話題家庭向け商品で馴染みの深いアイリスオーヤマ(仙台市青葉区)が、BtoBでの事業展開も加速させている。LED照明の普及による省エネ対策貢献で事業参入後、空気清浄化などを提案するエアソリューション事業を展開し、23年にエナジーセーバーの販売を開始した。
エナジーセーバーは、既存の空調機器をそのままに、後付けで設置することで大きな節電効果を発揮する空調節電ソリューションだ。「2023年末時点で650施設への導入を達成」(アイリスオーヤマの石原希之氏)しており、昨今のエネルギー事情も同社の省エネソリューション事業を後押ししている。
長引くウクライナ紛争、為替の円安基調など、電気代の高止まりは終わる気配がない。激変緩和措置による電気代補助は5月分で終了し、再エネ賦課金の値上がり、不安定さを増す中東情勢など、電気代の動向は経営面での大きなリスクにもなっている。食品のEC(電子商取引)取り扱いの拡大に向けて、冷蔵施設市場も活況を呈しているが、その電力の大部分を冷凍冷蔵と空調に費やすだけに、電気代高騰分をどう削減できるかは事業継続における重要課題であり、これがエナジーセーバーが注目を集める契機となっているようだ。
空調設備に後付けするだけで劇的な省エネ効果
エナジーセーバーは、室内温度を検知して空調の運転を制御することで電気使用量を大幅に削減できる、これまでにないタイプの法人向け省エネソリューションである。室内空調機器の吸い込み口・吹き出し口に温度センサーを設置することで、過度な冷却や室内温度の上昇など室内温度の上下動を制御し、室外機のコンプレッサーの無駄な稼働を抑えた安定した運転制御で電力削減に効果を示す。節電としつつも、室内温度は安定した状態を保つことができ、特に、冷蔵倉庫、冷房施設など、長期間かつ継続的に冷房・空調が稼動する施設での使用効果が大きい。
「電気代にかかる負担が大きくなるほど、省エネ効果の高い新型空調機種への入れ替えなども検討されることになるが、当然それにかかる費用は莫大だ。エナジーセーバーならば、既存の空調機器自体はそのままで、その稼働を適切に自動制御することで省エネを実現できる。大きな施設の改造と、それにかかる期間や費用を必要とせず、リーズナブルかつ効果的な節電に取り組める」(石原氏)
特に年間を通して空調で室温を一定に維持する必要がある食品工場、精密機器の生産ライン、そして冷蔵倉庫などでは稼働時間の長さに伴って削減割合も大きくなり、さらに密閉度の高い空間ではその効果も高まる。これまでの検証や実績から、導入後の空調に関する電力使用量は、冷房時で30‐70%、冷房時で15‐20%の削減が見込めるとしている。(※)今後も導入企業による消費電力削減効果累積の検証結果が積み上げられることで、さらなる普及も期待できる。
日本アクセスが認めたエナジーセーバーの検証力実証へ
食品総合卸として、ドライ、チルド、フローズン商品の総合流通事業を展開する日本アクセス(東京都品川区)でも、エナジーセーバーの運用効果の検証を行っている。
全国の300を超える物流拠点で3温度帯対応の独自インフラを駆使したロジスティクスサービスを提供しているため、拠点ごとのエネルギーコスト削減は同社にとっても重要課題となっているからだ。
日本アクセスは、設備更新時期を迎えた施設の低フロン化と新規施設の脱フロン化を進めつつ、既存施設においても太陽光パネルの設置や、省エネサービスの導入など積極的な環境対策に取り組んでおり、エナジーセーバーの検証もさらなる省エネ運用へ向けた見直しの一環である。
同社管理部物流資産・品質管理課専任課長の富岡栄治氏は「カタログ上の数字だけで判断することはない。必ず実際の効果を検証することを重視し、導入の意義を判断できるように取り組む」と、省エネサービス選定においては厳密な検証を前提としている。
ただ、冷凍冷蔵施設の電力省エネ効果の検証は難しい。その稼働率はもちろん、季節ごとの稼働状況などの分析が必要で、検証期間も長期化する。さらに、外気温の影響も大きいため、毎年のように異常とされる気温上昇が更新されるなかでは、「前年比」も意味がない。運用状況も変動するため同一条件で比較ができないことから、「運用のなかで実感を持って省エネを実証するのは簡単ではない」と富岡氏は言う。
そんな富岡氏が、エナジーセーバーの評価ポイントとして一番に挙げるのは、「わかりやすく検証しやすい仕組みの提供」を重視する企業姿勢である。「アイリスオーヤマは、専門のサポートチームがしっかりと検証の工程を構築し、きめ細かい報告で私たちの検証を後押しする。コスト削減のための他社の省エネサービスもこれまで検証してきたが、ここまで徹底したサポート体制はなかった」と富岡氏は評価する。
アイリスオーヤマにとっては、「検証チーム」を拡大して利用者へのサポート体制を全国規模で構築することが、新規ソリューションの効果を実証するためにも重要な取り組みだった。こうした地道な取り組みが、日本アクセスの厳しく堅実な検証と管理に重きを置く姿勢と合致し、エナジーセーバーの信頼性と評価の後押しとなったのである。
日本アクセスにおけるエナジーセーバーの検証は、まだ道半ばという状況だが、現時点でも着実に成果が表れているようだ。富岡氏は「現時点では想定した通りの成果が出ているのではないだろうか」と好感触を得ており、「検証中にトラブルがあった際、サポートチームがすぐに駆けつけて対応してくれたことなど、きめ細かい対応で信頼感はむしろ強まった」とも言う。
これまでの取り組みを経て、日本アクセスでは新たに別の施設でも、エナジーセーバーの検証機会を設けることを決定しており、まだスタートではありながらも厳しい検証体制に対応して次のステップへと進めたことこそ、エナジーセーバーに対する現時点での最高の評価とも言える。
厳しい検証に迅速に応えるサポート体制で、目指す次のステップに進む
日本アクセスは、フローズン業界で導入が進んでいなかったパレチゼーションを取り入れた物流拠点「フローズンマザー物流センター」を開設し、24年問題におけるトラックドライバーの荷待ち・荷役時間の削減で具体的な成果を示すなど低温物流の改革を先導している。今後は全国6エリアでフローズンマザー物流センターを核とする一貫パレチゼーション体制の確立など、積極的な改革をけん引する。業界に大きな変革をもたらす新しい発想や提案に期待する富岡氏のような施設担当者がいることは、アイリスオーヤマにとっても心強いはずだ。
また、富岡氏が「運用効果を使用者側でもリアルタイムに確認、共有できる機能があれば」と要望するのに応えて、石原氏は「省エネソリューションの運用効果をリアルタイムで共有し、店舗や施設全体の消費電力の可視化につながるデータ活用へと広げ、省エネ効果の見える化を推進する」との計画を示した。顧客のニーズを素早く製品化する開発力と、全国に張り巡らせたサポート体制でアイデアを形にしていく、実にアイリスオーヤマらしい展望に期待が膨らむ。