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24年問題前夜、M&Aから見る物流業界の現在地点

2024年3月13日 (水)

話題コロナ期の物流の混乱から、運送業のM&Aが盛んになり、2024年問題が近づくにつれその勢いが加速している。運送企業の譲渡側としてはそれらの事情にプラスして燃油費の高騰や人手不足などさまざまな要因から事業が継続できなくなったり、経営者の高齢化に伴って事業継承を検討したりといったケースもあり、今後もこうした情勢は続きそうだ。運送企業が6万3000社あるといわれる国内の物流は、これからどうなっていくのか。物流業界に特化したM&Aコンサルティングを行っている、スピカコンサルティングの山本夢人氏に、M&Aを軸に、物流業界の将来的な展望を聞いた。

<山本夢人氏 略歴>
スピカコンサルティング取締役。石川県出身、東京大学工学部卒。野村證券を経て、土木資材メーカーの副社長として経営に参画した後、2016年に日本M&Aセンターに入社し、以来、一貫して業界特化型のM&Aに従事した。19年には全社MVPを受賞し最年少で部長職となる。23年にスピカコンサルティングに参画。

時代の変化を感じながら、対応に迷う物流業界

これまで50件を超える運送企業M&Aを手がけてきた山本夢人氏。譲渡側、譲受側双方の経営者と膝を交えて話を聞くことも多い。そんななかで、24年問題の年に入り、周囲の雰囲気が如実に変わってきていることを感じているという。

「仕事でお会いする経営者の方から、何かやらなければならないという切迫感を強く感じるようになってきました。みなさんの考え方が24年4月以降に向けて変わりつつあるような雰囲気も感じています。物流業界以外の方からも、24年問題自体がかなり取り沙汰されるようになってきています」(山本氏、以下同)

業界内では、荷主からの問い合わせが増えたという話題もよく聞かれるようになり、同時に24年問題対策で仕事を組み替えたり長距離をやめて地場の仕事に切り替えたという話題も増えているという。「周りの対応を見て、何かしなければという思いになっている方も多く見受けられる」という。

多くの運送企業にとっては変化が求められる24年問題。しかし、どう変化をしたらいいのか、どんな手を打ったらいいのか、手をつかねているケースも多い。こうした状況はここ数年続いているように見える。

「現時点では、国側がどのくらい厳格に取り締まってくるのかが判然としないところがあるため、対応を迷っている業者が少なくないようです。4月以降に、見せしめ的な摘発が行われるともちろん変わってくるとは思いますが、そういうケースやそれに関する報道は、おそらく半年、1年ぐらい経ってから見えてくるものなのではないかと思います。それまでは、周りをキョロキョロ見回して、よそがどのくらいの対応をしているのか様子をうかがうような状況が続きそうです」

荷主・元請けに対しては、2月にトラックGメンによるヤマト運輸と王子マテリアへの初の勧告が行われたが、24年問題に関する運送企業への具体的な処分などは1年程度の猶予期間を経てからではないかとの観測もある。さまざまなコストがかかることもあり、様子を見ながら対応を進めたいのも無理からぬことである。

改正基準告示未対応の会社はポスト24年問題を生き延びられるか?

とはいえ、ドライバーの年間総労働時間3300時間というのは、74%の運送企業は現時点でもクリアしていると言われている。残りの26%は規制に沿ってアジャストしていけるのだろうかという疑問もある。これに対して山本氏は、「なかなか難しいのではないか」と厳しい見方をしている。

「労働時間制限に未対応の運送企業は現時点ではできる対応は限られていますし、やれるならもうやっている、ぐらいの感覚だと思います。現時点で自力で改善できていないのであれば、改善する能力のある会社にグループ入りする形で、改善可能な状態に持っていくくらい、思い切った施策が必要」だという。運行管理や労務管理を適法に行えないのであれば、一人で悩まずそれを行える事業者に事業を譲渡する。つまり、事業継続のためにM&Aをする必要があると、山本氏は言う。

(イメージ)

現在国内には6万3000社の運送企業があるといわれているが、ほとんどは中小、零細企業。効率化などのためにも、吸収合併で規模を大きくすることで効率化していくことは経営的にも理にかなっている。こうしたM&Aを通じて、企業群が減ることは合理的でもある。譲受企業のバックがつくことによって運賃が一度の訪問で20%以上上がった事例も多い。

「業務改善や荷主との交渉ができないといった同じ課題を持った2社が合併してもそれほどメリットがありません。事業譲渡を行うのであれば、会社が抱えている課題を解決可能な能力、機能を持った企業を選んで譲渡すべきでしょう」

山本氏が所属するスピカコンサルティングも、DX(デジタルトランスフォーメーション)化による事業の効率化の必要性がありながら、数年先の投資になると考えていた。しかし、それを1、2年で叶えられるということからITに強い上場企業と資本提携をする道を選んだ。

「こうした形のM&Aであれば既存事業をさらなるスピード感で成長させることができます。本来であれば二の足を踏むような投資も可能となったり、譲受側企業のリソースを活用することができたりします。これが『成長戦略型M&A』という事業承継型に継ぐ新たなM&A
手法の一つです。」

6万3000社の運送企業のほとんどは中小・零細企業であり、社長自身がトラックに乗っているという例も少なくない。社長自身が配送を行いながら、売り上げの管理や運行管理、労務管理などを行っている例も枚挙にいとまがない。これでは法制度に沿った経営も難しいし、運行管理や点呼の管理や記録の保存にも漏れが出ることもある。実際、そうした管理や記録の不備が運輸局の監査で違反とされ、行政処分の対象となるケースは珍しくない。管理部門に事務員を雇うとしても、小規模な会社であれば効率的ではない。しかし、管理機能を備えた企業とM&Aすれば、コストを自前で出さなくても管理業務も行える。譲受先のDX化が進んでいれば、荷待ちや運行記録などドライバーの作業も軽減される。

「経営者の方はそれぞれに会社への想いがありますし、同時に従業員の暮らしや今後を気にかかるかと思います。業務の改善のために行うM&Aというのは、経営の選択肢の1つとして考えてよいのではないでしょうか」

課題解決のリソースを持つ企業とのM&Aで24年問題をクリアできる!?

M&Aは譲渡側だけでなく、譲り受ける側も事業拡大のためのメリットがある。

「運送業であれば、配送範囲を広げたり、ドライバーやトラックを増やせるという量的な拡大が可能です。また、幹線輸送の中間拠点となる企業を買収するというケースもあります」

しかし、M&Aをしたことがないという経営者がほとんど。事業を譲渡しようと思ってもおいそれと候補企業が見つかるわけでもないし、見つかったとしても、それが譲渡の相手として適切かどうかもなかなか判断できないのではないだろうか。そもそもどんな企業がどのくらいの企業価値で譲渡しているのかという相場もわからない。

「企業譲渡・譲受の相場を一番知っているのは、やはりM&Aコンサルタントでしょう。基本的な相場もありますし、決算書や売り上げ、利益だけでは企業価値はわかりません。企業調査をしていくなかで価値がようやくわかります。運送業ならではの部分もありますし、知り合いの会社がこのくらいで売れたから、同じ規模のうちも同じ値段で売れるだろう、とはならないところがあります。逆に、自社では価値を感じていない部分が、ほかのとある会社にとってはマッチするということもあります。いずれにせよ、物流・運送業界に精通したコンサルティング会社を選ぶのが一番ですね」

(イメージ)

しかしまた、コンサルティング会社を選ぶのもなかなか難しいところがある。多くの経営者の元には毎日のように経営コンサルタントやM&Aコンサルタントからのメールやダイレクトメールが届いているはずだが、その中からどうやって選べばいいのかを考えると途方に暮れてしまうものだ。

「良さそうな会社を見つけたら、担当してくれるコンサルタントが、何社くらい成約したことがあるか聞いてみるといいでしょう。少なくとも10件以上の成約経験がないと本当にM&Aを理解しているとは言えません。また関与件数、つまり別の主担当案件を手伝ったというだけで成約件数に数えているコンサルタントは注意です。主担当で手掛けた案件が何件あるかをしっかりとヒアリングすることが大切です。相談したらマッチしそうな企業を紹介してくれるかと思いますが、相談した日に即座にいくつもの案件を提案してくるようであれば要注意。単なるリストを出しているだけなのか、本当にその企業のことを考えてマッチするアイデアとして提示しているのかを確認しましょう。専任で引き受けたはいいけれど、放置されている案件が多いと聞きます。また、専門的な用語や話をしてみて、業界の知識があるのかを確認することも大切です」

「以前M&Aのお手伝いをした企業で、前にほかのコンサルティング会社に依頼していたけれど成果が上がらず、1年で依頼期間が終わったのでうちに依頼してきたというケースがありました。これは明らかに、後回しにされていた、というパターンだと思います。コンサルタントは依頼を受けると依頼主企業の調査資料を作るので、どんな資料が作られていたのかを見せてもらいました。ちゃんと企業資料を作ると40〜50ページほどにはなるのが普通ですが、そこのコンサルタントが作っていたのは10ページほどしかなく、人でいう履歴書程度の内容。あまり良心的なコンサルタントとはいえません」

また、信頼できるコンサルタントは企業や事業だけでなく、人にも強い興味を持って対応してくれるそうだ。

「M&Aでは企業を譲渡・譲受しますが、それをモノ扱いするのはコンサルタントの態度としてふさわしくありません。経営者は会社にとって強い想いがあります。会社には従業員がいますし、その一人一人には暮らしがあります。事業の譲渡を考えている経営者も、そこで働いている従業員の今後が心配です。そうした一人一人の幸せの最大化を目指すのが、M&Aコンサルタントの役目だと思います。譲受する側も、譲渡側の心情や働いている従業員の気持ちや労働環境などを配慮できた方が、無事に成約、そしてその後の成功に至る可能性が高いといえます。M&Aは企業活動なので実利を求めるのは当然なのですが、そこに関わる人のことを双方が思いやることが、円満なM&Aの秘けつかもしれません」

運送業を席巻するスモールM&A最前線(全4回)