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Landportシリーズから見る、最新の物流施設事情

物流の担い手としての提案力磨く、野村不動産

2024年12月17日 (火)

話題従来、汎用性こそが「価値」だったマルチテナント向け大規模物流施設が、「物流の2024年問題」を機にその価値基準を変化させつつある。この変化によって「物流の担い手が変わる」と指摘する声も上がりはじめた。どういうことか──。24年問題は物流施設のあり方をどう変えていこうとしているのか、大手不動産デベロッパーの野村不動産を取材し、最新の物流施設事情を追った。

Landport東海大府の中継拠点としての価値

物流施設の価値の変化は、ハードとソフトの関係の変化を追うことでも理解できる。物流施設が形あるものを扱う以上、立地や床面積、設備などのハードには相変わらず高い汎用性が求められている。

しかし、24年問題という外的要因が顕在化してきた今、使い方や貸し手によるサポート、その施設をどう位置付け、どのように利用すれば価値を最大化できるのか、といったソフト面のアプローチがより重要になってきた。

物流施設におけるハードとソフトのバランスを具体的にイメージするには、愛知県大府市・東海市にまたがる地域で開発が進む「Landport東海大府」を見ればよい。まずはこの物件のコンセプト、「THE CENTER」(ザ・センター)を確認していこう。Landport東海大府は、これからの物流の中核を担う施設として開発された。その根拠は施設の規模、立地や建物のスペックにある。

▲Landport東海大府完成予想図

同施設は地上6階建て、敷地面積9万8265平方メートル、延床面積は24万6539平方メートルの規模を誇る。また名古屋港まで5.4キロと輸出入貨物を扱うのにも便利な上、大消費地である名古屋市内までは車で30分の距離だ。東名高速道路や名神高速道路につながる名古屋高速道路・大高IC(インターチェンジ)、伊勢湾岸自動車道・大府ICからもぞれぞれ0.5キロとアクセスしやすい。まさに中部の物流の中心(センター)と呼ぶにふさわしい規模と立地だ。


▲「THE CENTER」というコンセプトを体現する、Landport東海大府の立地(クリックで拡大)

BCP(事業継続性)にも強みがある。大きな地震に備えて、建物には免震構造を採用。またハザードマップ上では津波、洪水、高潮、土砂災害の対象エリア外にあり、そもそも被災するリスク自体が低い。

さらに490台分の駐車場、カフェテリアや無人コンビニエンスストアのほか、シャワールーム、コインランドリーまで備えるなど、従業員の働きやすさにも配慮する。

物流施設として十分過ぎるスペックを持つLandport東海大府を、野村不動産はどのようにソフトと組み合わせ、付加価値を高めているのか。

同社は東西を結ぶ「中継拠点」としての使い方を提案する。渋滞にはまらなければ、同地から東京までは3時間半ほどで到達できる。ドライバーは4時間ごとに30分の休憩を義務付けられているが、この距離なら休憩なしで一気に駆け抜けられる。

休憩の義務化はドライバーの負担を軽減するためのルールだ。しかし、近年休憩を取るためというよりは、「法律を守るため」に仕方なくSA(サービスエリア)に立ち寄るトラックによる駐車マスの占有が問題になっている。トラックの往来が集中する時間帯ともなれば、大型車用の駐車スペースはあっという間に埋まってしまう。その結果、いくつものトラックが一般車用の駐車マスを横切るかたちで停車し、SA全体の見通しが悪化、事故のリスクが高まっている。

また、Landport東海大府を中継すれば、大阪と東京という東西の二大消費地を結ぶことも可能だ。トラックドライバーの時間外労働が厳しく制限されるなか、従来のような長距離輸送は現実的ではなくなりつつある。

野村不動産は建物のスペックそのものと同じくらい、こういった施設の使い道を積極的にアピールしている。これこそハードとソフトの両面が重視される、現代的なリーシングのあり方といえるだろう。

「カテゴリーマルチ」の進化を体現するLandportシリーズ

野村不動産に限らず、大手デベロッパーはこのように物件開発のアプローチを変えてきている。アプローチ方法が変化したのは、24年問題とも無縁ではない。24年問題の背景には、今まで物流をアウトソーシングしてきた荷主を、当事者として業界に引き込むという考えがある。

今までは3PLが物流を丸ごと引き受けることができた。3PLは荷主から荷物を受け取った「後」、人海戦術で荷物を捌いていた。しかし、人手不足が進み、効率化が求められるようになると、荷物を受け取る「前」の工程にも工夫が必要になる。前工程を受け持つのは荷主にほかならないが、彼らのほとんどは物流に関するノウハウを持っていない。今、大手デベロッパーに期待されるのは、荷主の準備が整うまで、代わりに物流の担い手となることだ。

▲カテゴリーマルチ(クリックで拡大)

このような課題に対し、野村不動産は「カテゴリーマルチ」というコンセプトを掲げる。カテゴリーマルチとは、マルチテナント型物流施設とBTS(オーダーメイド)型物流施設を組み合わせた倉庫形態のことを指す。これはあらかじめ業種・業態をカテゴライズし、使われ方を想定した上で、倉庫の一部区画を設計するというもので、施設の汎用性を担保しつつ、専門性を高めようという試みだ。

あらかじめ自動倉庫を備えたLandport横浜杉田

▲Landport横浜杉田の完成予定図

新たに進化するカテゴリーマルチの取り組みとして挙げられるのが、25年3月に完成予定の「Landport横浜杉田」(横浜市)だ。同施設にははじめから立体自動倉庫がビルトインにて付属される。この立体自動倉庫はシェアリングサービスとしてパレット単位で借りることができるため、季節波動によって生じる荷物の増減に柔軟に対応することが可能だ。Landport横浜杉田の例では、明らかに季節波動が大きい荷主の利用を想定した設計がなされている。

▲シェアリングサービスによる自動倉庫のイメージ(出所:野村不動産)

Landport横浜杉田には、立体自動倉庫のシェアリングサービスも含め、「オープン・シェア」というプロジェクトコンセプトがある。これは物流施設を地域に向かって開き、物流の働き手や周辺住民との融和を図るというもの。

Landport横浜杉田は敷地面積7万1034平方メートル、延床面積16万3475平方メートルにも及ぶ大型倉庫だ。これほどの規模ともなると、交通量の増加などから、周辺住民から反発の声が上がることも少なくない。同施設は首都高湾岸線の杉田ICから680メートルの場所にあるが、もともと同IC付近のガソリンスタンドには給油のためにトラックが列をなし、渋滞が発生していた。そこで野村不動産は渋滞解消のためにガソリンスタンドを拡大移転、車の流れが滞らないようにICから遠ざけた。さらにLandport横浜杉田はトラックが周回できるつくりになっているため、仮に荷待ちが発生しても、事業者が路上にトラックを停めることは少なくなる。

▲地元、妙法寺に植えられた杉田梅。杉田梅は品種改良が加えられていない、日本古来の貴重な品種。

さらに施設が完成した暁には屋上菜園を開放したり、防災イベントを開催したりといった計画もある。敷地内には歴史的な樹木である「杉田梅」を植樹するなど、同施設は地元とのつながりを強く意識している。野村不動産は施設運営を通じて物流現場の魅力を発信することで、働き手の流入を促したい考えだ。

このように物流を我がこととして捉える姿勢からは、「物流の担い手」としての自覚が感じられる。

物流の担い手としての提案力

東海大府、横浜杉田をはじめとするLandportシリーズには、物件ごとににLTM(ロジスティクス・テナント・マネジメント)という物件担当がつき、テナント企業を包括的にサポートする。運営のサポートやトラブル対応はもちろん、空き床を埋めるためのサポートや、人材支援まで行うというから驚きだ。LTMの目的は各テナントとの連携を密にし、顧客満足度を最大化することにある。また、野村不動産は各荷主に選任が義務付けられた物流統括管理者(CLO)に、情報交換の場を提供する計画も立てている。このことからも同社がいかに提案力を重視しているかが分かるだろう。

業界において存在感を増す大手デベロッパー。野村不動産は物流の中核にさらに近づくため、先進的な活動にも取り組んでいる。特に目新しく映るのは企業間共創プログラム「Techrum」(テクラム)。これは物流の効率化を図る企業の集合体で、参画企業は24年時点で100社を超える。野村不動産はテナント企業のニーズを吸い上げ、Techrum参画企業のソリューションの中から要望に沿ったものをピックアップする。マテハン機器からバースの待ち時間短縮につながるサービス、庫内の人の動きを追うカメラなど、扱うソリューションも実にユニークで幅広い。


▲Techrumのソリューションの一例

24年問題を契機に、物流業界において不動産デベロッパー、そして物流施設が果たす役割は変わりつつある。物流施設はハードが優れているだけではもはやニーズに応えることができず、ソフトのみを追求しても賃貸物件として成り立たない。そのようななか、提案力を磨き続けた大手デベロッパーが物流の担い手になったとしても、決して不思議ではない。

「Landport東海大府」概要

所在地:愛知県大府市共和町/東海市名和町
交通アクセス:伊勢湾岸自動車道・大府ICまで0.5キロ、知多半島道路、名古屋高速大高線・大高ICまで0.5キロ、名古屋港(東海新宝ふ頭)まで約5.4キロ
敷地面積:9万8265平方メートル
延床面積:24万6539平方メートル
構造・規模:PCaPC造、地上6階建て(倉庫5層)、免震構造
完成:2025年10月末(予定)

「Landport横浜杉田」概要

所在地:神奈川県横浜市金沢区昭和町3174
交通アクセス:首都高速湾岸線・杉田ICから680メートル、JR根岸線・新杉田駅から徒歩16分、横浜シーサイドライン・南部市場駅から徒歩4分
敷地面積:7万1034平方メートル
延床面積:16万3475平方メートル
構造・規模:柱RC、梁S造、地上4階建て・免震ダブルランプ型
完成:2025年3月末(予定)