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ハイブリッドセミナー「発足から5か月、トラックGメンいま何を思う」解説

運送会社の味方・トラックGメンが荷主対策を深化

2024年1月1日 (月)

話題2023年12月14、15日の2日間にわたって開催されたLOGISTICS TODAY主催イベント「物流2024年問題対策会議」では、官民の物流問題のキーパーソンが集結し、改善基準告示まであとわずかとなった業界の現状について議論された。

15日には、国土交通省物流・自動車局貨物流通事業課トラック事業適正化対策室長である齋藤永能氏が登壇。「発足から5か月、トラックGメンいま何を思う」のタイトルで、国交省によるトラックGメンの取り組みについて紹介した内容を、改めて解説したい。

▲講演の様子。(左から)赤澤裕介・本誌編集長、国道交通省物流・自動車局貨物流通事業課トラック事業適正化対策室長の齋藤永能氏

国交省「荷主対策の深度化」で、トラック事業を支える

昨年6月に政府が公表した「物流革新に向けた政策パッケージ」において、これまでの商慣行を見直し、「荷主・元請けの監視の強化、結果の公表、継続的なフォローおよびそのための体制強化」を進めるために創設されたのがトラックGメンであり、トラック事業適正化対策室はまさにその中枢と言える。

他業種と比較して長時間労働、低賃金、人手不足、さらには高齢化が進むトラックドライバーの労働環境の改善が急務であること。さらに長時間の荷待ちなど非効率な物流現場の実態が、時間外労働の上限規制が施行される24年4月1日以降の物流危機の要因となっている。

政府はトラック運送業の健全な発達を図るための規制強化と、運転手の労働条件の改善を目的として貨物自動運送事業法の一部を18年に改正。「トラック事業者の法令順守に係る荷主の配慮義務、国土交通大臣による荷主への働きかけ等の規定」を新設することで「荷主対策の深度化」を進めることを法律改正の重要なポイントとし、これがトラックGメンの活動へとつながる。

改正された貨物自動運送事業法に基づき、国交省では、トラック運送事業者の法令順守を阻害する要因となる荷主の違反原因行為の情報を収集し、事実関係を調査、必要な場合は改善に向けた是正措置を実行している。是正措置は、違反原因行為の疑いありとして対応を確認する「働きかけ」、荷主が違反原因行為をしていると疑うに足る理由がある場合の「要請」、さらに要請しても改善されない場合の「勧告・公表」の3段階で厳格化され、「勧告・公表」においては社名公表を伴う厳しい措置となる。

荷主対策強化の切り札・トラックGメン活動の成果

実際にこうした「働きかけ」「要請」から、大きな改善につながった事例も報告されている。荷待ち時間3時間以上が常態化していた現場において、元請け事業者が働きかけに応じて実施した対策では、専用バース確保や、荷役作業員の配置、到着時間の設定などの対策に取り組み、平均滞在時間を30分未満にまで短縮した例や、燃料サーチャージ導入で燃料費高騰への対応が実現した例もあるという。

トラックGメンは、こうした活動を継続しながら、政策パッケージの公表に基づいて悪質な荷主・元請け事業者への監視・指導をより強化するために23年7月に創設された。より多くの荷主に関する情報を収集するため、全国162人体制で組織され、トラック事業者へのプッシュ型情報収集を通じて積極的に違反原因行為を調査し、荷主・元請け事業者への是正措置(「働きかけ」「要請」「勧告・公表」)を実施している。これによって、ひと月当たりの「働きかけ」「要請」の平均実施件数は、Gメン発足前の1.8件から57件へと急増。トラックGメンの積極的な活動が結実して、より実効力のある指導につながるとともに、業界内の意識付けにも貢献している。また、23年11月と12月には「集中監視月間」を設けて、各関係省庁などとの連携で是正措置を徹底し、物流改善を加速させている。

これまでの国交省による荷主対策の取り組みのなかで、「働きかけ」を実施した荷主の数は、「働きかけ」251件、「要請」10件となっており、このうちトラックGメン創設前は「働きかけ」85件、「要請」4件と公表されているだけに、Gメン創設後の取り組みのスピード感、ボリューム感が実証された形だ。なお、現状「勧告・公表」に至った事例はまだない。それだけに、今後「勧告・公表」までに至るようなことがあれば、どれだけ深刻な事態であるかは再認識すべきであろう。(各数字は23年10月31日時点)

トラックGメンは「トラック事業者の味方」。標準的運賃と合わせて荷主交渉を

さて、その呼び名から、「厳格な取締官」のイメージも強いトラックGメンであるが、あくまでも「トラック事業者の味方」であることを齋藤氏は強調、トラックGメンの活動をより広くアピールし、トラック事業者の理解と協力を得て、より多くの情報を収集することで効果的な荷主対策を実現したいとする。

セミナーでは、「働きかけ」「要請」に関しては、違反行為の当事者である事業所単位ではなく、本社、全社レベルでの改善を指導していること、「働きかけ」「要請」を受けた事業者は、改善のための計画を提出し、それに基づいた取り組みが進行しているのかが確認・検証されることなど、現場での活動状況についても語られた。全国にGメンが配置されたことでトラック事業者の意見を広く聞く体制が整ったことが、「働きかけ」「要請」数の拡大という活動成果に結びつき、今後もトラックGメンの取り組みを理解してもらうことから24年問題の解決につなげたいとする。

セミナーが行われた12月15日には、国交省が主導する物流政策の重要な取り組みであり、政策パッケージでも言及されていた「標準的な運賃」に関する新しい指標の取りまとめも発表された。20年に制定された「標準的な運賃」を現状に即した内容へと改訂し、新しい指標のもとでの適正な運賃交渉を促し、運転手の労働環境の改善へとつなげることを目的とする。今後、荷主・運送事業者ともに、この標準的運賃を基盤にした運賃、対価をもとにした交渉を進めることが求められ、適正な対応が進むことが期待される。トラック運送事業者は、荷主からの不適切な商取引にはトラックGメンの制度を、荷主との交渉においては標準的な運賃を活用することで事業改善に取り組み、トラック運転手の地位向上を進めることが求められている。(標準的運賃に関しては、別掲の特集企画でも取り上げているので、そちらもぜひ参考にしていただきたい)

齋藤氏は「荷主の意識も変わっている。危機感を感じて何らかの対策を考えている」として、物流危機への社会的認知が広がっていることを感じるという。荷主を含めた業界一丸での物流改革の意識を高めながら、今後も、国交省がリーダーシップをとって物流危機への対策を続けていくことで、「物流を止めない」強い決意も語られた。