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24年問題直前特集(3)/「標準的な運賃」、トラックGメンなど変革の後押し加速

環境は整った、後は運送会社自身に求められる改革

2024年3月13日 (水)

話題ドライバーの働き方改革において、長時間勤務の解消と両輪で進めなくてはならないのが、賃金水準の向上である。トラックドライバーの賃上げ等に向けた貨物自動車運送事業法に基づく「標準的運賃」の引上げと「標準運送約款」の見直しも並行して審議が進められ、2月の公聴会開催を経て、運輸審議会が2月29日に答申を終え、告示を待つ状況となった。

文字通り「標準的」な運賃となる土壌は整い、それをどう生かすかがカギ

2020年4月に告示された前回の標準的な運賃の活用状況については、告示2年後の調査で「運賃交渉を行った事業者」が52%、「運賃交渉で荷主から一定の理解を得られた事業者」が15%。3年目の調査では運賃交渉を行った事業者が69%、運賃交渉で荷主から一定の理解を得られた事業者が43%となっており、調査結果を発表した国交省では、制度の意義は広まりつつあるも「成果としては道半ば」と総括していた。24年問題対応として社会的な認識も変化した新しい標準的な運賃は、前回の時限措置としての活用を超えて、業界全体で「標準」としての認識、運用に変わるチャンスとなっている。労働基準監督署からも、発着荷主などへの要請の際には標準的な運賃の意識付けが行われており、監督機関からの周知徹底も制度普及の大きな後押しとなりそうだ。

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前述の調査の主な対象となった全日本トラック協会の会員においては、回答者のうち「原価計算を実施した事業者」は21年に79%と、標準的な運賃を活用した荷主交渉への準備も進んでいるように思われる。ただ、調査対象者に対して回収率は8.5%と、意識の高い事業者に限定された割合であることも推定される。残り90%以上の運送会社が、標準的な運賃を理解し、原価計算へと取り組む状況ができているのか、引き続きの調査と啓蒙が必要だろう。

今回の標準的な運賃では、運賃を平均8%値上げした運賃表に改定される。また標準的運賃においては運送と運送以外の業務を別建てで、荷主から適正な対価を収受することや、荷役作業ごとの「積込料・取卸料」の加算、荷待ち・荷役時間が2時間を超えた場合の割増率5割加算、運賃をトラック車両ごとではなく荷物1個あたりの「個建て」にすることでの共同輸送の促進や、リードタイムが短い運送での「速達割増し」や、高速道路の積極利用を促す。政府の中長期計画では運賃の8%値上げに、こうした別建ての対価収受を加算することで、初年度で10%の賃上げとしての成果を挙げることを目標として明示した。

運送会社がこうした社会環境を後押しとして、荷主との運賃交渉に取り組んでいるという話も多く聞かれるようになった。特に、原価計算、勤怠運行管理、業務支援関連のDX(デジタルトランスフォーメーション)ツールベンダーにとってはそれぞれのソリューションを荷主交渉に活用する絶好のチャンスとして、システム提供者自体が荷主交渉にも立ち会い、データを基にした運賃交渉で成果を上げたケースも報告されている。

一方、運送会社の要請に対して、荷主・元請けの「裏切り」と言われても仕方のない話も出てきている。ある運送会社が、長年にわたり輸送を請け負ってきた荷主に運賃交渉を持ちかけたところ、荷主会社は別の運送会社への切り替えを図り、その事実が当の運送会社にはほかの事業者から請け負いの打診を受けたことで判明したという笑えないケースも聞こえてくる。当然、今はこうした裏切り行為に泣き寝入りすることはない。不正原因行為の告発に対して監督機関の動きも素早くなっており、このケースでも最終的には運送会社の希望通りに是正されることで決着したという。荷主にとってはただ評判を下げるだけとなったこうした事例は、物流に関わるすべての関係者が覚えておくべき教訓と言えよう。

21年の調査では、運送会社が荷主との運賃交渉を実施していない理由として「契約打ち切り」を恐れてとの回答が多かったが、この2、3年で潮目は大きく変わったのは間違いない。運送会社としてはこうした変化を背景にした経営改革に臨む努力と、そのための準備を整えているかが重要であり、生き残れるかどうかの試練が始まっているのである。

トラックGメンが洗い出す、昨年度の勧告処分予備軍160件以上

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23年7月に設置された国交省のトラックGメンも、悪質な荷主・元請け事業者への「働きかけ」「要請」など、時限措置であった「荷主対策の深度化」の継続を決め、標準的な運賃の周知とともに、荷主による違反原因行為の対処に注力する。昨年11月と12月を「集中監視月間」として取り組みを強化し、2か月間で106件以上の働きかけ、要請などを実施、現時点での最も重い処分である「勧告」も、元請け事業者のヤマト運輸と、荷主の王子マテリア(東京都中央区)の2業者に対して初めて行われた。

ヤマト運輸は「過積載運行の指示」の疑いで改善の要請を受けていたものの、その改善が見られなかったため勧告・公表に至り、さらに「長時間の荷待ち」「契約にない付帯業務」「運賃や料金の不当な据え置き」「その他の無理な運送依頼」で新たな疑いがあるとされた。王子マテリアは、22年8月に運送事業者に対して長時間の荷待ちを強いた疑いで要請を受けていたが、その改善が見られないと判断されたものだ。

集中監視月間での違反原因行為では「長時間の荷待ち」が圧倒的多数の62%を占め、今回の法改正への対応が急がれる。そのほか、「運賃・料金の不当な据え置き」(14%)、「契約になかった付帯業務」(13%)、「無理な運送依頼」(7%)、「過積載運行の要求」(3%)、「異常気象時の運行指示」(1%)が報告されており、「要請」を行った件数は集中監視の2か月だけで164件となっている。

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「要請」を受けた事業者の取り組みが不十分な場合は、新たな「勧告・公表」事例となり、いわばその予備軍が増えている状況とも言える。今後も、適宜集中監視月間が設けられ、それ以外でも、すでに監督署の立ち入り調査が増えているとの報告も聞こえてくる。4月1日以降はより厳格になることも想像されるが、まずは調査の有無に関わらず、社会全体で「物流危機」に対応すべき状況に潮目が変わっていることを認識することが大事。荷主・元請けとして「運んでもらえる」会社になることを、真剣に考える時代に変わっている。

法改正、標準的な運賃の改定、トラックGメンによる荷主対策の深度化は、その他に掲げられた施策を実行する上での前提となる施策であり、30年に向けたロードマップ上でも政策パッケージで「商慣行の見直し」として提起された物流改革の根幹である。特定事業者となる企業はもちろん、それ以外の企業にとっても、物流効率化への努力義務は、すでに24年問題対応として各分野からさまざまな提案、検証がなされてきたはず。さらなる積極的な取り組みで、指導や、調査・公表の対象とならないよう、これまでの成果として30年に向けて形にしていく時となる。