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24年問題直前特集(1)/着々と進む法改正や環境整備への、準備状況は?

もはや30年への対応へ、加速する改革に遅れるな

2024年3月13日 (水)

話題2024年、トラックドライバーの働き方改革に日本社会全体で取り組むべき時がきた。トラックドライバーの時間外労働時間の上限を定めることが物流危機を招いたのではなく、ドライバーの過酷な労働を前提にした構造を放置することこそが物流の崩壊を招くのだという理解も、社会全体で少しずつ進んだように感じる。

ドライバーの労働環境の改善と物流インフラ維持の両立に向けて、政府は昨年の政策パッケージ、緊急パッケージ策定を経て、この2月に「2030年度に向けた政府の中長期計画」を公表した。すでに取り組みの焦点は24年の対策だけではなく、6年後に向けた改革のロードマップに移行したとも言える。このロードマップで示された施策における進ちょくを確認することで、これまでの私たちの取り組みによってたどり着いた、物流改革の現在地も明らかになる。

中長期計画は「適正運賃収受や物流生産性向上のための法改正等」「デジタル技術を活用した物流効率化」「多様な輸送モードの活用推進」「高速道路の利便性向上」「荷主・消費者の行動変容」──を5つの主要施策として掲げ、中でも適正運賃収受や物流生産性向上のための法改正等は、物流関連法の改正に基いた、改革の根幹となる施策に位置付けられている。そこで本誌は、中長期計画の筆頭に掲げられたこの施策と法改正を再点検し、今後の取り組みをさらに加速させるための手助けとしたい。

物流改革に向けた最も強力な推進剤となるのは、通常国会で改正された「物資の流通の効率化に関する法律」(物効法、「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」から名称変更)、「貨物自動車運送事業法」の改正であろう。

物効法では「荷主・物流事業者に対する規制的措置」が、貨物自動車運送事業法では「トラック事業者の取引に対する規制的措置」「軽トラック事業者に対する規制的措置」が提起されており、ここではこれら3点の改正について順番に検証、まずは最初の2項目を取り上げたい。

「荷主・物流事業者に対する規制的措置」に備え、自主行動計画の点検を

「荷主・物流事業者に対する規制的措置」においては、昨年来、取り組むべき必要がある事項とされてきた物流効率化の取り組みに関して、荷主と物流事業者それぞれに努力義務が課された規制的措置が導入され、国が策定した判断基準に基づき、取り組み状況に応じて「指導・助言」や、「調査・公表」が行われる。さらに、一定規模以上の事業者を特定事業者として指定し、中長期計画の作成や定期報告などが義務付けられ、計画に基づく取り組みの実施状況が不十分な場合、「勧告・命令」を実施する。

また、特定事業者のうち荷主には物流統括管理者の選任が義務付けられ、取り組みに違反した特定事業者には最高100万円の罰金が科される。改正法の施行後3年で、荷待ち・荷役時間を1人当たり19年度比で年間125時間削減、また積載率の16%増加を目指すKPIも設定された。

さて、現時点では特定事業者に関わる基準が明示されてはいないが、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(省エネ法)の適用に準じるとされている。省エネ法では年間当たりのエネルギー使用量で線を引いたように、物流改革では貨物重量を基準に定められ、特定事業者は、トラックによる国内貨物輸送量(重量ベース)の50%程度を占める物量を扱う3000社程度の荷主企業(発荷主、着荷主含む)が対象となる予定。

貨物輸送量の判定基準をトラック輸送に限定することで、モーダルシフトの促進を図る思惑もあるのだろう、物流事業者においてもトラック輸送に限定して上位400社、保有車両200台以上の規模が特定事業者の目安となる。法案成立後、1年後の施行が見込まれる改正法案だが、中長期計画の作成や、物流統括管理者の選任義務付けに関しては、2年の猶予を置いての施行が予定される。

物流効率化の取り組みに関して、荷主と物流事業者それぞれに課された努力義務、さらに特定事業者に課された中長期計画の策定義務では、すでに先行して「自主行動計画」としての取り組みが進められており、今回の法令改正への事前対応として取り組みを促していたことがわかる。現在(3月初旬)、120以上の団体、事業者が自主行動計画を策定、その詳細は内閣官房のホームページ上で確認でき、政府の物流改革の呼び掛けに真剣に取り組もうとする業界の意識の高まりを感じる。

規制法案の施行までにはまだ時間を要するため、自主行動計画としての取り組みとそのフォローアップを進めることで、タイムラグなく物流改革対応を加速する狙いだ。自主行動計画は、23年公表された物流革新のためのガイドラインに基づくもので、今回の法改正で課せられた取り組みと合致する部分も多く、すでに多くの事業者が「荷待ち・荷役時間の削減」に取り組む計画を盛り込んでいる。それぞれの自主行動計画を粛々と進めることが、今回の法改正における規制的措置への環境整備ともなるはずだ。

物流統括管理者の設置に関しては、日本ロジスティクスシステム協会(JILS)の昨年度の調査ではまだまだ取り組みが進んでいない状況で、すでに対策を取っている事業者は全体の10.7%に過ぎないとの結果が出ている。事業計画レベルにおいて物流を見直すことの必要性が、未だ企業の経営層レベルにおいて軽視される傾向にあること、物流統括管理者たる人材のイメージが固まっていないことがその要因だろう。

※JILS「2024年問題対応に向けた実態調査レポート」(23年11月)のデータを引用(クリックで拡大)

まずは、企業内部での意識変革が必要という段階であり、実際に4月1日以降の物流の変化を体感することや、さらには特定事業者に指定されることで「必要に迫られて」の動きが進むことも必要になるのかもしれない。本来の意義を理解し、物流統括管理者の主導による改革を実現するには、まだまだ時間が必要であり、改正法施行までに、どれだけ社内体制を整えることができるかも、サステナブルな企業経営における重要なポイントとなるだろう。

「トラック事業者の取引に対する規制的措置」で、多重構造可視化なるか

物流業界にとって長年の課題であった多重下請け構造の見直しも、法改正を根拠にして進められる。

貨物自動車運送事業法の改正では、元請け事業者に対して、実運送事業者の名称などを記載した実運送体制管理簿の作成を義務付けた。元請け運送事業者は荷主から請求があった場合には管理簿を公開する必要があり、1年間の保存義務も課される。

また、下請け運送事業者が、さらに別の事業者に請け負わせた場合は、その事業者の名称を元請け事業者に通知する必要がある。元請けはもちろん、荷主においても実運送者をしっかりと把握しておく必要があり、多重下請け構造の実態の可視化から、責任の所在を明確化し是正へ向けた取り組みを本格化させる。

さらに運送契約の締結に関しては提供する役務の内容やその対価(付帯業務料、燃料サーチャージなどを含む)について記載した書面による交付などを義務付けており、荷主から実運送までの物流プロセスで契約内容を透明化し、上流と下流での不均衡やトラブル、安全性と公平性を高めることを目指す。

下請け行為の適正化については努力義務となるが、一定規模以上の事業者に対しては管理規程の作成、責任者の選任が義務付けられている。本誌が取材した運送事業者は、すでに荷主から3次受け以上の下請けへの再委託を行わないようにとの通知があったとしており、下請けに出すという行為自体にもこれまで以上の注意が必要となっている。

多重下請け構造は、物流課題として長年指摘されてきた。一方で、これまでは物流の維持、車両の確保において下請けに頼らざるを得なかったことも事実であり、再下請けの抑制も運送力の低下につながる懸念もある。利用運送事業者にも下請け運送利用の適正化への努力義務が課されているのだから、配送車両手配の停滞、イレギュラーな輸送案件への対応力の低下による、物流の混乱もあるかもしれない。

そもそも、積載率の向上や効率的な運送を考えると、帰り荷を確保し、格安でも荷物を運んだほうが理に適っているといった運送側の需要が現在の物流構造を必要とした側面もある。積載率の向上を目標とするのであれば、求荷求車システムの利用率や成約率の向上も同時進行すべき課題となってくるであろうが、差し迫った物流の混乱に間に合う状況ではない。共同輸送の取り組みなどもより加速させる必要があるだろう。

ドライバーの働き方改善を成し遂げようとするとき、多重下請け構造の是正には、荷主や各階層の運送事業者、そして消費者としての私たちの立場でも、一時的な物流の混乱やコスト転嫁などのリスクを受け入れる覚悟、痛みを伴う改革が求められているのではないだろうか。少なくともまず、割に合わない運送料金を基にした物流を抜本的に見直さなければ、改革の入り口にも立てない。

「標準的な運賃」においても、新たに「下請け手数料」として運賃の10%を別に収受することが明示され、これに基づいて適正に運用すれば(さらに運賃の根拠となる原価計算がしっかりとできていれば)、4次受け、5次受けでは、もはや真っ当な取り分などないのは自明である。運送業務における一つ一つの契約が、ドライバーの生活水準の向上につながるものなのか、自身の事業のあり方自体を見直す必要がある運送会社も多いはずだ。

法改正によって、運送事業者にとっては新たな取り組みの責任を負うわけだが、運送事業の革新からドライバーの労働環境改善を実現するという改正の意義は明確である。ただし、その恩恵を被ることができるのは、あくまでも経営革新を目指す適正な運送会社だけ、なのである。