
話題従来、物流施設の価値は「汎用性」にあった。しかし2024年問題を受け、物流施設のあり方が変わりつつある。これまで施設開発を担ってきた不動産デベロッパーは、いまやテナント企業へ「施設の使い方」を積極的に提案するようになっている。いわば、「30年に一度」ともいわれる変革期を乗り越えるには、テナント側も自社に適した提案を行えるデベロッパーを見極めなければならない。今回は、各デベロッパーが打ち出す提案や施設の特徴を紹介する。
24年問題対応型施設:戦略と設備で課題解決を目指す
日本の物流を支えるのは「3PL」(サードパーティ・ロジスティクス)と呼ばれる仕組みだ。人手が十分確保できた時代には、3PLは荷主から荷物を「受け取った後」に、人海戦術で荷さばきを行っていた。しかし、2024年問題や労働人口の減少に対応するには、「受け取る前」の段階での工夫が鍵となる。物流施設の立地選定や付帯機能などは、この前工程の効率化によってその価値が左右されるようになってきた。
従来、荷主は3PLに物流を一任してきたため、自ら課題解決策を提案することは難しかった。こうした状況でデベロッパーは戦略的な投資を行い、物流の中核的な役割を担おうとしている。ただ床を貸すだけではなく、戦略や必要設備まで用意できる施設こそが「24年問題対応型物流施設」といえる。利用者側も、各デベロッパーの提案を十分に理解したうえで拠点選びを行う必要がある。
中継拠点ニーズ増と季節波動への対策:野村不動産の提案
各不動産デベロッパーはどのような戦略を掲げているのか。近年特に注目されているのが、「中継拠点」としての物流施設の活用である。長距離輸送が前提だったこれまでの物流は、ドライバーの時間外労働制限により大きな転換点を迎えた。中継輸送に最適なエリアでの拠点開発が、いま急速に重要性を増している。

▲「Landport東海大府」完成予想図(出所:野村不動産)
その象徴が、野村不動産が開発中の「Landport(ランドポート)東海大府」である。同施設は、愛知県の東海市と大府市にまたがる巨大な物流拠点だ。敷地面積は9万8265平方メートル、延床面積は24万6539平方メートルにおよび、「THE CENTER(ザ・センター)」というコンセプトを掲げ、あらゆる物流の中核拠点を目指している。
Landport東海大府は、名古屋市内まで車で30分、名古屋港からも5.4キロと近く、市内配送や港とのやりとりに最適だ。また、東京・大阪双方へのアクセスが良い点も強みである。特に東京まで約3時間半で到達可能なため、ドライバーは休憩義務が発生する4時間以内に目的地へ到着できる。近年はSA(サービスエリア)の大型車用駐車マス不足が深刻化しており、こうした立地条件は24年問題がもたらす副次的な課題(駐車マス不足)を解決する有力な手段となる。

▲「Landport横浜杉田」のシェアリングサービスによる自動倉庫のイメージ(出所:野村不動産)
さらに、Landportシリーズの中でも特に先進的なのが、シェアリングサービスによる自動倉庫を導入した「Landport横浜杉田」だ。3、4階の一部は自動倉庫となっており、テナント企業はパレット単位で利用できる。これは季節によって取り扱い量が変動する企業に対応した仕様である。同施設は労働力確保のしやすい横浜市内に位置し、半径3キロ圏内には12万人に迫る労働者がいる。都市近接型の施設開発は、配送効率や人材確保の観点から注目が集まっている。
特殊倉庫で市場要請に応える:デベロッパーの巧みな戦略
2024年は、老朽化した冷凍・冷蔵倉庫の建て替え時期や危険物物流の活性化も重なる年だ。このような変化のなかで、市場ニーズに応える特殊倉庫を供給することは、デベロッパーにとって重要な使命といえる。
コールドチェーン分野に注力するのは、冷凍・冷蔵倉庫「LOGI-FLAG」(ロジ-フラッグ)シリーズを各地で展開する霞ヶ関キャピタル(東京都千代田区)だ。同社によれば、冷凍・冷蔵倉庫で扱う荷物の大半は食品であり、生産地近くにも堅実なニーズが存在するという。長距離配送を前提とした一拠点集約型物流が機能しにくくなるなか、地方展開はコールドチェーン企業への有力な提案となる。

▲「LOGI-FLAG TECH所沢I」、自動倉庫内観
霞ヶ関キャピタルは先進的な取り組みとして、埼玉県で冷凍・冷蔵の自動倉庫「LOGI-FLAG TECH(ロジフラッグテック)所沢I」を開発した。到着した貨物はリフトで上階の冷凍倉庫へ運ばれ、そこから機械が自動で最適な保管位置を確保する。従業員は基本的に低温帯に立ち入る必要がなく、身体的負担を軽減できる。人手不足が深刻化する中、過酷な職場環境を改善する提案は労働力確保にも有効だ。
また、通路確保が不要な自動倉庫は保管効率の大幅向上にもつながる。同社はここを起点にパレット単位で冷凍貨物を預かるサービス「COLD X NETWORK」(コールドクロスネットワーク)を開始。季節波動が大きい商品(アイスクリームやクリスマスケーキなど)を扱う企業の需要を取り込む狙いだ。

▲「プロロジスパーク古河6」完成予想図(出所:プロロジス)
危険物倉庫開発の先駆者といえるのはプロロジス(東京都千代田区)である。同社は08年から普通倉庫に併設する危険物倉庫を手掛け、茨城県古河市の「プロロジスパーク古河」では危険物倉庫8棟からなる「プロロジスパーク古河6」(24年12月完成予定)を開発した。マルチテナント型倉庫に併設することで管理や横持ち配送を効率化できる。需要増と人手不足が重なるなか、普通倉庫に危険物対応施設を併設できるノウハウは貴重である。
協働と地域共生:24年問題克服の新たなヒント
施設は多くの企業が集まる場であり、24年問題克服の鍵となる「連携」「協働」を生み出す空間としての機能も期待されている。また、災害時に物流が滞った経験を踏まえ、施設内や地域とのつながりを強化する取り組みも、今後の価値創出には欠かせない。
その好例が、日本GLPの「ALFALINK」(アルファリンク)シリーズである。同施設は「Open Hub」(オープン・ハブ)をコンセプトに掲げ、企業間の協業や地域住民との融和を積極的に図っている。
▲「GLP ALFALINK相模原」(左)とサマーフェスタの様子(右)
たとえば、佐川急便と西濃運輸はALFALINK相模原の屋上にトラックターミナルを設置し、荷物の出荷・集荷を共同で行う。ライバル同士の協働によって、配送効率の向上が期待される。また、施設内でスポーツ教室や英会話教室を定期開催し、「サマーフェスタ」のような地域イベントも実施。災害時には一時避難場所や救援物資拠点として機能し、その周知のために周辺住民向けの訓練や啓蒙活動も行っている。近年の物流施設は、かつてのような「嫌悪施設」ではなく、地域に開かれた存在になることを目指している。多くのデベロッパーがこの変化を通じて、地域社会との共生を図ると同時に、将来の雇用創出にもつなげようとしている。
24年後を見据える先端物流:ドローンと自動運転トラック
ドローンや自動運転トラックによる物流など、かつてSFのように思われた構想がいまや現実味を帯びている。
三井不動産と日鉄興和不動産は、「MFLP・LOGIFRONT(ロジフロント)東京板橋」内にドローン実験場「板橋ドローンフィールド」を開設し、ドローン配送や有事対応の実験を行っている。実際、三井不動産は東京大学と共同で、高層ビルへの垂直配送を想定したドローンを研究中だ。これが実現すれば、ラストワンマイル配送の効率向上が見込まれる。大手デベロッパーがこうした先端技術を主導する動きは、テナント企業や物流事業者への「提案力」の重視を象徴している。
▲「MFLP・LOGIFRONT東京板橋」(左)と板橋ドローンフィールド(右)
また、三菱地所は仙台市で「次世代基幹物流施設計画」を進めている。国道4号線・東北自動車道・仙台東部道路に接続する長町IC直結の施設を構想し、自動運転トラック対応を想定しているのが特徴だ。無人トラックが施設内を自由に走り回る光景が、そう遠くない将来に実現するかもしれない。その推進役を、大手デベロッパーが担うことも十分考えられる。
物流利用者にも求められる自社ニーズの明確化
2024年問題が顕在化する中、施設(ハード)の充実だけではニーズに応えられず、提案(ソフト)だけでも施設として成立しない。これからは施設の強みと提案力を掛け合わせることで、物流施設の価値が決まる。
デベロッパー各社はすでに自らの強みを模索し、特色ある物流施設を世に送り出している。裏を返せば、利用するテナント企業側も自社物流の強みやニーズを正確に把握する必要がある。そして、その答えはデベロッパーごとの提案を比較・検討することで見つけることができるだろう。