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再編進む運送業界、人手不足倒産が半期で過去最多

2024年7月4日 (木)

M&A帝国データバンク(TDB)は4日、2024年上半期の「人手不足倒産の動向調査」の結果を発表した。

人手不足倒産とは、法的整理(倒産)となった企業のうち従業員の離職や採用難などにより人手を確保できなかったことが要因となった倒産のこと。従業員の退職や採用難、人件費高騰などによる人手不足による企業経営への影響が深刻化し、2024年上半期(1-6月)には182件が発生し、前年同期の110件から大幅に増加した。年間として、過去最多を大幅に上回るペースで推移しており、このうち「従業員10人未満」の企業が全体の8割を占める143件となっている。

(クリックして拡大、出所:帝国データバンク)

特に物流業では、ことし4月からの時間外労働の上限規制改正による「24年問題」の運転業務への影響が大きい。27件の人手不足倒産件数は、前年同期の15件からほぼ倍増して半期としては過去最多となり、物流危機が人手不足倒産として顕在化した形だ。

ことし5月の労働力調査(厚生労働省)によると、就業者数は6766万人となり22か月連続で前年同月を上回る増加傾向が続き、企業経営全般としては人手不足感は高水準ながらも低下に転じる兆しが見えるとしている。その一方で、転職の希望者は1000万人を超え過去最多を更新するなど、労働市場の流動化が加速していることも指摘されている。従業員数の少ない小規模事業者、不人気業種からの流出増加も懸念される。退職者が出ればダメージは大きく、事業継続の断念につながるケースの増加が調査で明らかになった形だ。

それだけに、中小企業が90%以上を占めるトラック運送業界への影響は深刻である。トラック運転手の人材不足や他業種への流出が続けば、今後ますます人手不足による運送業の倒産件数へと直結することとなり、サプライチェーン全般での物流危機も顕在化する。あらためて運送事業者のみならず、荷主企業も自社の人手不足だけではなく、物流業界全体での状況把握、対応も急がなくてはならない。

TDBのレポートでは、実際に、24年問題に際して物流面の対応を行う企業は62.7%にのぼり、運送費の値上げ(および値上げの受け入れ)について43.3%、スケジュールの見直し36.3%など具体的な対応策もとられているとされているが、中小企業庁による価格転嫁率に関することしのフォローアップ調査では、全業種平均の価格転嫁率46.1%に対して、トラック運送事業では調査対象の全業種中最下位の28.1%にとどまるなど、引き続き発注企業の意識変革が必要な状況である。

(クリックして拡大)

支援を待つだけではなく事業者自身の積極的な取り組みを

物流業界で人手を確保し、トラック運転手が魅力のある職業として認識されるためには、賃金水準の向上や適正な労働時間への改善などが実現されることが必要である。物流2法の改正、標準的な運賃などへの対応も、業界全体の課題として取り組みを加速しなくてはならない。

(イメージ)

全日本トラック協会は、行政へも積極的に働きかけ、「トラック運送事業の支援では、省庁横断的な取り組みが進んでいる。トラックGメンの機能強化や、下請法改正などでの後押しも検討されており、荷主対策の深度化、荷主の意識変化が進むことには期待したい」としている。さらに、「実際に運送事業者がアクションを起こすことが大事」として、「中小事業者への支援、相談会などを全国で展開し、価格交渉などがより進められるような、具体的な対策を周知することに注力する」として、これまでのセミナーなどでの啓蒙から、個々の事例に応じた実践的な取り組み、相談への対応を進めることで、業務改善をドライバーの労働環境改善へとつながるような活動を強化する。

一方、人手不足は、倒産を含めたトラック運送事業全般の再編も加速させている。物流企業のM&Aや事業継承を手がけるスピカコンサルティング取締役の山本夢人氏は、物流業界のM&A案件数自体が20%増の傾向と捉えており、「人手不足による事業譲渡相談や、反対に運転手確保を目的として事業を引き継ぎたいという相談も確実に増えている」と語る。また、これまで「身売り」「買収」などマイナスイメージの強かったM&Aが、大手物流事業者のM&Aに関する報道が相次いだことで、「戦略としてのM&Aという見方へと変化している」ことも、M&Aによる物流業界の再編を後押ししていると分析し、中小だけではなく、大手でも、ますます統合が進むと見る。

運送事業における人手不足への対応策は、行政の対策を追い風としながらも、価格交渉やドライバーへの賃金反映など事業者自身の自主的な取り組みがなくては成立しない。事業譲渡でも健全な事業活動の遂行と綿密な準備は欠かせず、企業価値の向上を諦めてしまって良いわけではない。

また、荷主企業にはサプライチェーンの維持に向けてさらなる取り組みの強化、改正された物効法に基づく具体的な成果が求められることとなる。その成果をドライバーのための業務改革につなげて結果を出せる仕組み作りも、迅速に進めていかなければならない。あらためて、今回数字で示された物流危機に対して、業界全体で対応する覚悟が求められている。

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LOGISTICS TODAY編集部
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