森健・エイシン取締役 福岡かすや物流センター事業部長は振り返る。しかし、今ではWESの機能性を意識するようになった。

まだ接続できる機器が少ないなど汎用性が十分ではないが、エイシンでは自社の現場の自動化を支えるツールとしてWESの存在を見いだしている。「遅かれ早かれ、マテハンとか色々な機器を現場に導入する段階は来る。WESを導入したことで、設定などの手間をスキップできるのは利便性が高い」(小森取締役)という。

同時に、軸とするVPSと、新たに導入するマテハン機器との連携も視野に入れている。「最近ソーターロボットを新しく導入したが、ソーターとボイスシステムとを連携させるためのデータを自社開発した。そのとき『これ、将来的にはつなぐだけでいいんだ』とふと思った」(同)。

エイシンはWESを活用する物流会社のロールモデルの1つといえるだろう。会社の規模に関係なく、近い未来の物流現場があるべき形なのかもしれない。

ベンダーはWMSの負荷低減を訴求

一方で、ベンダーの狙いはどこにあるのか。「従来はマテハン機器との連携でWMSにカスタマイズしていた部分をWESに移すことで、WMSのカスタムボリュームを減らせる。システムへの依存度を減らせるのは大きい」。シーネットコネクトサービス(CCS)開発責任者の八重樫拓也氏は、WESのメリットをこう語る。

機器の連携などWMSの機能拡張を行えば、システムへの負荷は当然ながら拡大する。WESはこれを低減し、拡張の幅を広げることにもつながるという。

物流会社が課題に挙げるマテハン機器との連携については「メーカーと足並みをそろえるのは労力も時間もかかるが、汎用性を高めようとするメーカーと協力していきたい」(八重樫氏)と前向きな姿勢を示す。

ただ、一足飛びに動きを活発化させるわけではない。「物流事業者と実際の現場を想定しながら開発を進めなければ、身勝手なシステムとなってしまう」と小野崎光彦・CCS社長は、あくまで物流会社に寄り添ったシステム開発を進めると強調する。未熟なシステムがゆえに、事業者の意見を吸い上げながら「WES」を徐々に根付かせていきたい考えだ。

WES活用にはビジョンが不可欠

社会学者のエベレット・ロジャースが提唱した、新たな製品の普及過程を示す「イノベーター理論」。

「イノベーター(革新者)」「アーリーアダプター(初期採用者)」「アーリーマジョリティ(前期追随者)」「レイトマジョリティ(後期追随者)」「ラガード(遅滞者)」と、利用が早い消費者から順番に5つで分類する。

これに当てはめれば、WESは「イノベーター」から「アーリーアダプター」にようやく移行し始めた段階といったところだろう。

一方で、物流会社にとって来るべき労働力不足への対策は待ったなしだ。そのためには自動化は避けて通れない。

そして、その実現には管理システムと複数の機器やロボットをスムーズに連携できるWESは欠くことができないものになるだろう。“後期追随者”や“遅滞者”の事業者、導入しない事業者は、自動化で遅れ、それがサービス低下などにつながり市場から淘汰(とうた)される可能性もある。

ただ、どんなに便利なシステムも利用者が求める機能や効果などを明確したビジョンがなければ、仕組みに依存することになり、「使う側」ではなく「使われる側」になってしまう危なさもはらんでいる。

近い将来を見据え、自動化システムとWESを道具として、自社のビジネスにどう活用していくのか。物流会社は、その決断を迫られている。そのために残された時間は決して多くはない。<了>



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