ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

デジタルフォワーダーShippioに聞く、グローバルサプライチェーンの展望

橋崩落のボルティモア港、日本への影響は?

2024年3月28日 (木)

国際26日、アメリカ・メリーランド州のヘレン・デリッチ・ベントレー・ポート・オブ・ボルティモア(以下、ボルティモア港)で、コンテナ船がフランシス・スコット・キー橋に衝突。橋は崩落し、ボルティモア港は機能不全に陥る事態となった。これによって日本や世界の物流やグローバルサプライチェーンはどのような影響を受けるのか。国際海運に知見を持つデジタルフォワーダーShippio(シッピオ、東京都港区)でコンサルティングセールスを担当する川嶋章義氏に今後の見通しを聞いた。

ボルティモア港事故の概要

3月26日未明、ボルティモア港の入り口にかかるフランシス・スコット・キー橋に衝突したのは、海運大手APモラー・マースク(デンマーク)が運航するシンガポール船籍のコンテナ船「DALI」(ダリ)。同船はグレース・オーシャン(シンガポール)が所有し、シナジー・グループ(同)が運航している。マースクからの発表によると、同船はマースクの定期用船で、同社の顧客の貨物を積んでいるが、マースクの乗組員や職員は乗船していないという。

▲崩落したフランシス・スコット・キー橋と衝突したコンテナ船(出所:国家運輸安全委員会)

「橋が架かるのはボルティモア・コンテナターミナルよりも手前で、さらに港の奥には現在も5隻の自動車船、バルク船が取り残されています。また、コンテナターミナル自体は稼働しているものの、橋が崩落したことで船舶が港内への出入りが不可能となったため、ボルティモア港は実質的に機能を停止しており、復旧まで数週間から数か月かかると見られます」(Shippio・川嶋氏、以下同)

事故を起こした船舶は橋をくぐる手前で制御不能となっており、電気系統の不具合が示唆されている。なお、今回事故を起こしたダリは2016年7月11日、ベルギー・アントワープでも岸壁に衝突する事故を起こしているという。

ボルティモアは自動車、小型トラック、農機、建機の主要港

23年のボルティモア港のコンテナ取扱高は110万TEU。また、ことし寄港した船舶は438隻で、最も多かったのが自動車運搬船の113隻。次いでコンテナ船の104隻、バルク船が89隻となっている。

「ボルティモアは自動車と小型トラック、農業機械や建設機械の取り扱い台数では全米1位。また、石炭輸出量では全米第2位となっています。港内に取り残された船には自動車船もありますが、ゼネラルモーターズやフォードは早速、代替ルートの確保に動き始めたことを発表しています」。本来ボルティモア港から出るはずだった貨物は主にバージニア港、ニューヨーク港へと迂回し、一部は西海岸を経由すると見られている。

国際海運への影響は?

ボルティモア港での取り扱い貨物量は年間重量ベースで3700万トン。

「2021年のアメリカ国際港の取扱量ランキングで、ボルティモアは17位。ボルティモア港を経由する予定の輸出入は想定よりリードタイムとコストがかかることは免れませんが、グローバルサプライチェーンにそれほど大きな影響を及ぼすとは考えられません。近隣のバージニア、ニューヨークも一時的な混雑は避けられませんが、重大な混乱には及ばない」と考えられるという。

「コロナ禍中では海運が世界的に混乱、遅延しましたが、それはあらゆる港が十分に稼働していなかったため。今回ボルティモアが機能を停止しましたが、近隣の港が通常通り稼働しているため、荷物の迂回ルートが複数あり、今のところ大きな混乱に至らなくて済むと考えられます」

(イメージ)

迂回する貨物は東海岸の近隣港だけではなく、西海岸に向かうものもある。「昨年の渇水によるパナマ運河の通行規制や、東海岸の港湾労働争議の影響で、一部の荷主はすでに西海岸へのシフトし始めていました。そのため、比較的スムーズに西海岸ルートへの迂回が進むと見られます」

また、ボルティモアでのトラブルは、近年の海運の混乱の中では規模が小さい部類となる。「昨年のイスラエルとパレスチナの紛争により、紅海の航行が難しくなっています。スエズ運河の重量ベースでの年間通過貨物量は11億7000万トンとなり、国際海運に大きな影響を与えていますが、ボルティモアはその3%程度の3700万トンとなり、国際貿易に甚大な影響を及ぼす可能性は低いと考えています」

データドリブンな在庫・生産管理でサプライチェーンにレジリエンスを

パンデミックやスエズ・パナマ危機、ウクライナ・ロシア問題など、グローバルサプライチェーンを脅かす事態は避けようがなく、リスクは常に存在する。そうしたトラブルに備えるためには、サプライチェーンの強靱性(レジリエンス)を向上させるしかない。

いつ起きるかわからない有事に備えるため、「サプライチェーンレジリエンスを高めるために、被害を最小に抑える『抵抗力』を高めることと同時に、受けた被害から早期に原状復帰できる『回復力』を高めることが重要」と川嶋氏は強調する。そして、この2つの力を鍛えるために重要となるのがサプライチェーンの「可視化」「複線化」「冗長化」だという。

(イメージ)

「サプライチェーンレジリエンスを高めるためには、位置情報などで荷物の動きを見える化し、供給元・輸送ルートなどを複数に分散させることでリスク・ヘッジ。外部環境が不安定な際は、安全在庫を積み増しながらリードタイムを長く持ち、プロセスに冗長性を持たせることも必要です」

2024年問題による輸送量の不足が予想されることから、国内のトラック輸送においても在庫を持つことやリードタイムを長く取ることの必要性は言われるが、それにはコストもかかるため、無策で取り組むのにはリスクが伴う。

「まずはサプライチェーンの各プロセスの輸送実績データを取ることが大事です。それを元に、データドリブンな在庫・生産・販売計画、リードタイムのより厳密な計画立案を行うことで、コストを圧縮しながら利益を伸ばしていくことが可能です」

グローバルサプライチェーンの混乱を招く大きな事件が頻発する昨今。DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しながら、転ばぬ先のデータ活用が必須といえそうだ。

川嶋章義氏/Shippioコンサルティングセールス。総合物流会社の配送センターでの現場管理・提案営業、中国での駐在、大手電機メーカーでの物流企画を経験した後、20年にShippio関西支社立ち上げメンバーとして参画。数多くの顧客にShippioを導入し、顧客課題の解決、業務の効率化・標準化を成功させた実績がある。Shippioのミッションである「理想の物流体験を社会に実装する」ために日々奮闘中。

米・橋崩落、海運・貿易関係者は復旧長期化を懸念

■「より詳しい情報を知りたい」あるいは「続報を知りたい」場合、下の「もっと知りたい」ボタンを押してください。編集部にてボタンが押された数のみをカウントし、件数の多いものについてはさらに深掘り取材を実施したうえで、詳細記事の掲載を積極的に検討します。

※本記事の関連情報などをお持ちの場合、編集部直通の下記メールアドレスまでご一報いただければ幸いです。弊社では取材源の秘匿を徹底しています。

LOGISTICS TODAY編集部
メール:support@logi-today.com