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リスク運転を99%削減した事故防止対策とは

2024年3月8日 (金)

話題LOGISTICS TODAYは7日、オンラインイベント「事故防止の幻想捨てよ〜2年後の運送会社に不可欠な選択肢〜」を開催した。物流業界のこれからの事故防止対策のあり方について、タクシーアプリで知られるGO(ゴー、東京都港区)から、AI(人工知能)ドライブレコーダー「DRIVE CHART」(ドライブチャート)事業に携わる武田浩介氏(スマートドライビング事業本部部長)を招き、本誌編集長の赤澤裕介と議論を展開した。また、ANAホールディングスグループで国際宅配貨物の集配を担うOCS(江東区)運行管理部門の相沢誠氏からは、集配車両のリスク運転を大幅削減したAIドラレコ活用術が紹介された。

▲(左から)赤澤裕介・本誌編集長、GOスマートドライビング事業本部部長の武田浩介氏

ドライバーを「事故を起こしにくい人材」に変えるには

赤澤と武田氏のトークセッションは、運送業界全体が24年問題対策に追われるなかで、従来の取り組みでは事故防止活動にまで手が回らず、結果として事故は増加するのではないか──という問題提起から始まった。

事業用トラックが第一当事者となった死亡事故件数(警視庁調べ)は、新型コロナウイルス禍で減少したものの、2023年は増加に転じており、依然として予断を許さない状況だ。トラックドライバーが減少するとともに運行管理者の総数も減少しており、運行管理業務を一元化する流れもできてきたなかで、運行管理者1人当たりの守備範囲は広くなるばかり。事故防止対策ばかりにリソースを割く余裕はないなかで、事故防止対策のレベルを引き上げた上で、効率化させる術はあるのだろうか。

人間が運転業務を担う以上、おのおののドライバーの安全意識自体の変革がなければ、真の事故防止にはつながらない。武田氏は長期的な視点で「ドライバー自身の安全意識を向上させることで、『事故を起こしにくい人材』に変えていく」ことが、物流業界にとって重要だと説いた。それは同時に、事故を起こしにくいドライバーが正当に評価され、適切な待遇を受けられるような仕組みづくりが、人手不足に窮する運送業界に求められることを示している。

武田氏は、運転業務のなかで普通では可視化されにくい部分を正しく評価するに当たり、AIが有用であると説いた。ドライブチャートは車内外を映すカメラを通して得た映像をAIで分析し、記録された動画から危険運転リスクだけを抽出することができる。この抽出作業自体は人力によっても可能ではあるが、動画のチェックだけで膨大な時間を要するため、運用するのは現実的ではないだろう。

AIを用いることで、人間の認識力だけではカバーしきれない広範囲の危険の予兆を抽出する。この領域をAIに任せるだけでも、運行管理者の時間の余裕を生むことにつながり、一歩先をいった事故防止対策の実施や、間接コストの削減にもつながるなどの利点を見出すことができる。通常では減点対象となる運転行為も、AIによってその背景を分析できるようにし、適切な評価を与えられるようにもできる。

また、ドライブチャートを活用して日々の危険運転リスクを即時にフィードバックすることで、ドライバーの安全意識を向上させるPDCAサイクルを生み出すことにもつながる。武田氏は、「10年に1回起きるような危ないシーンを意識しろと言っても意識できるものではない。日々発生しそうな危ない運転をその都度意識させることで、ドライバーの安全意識を高めることが重要だ」と述べた。

リスク運転が激減、OCSのドライブチャート活用術

とはいえ、AIの力が事故防止対策にどれほど寄与するものなのか、その効果は想像し難い。実際に、AIドラレコを運用し、ドライバーの安全運転意識を飛躍的に向上させた実例を見てみよう。

ANAホールディングスグループで国際宅配貨物の集配を担うOCS(東京都江東区)は、GOのドライブチャートを活用し、2022年5月には6592件あったリスク運転の数を、23年9月には92件にまで減少させた。しかもこの数値は、集配業務を委託している協力会社の数値だというのだから驚きだ。一体、何をどうしたのか。OCS運行管理部門の相沢氏に、その活用術を聞いた。

▲OCS運行管理部門の相沢誠氏

相沢氏は、ドライブチャートに搭載された、安全運転を評価するスコアリング機能を取り組みの核に据え、それを基に、ドライバーにリスク運転の自覚を促し、リスクの種別ごとの理解促進、実務への転換を図った。取り組みを開始して以降、一時不停止などの危険運転が急減するなど、わずか1か月でリスク運転を5分の1まで減らした。「ドライバーがスコアを意識することで、危険運転リスクを抑えることにつながった」(相沢氏)という。

また相沢氏は、「プロのドライバーとして、ドライバー自身に安全運転について自発的考えさせることが重要」と説いた。そのために、ドライブチャートに記録された危険運転リスクの動画から、例えば急減速の場面を切り取りって提示し、ドライバー自身に「どうしたら急減速を避けることができたか」を考えさせるなどの取り組みを行っている。そうすることで、自発的に安全意識を高めることのできるドライバーを育んでいく考えだ。

とはいえ、車内外の映像を記録し、スコアリングすることに対して、初めはドライバーからの反発も大きかったという。導入した背景や取り組みの意図がきちんと伝わっていなければ、「常に監視されている」とネガティブに捉えられてしまうのも無理はない。それでも、相沢氏は現場に寄り添ってドライバーへの声掛けを徹底するなど、地道なコミュニケーションを通じて信頼関係を培い、システムの利用を浸透させてきた。しかも、導入した時点では6000以上もあったリスク運転が、たった1か月で5分の1にまで減ったのは紛れもない事実であり、ドライブチャートの導入によりドライバーの安全運転意識が向上したことを示す確固たるエビデンスだと言えよう。

▲OCSがドライブチャートを導入してからの、協力会社の車両におけるリスク運転数の推移(クリックで拡大)

OCSがここまでの成果を挙げたのは、デジタルツールなどのハード面に頼りきりになるのではなく、個々のドライバーに呼び掛けるなどソフト面での取り組みを掛け合わせたことが大きな要因に思える。現在では、ドライバーのシステム閲覧率は100%となっており、ドライバー同士がスコアを高めるために議論する光景も見られるなど、自発的に安全意識を高めあう空気も醸成されているという。

デジタルツールは安全運転を実現させるための一つの手段に過ぎず、それを目的に結びつけるために、使う側の意識などソフト面も重要になってくる。GOは、ドライブチャートを導入した運送事業者に対し、ツールの効果的な使い方や、事故防止に向けた取り組みをともに考える「カスタマーサクセス」といったサービスも用意している。武田氏は最後に、「あくまで交通事故を削減するということが最終目的。OCSのような同じ志を持った企業と良い世の中を作っていきたい」と結んだ。


※この記事の元となるイベント「事故防止の幻想捨てよ〜2年後の運送会社に不可欠な選択肢〜」のアーカイブ動画を期間限定で配信しています。視聴希望の方は以下のフォームからお申し込みください。