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「個性派物流施設」特集〜新しい物流改革の萌芽

2023年7月31日 (月)

話題「2024年問題」が世間一般的にも認知されるにつれ、その対応などについてテレビニュースで取り上げられることも多くなった。近代化された倉庫内をロボットが走り回る光景などが紹介されると「なるほど、これが個性派倉庫か」と、納得する方も多いだろうが、今回の「個性派施設」特集の趣旨とは少し違う。最新の自動化機器による施設運営はもちろん興味深いテーマではあるが、これはあくまでもテナントや入居企業による個性派「運用」の事例。今回、編集部で紹介したいのは、デベロッパーが提供する施設自体の差別化の現状であった。


▲自動ラックやマテハンは運用事例にあたる。もはや“個性”と言えるのかは別の話だ

とはいえ、現在の物流施設のトレンドである「大型化」と「汎用化」の流れは、大きく方向を変える傾向にはない。CBREによる物流施設利用に関するテナント調査(3月実施)でも、倉庫スペースの増強、物流網の拡張・再編のニーズは依然として高いことが報告されており、都心近郊の残された物流地の開拓競争は続く。

2000年初頭、業界を変えた施設改革

「そもそも、今やスタンダードとなった巨大な汎用化型施設こそが、日本上陸時には『個性派』施設の象徴だった」と、物流業界歴30年以上の業界関係者は2000年頃の当時を振り返る。それ以前は、単に商材を保管する場所であった倉庫の常識を変えるきっかけとなったのが、1999年の米プロロジスの日本進出だったという。

▲2002年に突如として現れた“大規模すぎる”倉庫「プロロジスパーク新木場」

東京・新木場に2002年に竣工したプロロジスパーク新木場(現GLP新木場)は、当時の倉庫業の常識から見れば“異形”の代物。当時の業界関係者には、その意図さえわからない規格外の施設として揶揄されたともいう。自社が取り扱う貨物量のみを考慮して必要な容量(キャパシティー)を想定し、それに応じた資金調達で作られたこれまでの平屋倉庫とはまったく違うスキームで、投資家や企業年金などの資金を元手に金融商品として巨大施設を開発する手法は、日本の倉庫業界には未知の取り組みであり、「3PL事業が米国から輸入されるまでは、あんな大きな物置、使いようがないと冷めた目でみていたものだ」と前述の関係者は語る。

その後の、物流施設の今につながるトレンドは、あえて触れる必要もないだろう。3PLが日本でも定着したことと足並みをそろえ、外資系のみならず国内の主要デベロッパーも、軒並み「近代型物流施設」に参入したことで、進出当時は色物と見られた大型・汎用化倉庫が、物流のスタンダードとなって現在に至る。

大型化・汎用化が必要となる背景

東京近郊での新規大型物流施設が続くが、「立地」こそが施設の最重要ポイントである限り、今後もその流れが変わることはなさそうだ。EC需要の増加による巨大消費地へのアクセス利便性や都心倉庫の老朽化、地価高騰への対応、外環道や圏央道などの整備が進んだことによる配送の機動性の変化、労働力供給エリアの郊外への移行、立地と賃料のバランスなども、埼玉、神奈川、千葉県などへの物流拠点集積を促す。また、こうした物流施設が3PLサービスにとってハード面での支援として形成されたものであり、事業のいわば生命線となっている実情からも、物流の根幹から外れることはあり得ない。

▲似たような外観の巨大倉庫が建ち並ぶ光景は珍しくなくなった

物流費用の高騰への対応として「効率化」へ向けたソリューションが必要となるなかで、具体的な解決策としての新規物流拠点への集約化や、汎用化施設を基盤にした自動化への取り組みなどは有力な選択肢となり、とりわけマルチテナント型を利用することによる新規物流網の構築といった需要は底堅いものがある。新規開発の物流施設では、いずれも快適な就労環境の提供などアメニティ施設の設置をセールスポイントとするが、それも今では「個性」と言うよりは近代施設の標準仕様となり、ますます差別化が難しくなっているのが現状だ。

未来を見据えた個性派たちの誕生

とはいえ、荷主サイドや物流企業のニーズは時代に合わせて多様化し、業界全体の課題に対しての対策も急がれる。これまでの「汎用性」では対応しきれない需要や業界構造の変化などを見極め、将来へ向けて一歩先を目指す個性的な施設も、続々と登場している。

例えば、賃貸倉庫としてではなく、研究・開発と一体となった施設提供の取り組みは、単に一企業の利益追求にとどまらず、労働力不足や物流業務全体の効率化など業界全体への課題解決を目指すものでもあり、将来の物流業界のキーパーソン育成も視野においた先行投資として注目される。また、「自動化・省人化」に対してデベロッパーとしてより具体的なプランを提案する施設や、ドローンや完全自動運転トラックなど次世代運送機器の実証の場として、未来の運送システム開発をバックアップする動きも見られる。

各社の具体的な取り組みをいくつか挙げてみよう。

野村不動産は、倉庫内自動化実装に向けた導入効果検証拠点「習志野Techrum Hub(テクラム・ハブ)」を開設、物流施設内の一角を自動化機器のテストやソリューションの開発ゾーンとするR&Dセンターとして機能させ、同時に機器メーカー、システム開発企業との連携を促すことで、これからの物流について実証を重ねる導入効果検証拠点となっている。


▲「習志野Techrum Hub」の(左から)ソリューション開発ゾーン、コワーキングスペース

プロロジスは、これまでもベンチャー企業への出資を通じ、将来の物流事業における人材確保、業務効率化などにおいて物流事業へ貢献する企業を育成段階からバックアップしてきたが、つくば市に開設した「Inno-base TSUKUBA」(イノベース・ツクバ)は、そんな未来への投資を形にしたインキュベーション施設であり、物流施設開発のノウハウを生かした研究・開発施設の提供を行っている。

▲イノベーティブな企業を環境面で支援する「Inno-base TSUKUBA」

「MFLP・LOGIFRONT東京板橋」(三井不動産・日鉄興和不動産)は、物流でのドローン実装に向けて、飛行用のフィールド、ドローン事業者等への賃貸用R&D区画として整備し、ドローンによるラストワンマイル配送や災害時の支援物資搬送における実証実験の場を提供、24年9月の竣工を目指す。

▲広大な土地を生かしドローン用の試験フィールドや緊急着陸用のヘリポートも完備した「MFLP・LOGIFRONT東京板橋」

三菱地所は、京都府城陽市で日本初となる高速道路インターチェンジ直結の「次世代基幹物流施設」の開発を進める。基幹物流施設に直結した専用ランプウェイを設けることで、完全自動運転トラックや後続車無人隊列走行に対応し、これら次世代のモビリティーが高速道路から一般道に下りることなく利用できる物流施設を想定、26年の竣工を予定している。

▲高速道路インターチェンジに直結した「次世代基幹物流施設」

地域共生のなかで生まれる新しい物流施設像

このように、先進的な取り組みも「並行して」行われる一方、「大型化・汎用性」という大きなトレンド自体が変わることはない。アマゾンの積極的な拠点拡大などを見ると、24年問題が間近となった現在でも、即応性を保持しながら、さらに対象商品の枠を広げるEC物流への期待は高く、それに対応する物流センターも、多品種のオペレーションに対応できる大型化、もしくは徹底した自動化に対応できる汎用性を持つ物流施設への依存度は増し、大手プレーヤーを軸にした需要は高くなる方向で推移すると思われる。

そんななかで、今後、各施設の「個性化」の鍵となるのは、地域との共生というポイントとなるのではないだろうか。都心から同心円状に少しずつ郊外に広がっていった大型施設の建設用地も、工場跡地や倉庫跡地などはやがて底をつく。今後、農地・市街化調整区域などの転用地確保など、これまで以上に地域との調和が重要となり、施設自体が地域のなかでどんな「新しい価値」を創出できるかが重要となってくるのは間違いない。

▲ことし6月にGLPアルファリンク相模原で行われた交通安全教室

地元自治体との協力関係による「まちづくり」への参画への試みは、地元雇用の創出など直接的な部分から、地域産業の活性化、エリア全体でのブランド創出への貢献など、今後も積極的に展開すべき分野だろう。地域に対して「オープン」であることをコンセプトに、地域住民も共用施設を気軽に利用できる取り組みを行い、エリア住民や子どもたちを積極的に招き入れる施設や、生活空間とビジネス空間、憩いの場を共存させた地域共生施設としての立ち位置を明確にしている施設など、まちづくりと一体となった、もしくは新しい街の一部として稼働する施設の事例は、これからの物流施設のスタンダードとなり得る。産業団地の一角で閉鎖的に創業しているという従来の倉庫像から抜け出すことは、物流業界のイメージアップや地位向上にもつながる重要なコンセプトでもある。

▲2022年夏にESR久喜DCで行われたサマースクール

地域に対してオープンであるということは、当然セキュリティーの確保や、BCP対応などを含む災害時の拠点としての機能など、施設自体の高い性能を確保する必要もある。また、自治体が掲げる環境対策の中で、率先した活動で先導していくことも必要になる。あるデベロッパーは、建設敷地内の貴重な水生昆虫の生息域を、新しく作ったビオトープに移動させる作業まで担当者自身が直接行ったという「個性的」な体験を語ってくれた。施設を出入りするトラックの排気ガスや騒音にもこれまで以上の配慮が必要となる今日、建物自体の環境性能やカーボンニュートラルの取り組みを明確にすることは、地域住民の安心と信頼を勝ち取り共生する大切な要素となるはずだ。

次代にふさわしい、物流施設のイメージ変革

2000年代初頭の先進物流施設と3PL事業の進出は、当時としては明らかな「物流改革」だった訳だが、未来にふさわしい「物流改革」に対してどのような施設が提供されていくかは、まだまだ手探りの状況であろう。

今後、幹線輸送の自動化や、電気や水素などの次世代燃料の一般化、ドローン基地としての運用が本格化すれば、それぞれに対応するインフラを標準装備するようなステーション機能を兼ねた施設も誕生するのだろうが、現在は実証実験を重ねる段階。新時代の「スタンダード」が誕生するまでは、いくつかの個性派イノベーターの登場を待たなければならない状況にある。

また、適地となる物流用地が少なくなっていくなか、今までは開発に不向きとされたエリアなども改めて検証する必要があり、地域と一体となった開発による新たな物流拠点の開拓で「個性」を打ち出すケースも増えてくるかも知れない。

今では各デベロッパーが建物のデザインにもこだわり、外観から受ける施設の印象も大きく変化してきた。かつては、大型トラックが日夜出入りする、中身の見えない巨大な「箱」として、周囲を睥睨(へいげい)していた物流施設。それが、住民の生活空間に寄り添うことで「こころ優しい巨人」のごときイメージに変わって人々の生活の基盤を支えていることが再認識された時、そして、次世代の物流施設からドローンや自動トラックなど、最新機能を備えた未来の運送ロボが発着する、まさに未来の産業基地としての存在感を確立した時、それこそが新時代の「個性派施設」の潮流となるのかも知れない。

<お詫び> 記事内の「2000年初頭、業界を変えた施設改革」の項で、プロロジスが東京・新木場に2002年に竣工した物件を「プロロジスパーク東京新木場」と誤って記載し、画像も同様に誤っておりました。正しくは「プロロジスパーク新木場」(現GLP新木場)です。お詫びして訂正いたします。

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