ロジスティクスPortX(ポートエックス・東京都港区)は、輸配送や倉庫運営といった物流管理のコスト実績をリアルタイムに把握したり、複数拠点のコストデータを一元管理できるクラウド型システムを提供している。「物流支出を『意味ある投資』へ」を掲げる同社代表取締役の石田寛成氏に、システムの特長や創業の経緯などを聞いた。
バラバラな請求フォーマットを統一
物流コストを低く抑えたい。それはサプライチェーンを展開する企業にとって共通の願いといえるだろう。もっとも、コスト構造の全体像を把握しきれていないため、どの領域に改革のメスを入れるべきか、判断しかねている企業も少なくないというのが実情だ。
海上輸送や航空輸送といった国際物流。さらにはトラックによる国内での輸配送や倉庫運営などの物流オペレーションにどれだけのコストを支出しているのか。国をまたがる取引であったり、業務委託先である物流事業者ごとに決済サイクルや請求フォーマットが異なっていたりすると、コストの実態把握や比較は困難を極める。結果として、物流改革の断行に二の足を踏むことにもなりかねない。
こうした捉えにくい物流コストのデータを集約して一元管理し、リアルタイムに可視化できる状態にしたり、過去の取引データなどを基に、AI(人工知能)がコスト削減の余地などを提案してくれたりするのが、PortXの提供するクラウド型管理システムだ。
まず同システムの「一元管理」機能から紹介しよう。例えば、国別や担当部署・担当者ごとに保有しているフォーマットが違う見積もりデータがあるとする。これらのデータをシステムに集約すると、生成AIが費用項目名を統一した上で、それぞれの項目にデータを振り分ける。それによってバラバラだったデータを統合する。すなわち、項目名が異なるだけで、実際には同じ意味を持つデータをシステムで統合・整理できる仕組みだ。
さらに、見積もり書と請求書のデータを突合し、金額に相違がないかを確認したり、乖離があればその差額がどのくらいなのかを提示したりする機能もある。見積もり書と請求書をそれぞれで管理する単体のシステムではなく、包括的なシステムであるがゆえに双方の照合が可能になる点が強みと言えるだろう。
データを一元管理することで、これまでは単に「物流コスト」という大きな括りでしか認識できなかったコストが、例えば「燃油サーチャージ」や「海上運賃」といった具合に、細かい費目で確認・比較できる。これが2つ目の「可視化」機能だ。コストが上下動した要因や企業内での課題の所在なども、データを深く掘り下げることで把握できるようになる。
そして「改善提案」機能。取引した運賃などの実績データがシステム上で事前に設定した数値範囲から外れた場合にはそのことを通知してくれたり、データ活用に不安のあるユーザーを補助する機能が組み込まれている。「わざわざ誰かが張りついて教えるのではなくて、システム上で『今こうなっているのでこの部分を改善してください』と指示を出せる。それがクラウドサービスならではの良い点でもある」と石田氏は話す。
国際物流領域での活用を想定し、多言語対応の機能も実装済みだ。言語やタイムゾーンが異なる複数の拠点を1つのシステムでカバーするため、全世界でやり取りされる見積もり・請求情報をリアルタイムに把握できるほか、過去の実績も検証できる。実際、グローバル展開する日系日雑品メーカーでは、世界8拠点を対象にPortXのシステムを導入し、物流コストの最適化を実現するなど大きな成果を上げているという。
大企業をターゲットにシステム開発
PortXの創業者である石田氏が最初に起業をしたのは大学2年生のときだった。CtoC分野を対象にしたアプリケーションを開発したものの、成功しなかった。その経験から「ビジネス課題の解決につながる製品やソリューション、サービスを提供することの必要性を痛感」(石田氏)するとともに、エンタープライズ企業(大企業)にアクセスできる製品をつくりたいという思いに至った。
大学4年生の時、今度は国際物流の領域に課題を見出して、コスト管理に焦点を当てたシステムを考案した。一緒に動いてくれる仲間を集め、VC(ベンチャーキャピタル)から資金を調達し、本格的なシステム開発に乗り出した。
開発したシステムにはリリース直後から反響があり、ニーズは十分にあることが確認できた。ただし、当初のシステムは全く売れなかった。販売ターゲットである大企業特有のニーズを理解していなかったためだ。大企業が求めるのは目の前の課題を解決することだけではない。多機能で全社的に利用できる高度なソリューション、そして高いセキュリティーレベルを確保することが求められていた。しかし、同社のシステムはそれを満たせていなかった。
そこで、BtoB向けソフトウエアを開発・販売する上場企業からCTO(最高技術責任者)経験のある人材を招き入れた。大企業が要求するレベルに合うシステムに改修するためだ。この人事戦略が奏功し、現行の包括的なPortXが完成したことで、念願だった大企業での採用が決まった。「明らかにニーズはあったので、求められている水準をいかに満たすかが重要だった」と石田氏は振り返る。
物流の業務フローは年々複雑化し、企業規模が大きくなるにつれて、その全体像を把握するのが難しくなっている。国際化に伴い、物流で使われる用語に混乱が生じているのもその要因の1つだ。物流はコストを重視する分野でありながら、細かい部分には目が届かず、社内でのブラックボックス化が進んできた。こうした課題を解決し、物流全体の一元管理化や可視化を可能にし、改善策まで示してくれるツールは、大企業に重宝されるはずだ。
PortXではこれまで、CTO経験者や物流現場で実務を積んできた人材などを採用してきた。今後も優秀な人材を積極的に確保していく方針だ。採用時には候補者に入社のメリットをプレゼンテーションしてもらい、その実力を確認することもあるという。「ソフトウエアを使うのに慣れていない企業を相手にした事業であるからこそ、スムーズな導入にはコミュニケーション能力など高いスキルを必要とする」(石田氏)からだ。
同社が提供する多機能なシステムをきちんと使いこなせるかどうか、不安を抱く顧客も少なくないという。顧客側も人手不足の傾向にあり、システム導入に必要な専門知識を有する人材を自社で用意するのは容易ではない。
そこで、PortXでは最近、新たにBPOサービスを開始した。PortXからエキスパート・エージェントを派遣し、顧客の業務の一部を代行する。顧客はシステムから出力された選択肢のなかから選ぶだけ。このサービスもすぐに反響があり、潜在ニーズを感じている。
「日本の大動脈」をオープンな雰囲気に
石田氏は、物流業界を「日本の大動脈」と表現する。「物流はどの産業にとっても欠かせない機能だ。物流業界が変われば、日本全体に大きなインパクトを与えることができる」と力説する。一方で、現在の物流業界の課題は「オープンではないところ」だという。協業すればより良い成果が得られる場面でも、すべてを競争と捉えて、排他的な態度をとってしまう傾向があると感じている。
石田氏はこの「オープンでない風潮」を、スタートアップが変えてくれることを期待している。新進の企業同士が連携することで、より包括的に多領域をカバーでき、オープンな横のつながりが形成できることも示せる。
「1つの企業だけで、コスト管理や実務管理に対応する体制には無理がある。ソフトウエアの強みは、連携すればお互いより大きな価値を提供できること。しっかりと連携するオープンなマインドを持って、皆で業界を変えられるようにしていきたい」(石田氏)。
PortXが今後どのような展開を示すのか、期待は広がる。だが、それだけではなく、PortXから始まる横のつながりが物流業界、ひいては日本の産業全体にどのようなインパクトを与えていくのかも、目が離せないポイントになりそうだ。
一問一答
Q. スタートアップとして、貴社はどのステージにあるとお考えですか?
A. A.ラウンドとしてはプレシリーズAだと思っています。若い、アーリーな企業です。
Q. 貴社の“出口戦略”、“将来像”についてお聞かせください。
A.初めからグローバルな市場を視野に入れているので、いずれは外国に本拠点を置くような企業にもPortXを使ってもらいたいと考えています。出口戦略としてはIPO(新規上場)を想定していますが、国内のみならず、海外での展開も考えています。