話題長時間の荷待ちや荷役作業の削減は、長年にわたる物流課題であり、改正法による物流効率化の義務としてさらなる対応が求められる局面を迎えている。こうした課題解決に対し、高速道路の通行料金を自動徴収するETCに活路を見出した企業が、古野電気である。ETCを駆使して物流施設や工場への入退場管理の自動化、車両コントロールを最適化して改善に乗り出した。
同社の創業は1938年。世界初の魚群探知機の実用化に成功し、1985年には東シナ海の海底に眠る戦艦大和の船体を計測、沈座状況を3次元で実態把握するなど、その高い技術力で物流課題にも貢献する。
ETCならではの車両検知能力を物流分野に応用
車両識別方法にはETCのほかにも、車番を認識するカメラ、カードリーダーにかざすICカード、RFIDタグとリーダーの通信で識別するRFIDなどが存在する。しかし、ICカードやRFIDのように配布の手間、紛失やなりすましなどのリスクがなく、車両識別のために車両を近接させる必要がないこと、カメラと違い、霧や雨、雪、強い西陽、泥などの汚れなどでナンバープレートが読み取り不可でも識別可能なことなど、ETCのスムーズな車両検知能力は圧倒的だ。その機能性と信頼性については、すでに高速道路での運用で、体感している人も多いだろう。ETC技術開発を手がける同社が、車両認識においてETCの検知能力を最適と判断して開発に臨んだのも頷ける。
古野電気がETCを活用して提供する車両入退管理サービス「FLOWVIS」(フロービス)は、このETCシステムを施設の入退場ゲートに設置することで、車両を正確かつ迅速に認識するシステムである。施設への入退場時にドライバー自身の登録作業を必要とせず、バース領域とのスムーズな連携によるさらなる効率化、全体最適へと導くことができる。
提供する総合管理ソフトウエアは入退場に必要な機能をパッケージ化。運営者は直感的な操作が可能で、複数の入退場口も一元管理できる。入退場車両の画像確認や検索、記録データの呼び出しも容易で、システム導入から運用・保守までワンストップでサービスを提供する。また、たとえ、ETCを搭載していない車両でも、カメラによる車番認識と組み合わせて検知する運用も可能であり、国内のほぼすべての車両に対応可能だといえるだろう。
入退場受付の負荷高い工場への導入で、運用実績を積み重ねる
従来提供していたETCソリューションをパッケージ化し、さらに導入・運用容易性を高めたFLOWVISの提供を始めて3年半。「拠点導入が広がるなか、バース領域ではなく、その前後工程の入退場に課題感を持つ工場での導入が先行している」と古野電気システム機器事業部事業企画部主査の西村正也氏は語り、特に工場現場に特有の課題を指摘する。

▲古野電気システム機器事業部事業企画部主査の西村正也氏
「工場ではメインゲートに守衛室があることが多く、入場の際にドライバーは車両を降りて記帳して、運転席に戻るなどの作業負荷と時間を要する。FLOWVISは事前に申請登録した車両をETCやカメラが瞬時に認識し、通行を許可するのでノンストップで門を通過でき、渋滞も削減できる」(西村氏)
さらに、通過時に車両情報や時刻を記録し、入退場のデータ管理や分析に役立てることも重要な機能だ。ドライバーの稼働状況の可視化や、セキュリティーレベルに合った入退管理システムを構築し、入退場受付の円滑化によって、荷待ち時間を削減し、ドライバーの労働環境を改善する。ドライバーの操作ミスによる不正確なデータを蓄積する恐れもなく、ドライバー自身に作業負荷がかからない労務管理が可能となる。また、守衛室の受付、ゲート付近で安全管理を担う警備員に要する人件費の見直し、複数あるゲートの一元管理を可能にする業務効率化にも役立つ。「待機中のアイドリングによる大量のCO2排出も、荷待ち時間の短縮によって削減し、施設周辺環境面にも配慮できるサービス」(西村氏)といえる。
来場車両への対応効率化、滞在時間データ集積での活用例
では、FLOWVISを実際に導入した工場ではどんなメリットが生まれたのか。その1つが埼玉キッコーマン食品工場の事例である。これまで、守衛を置かず、バーゲートを利用し、社外からの来場車両の管理では、到着したドライバーはゲート前のインターフォンで総務部門へ連絡するなどしていた。総務の受付担当者はドライバーを確認した後、ゲートを開放する作業を行うが、インターフォンの音声が聞き取りにくいことや、ひっきりなしの対応は大きな負担である。さらには、来場車両の場内での滞在時間などを随時、正確に把握、可視化したいという物流危機への問題意識からも、車両入退場管理の見直しが検討されてきた。

▲埼玉キッコーマン食品工場
同社はFLOWVISを導入することで、登録車両ならば自動でバーゲートを開放できるように受付を変更。既存のゲートを活用することで、コストを抑え、迅速な運用を可能にした。以降、インターフォンによる呼び出しが減り、総務部門の負担を削減しながらも、車両を確実に検知、識別し、全車両の入退場と滞在時刻を自動記録して車両の構内滞在時間の確認にも活用しており、荷主企業としての適切な工場運用ができているかを分析。適正運用のエビデンスの確保にもつなげたという。
ドライバーと守衛双方の業務負担削減と、セキュリティ確保の事例
ダンプトラックやごみ収集車、タンクローリーなどの特装車を製造する総合メーカー、極東開発工業(大阪市中央区)の導入事例も紹介しよう。

▲極東開発工業三木工場
同社の三木工場は来場車両の入退場を守衛が紙書類で管理してきた。同工場は1日平均200台の車両が来場する。しかし、車両待機スペースは限りがあり、入場が複数台に重なると、受付対応での渋滞が発生、ゲート前につながる公道まで入場待ち車両がはみ出すことが危惧されており、受付業務の効率化と、セキュリティーレベル維持の両立が課題となっていた。
同社はFLOWVISを設置し、降車して記帳するドライバー業務と、それに対応する守衛の受付と入場記録業務を効率化。来場頻度の高い車両には、社名、ドライバー名、連絡先電話番号などの記載が必要な申請書提出を依頼、社内確認の上で車両を登録し、FLOWVISシステムによる自動入退場としたことでセキュリティーレベルを維持しつつ、車両の流れが円滑となり渋滞も解消したという。
山間部での管理、セキュリティー確保にもETCが活躍
100年以上の金属製錬事業で知られる神岡鉱業(岐阜県飛騨市)は、自社の神岡鉱山坑内で長年にわたり、鉱石発掘の技術を培っており、鉱山地下空間を利用する技術的財産を保有している。以前より、山菜採りや狩猟などを目的とする、神岡鉱山の敷地内への不法侵入車両が後を絶たないことが問題となっていた。これら車両が大型ダンプトラックの通行を妨げるなど、操業上・安全上の問題が顕在化。山道を南京錠やカード式のゲートで管理することも検討されたが、鍵の又貸しや紛失などへの懸念から断念した経緯がある。

▲神岡鉱業神岡鉱山
同社はFLOWVISを導入することで、登録・未登録に応じてバーゲートを自動制御して車両の不法侵入を防止、大型ダンプトラックの搬送業務の効率化を実現した。また、山間部ゆえに雪や泥、霧でナンバープレートの判別が難しい場合でも、ETCの車両検知・認識が効果を発揮しており、「セキュリティー対策と事故防止、車両入退場の自動化が守衛コストの削減にも貢献し、従業員の働き方改革にも寄与している」(西村氏)という。こうした、工場などでの入退場管理効率化の着実な成果が、物流領域での活用においても参考となることは間違いない。
バース、入退場、誘導など、構内全体最適化へのETC活用
物流領域へのFLOWVIS活用では、バース領域との連携も重要となる。西村氏は荷待ち・荷役削減にトラック(バース)予約受付システムは効果的としながらも、バース領域だけではなく、入退場管理とのスムーズな連携、ドライバーの操作に頼らない運用こそが不可欠と語る。
FLOWVISはトラック予約システム、受付システムなどバース領域との連携、さらには構内車両誘導での電光掲示板や、カメラやパトライトなどとの連動にも優れ、構内作業の全体最適化の基幹となることも期待される。今後必要となる法令対応と効率化の両面で、ETCを物流領域に活用することが、ドライバーの作業に依存しない荷待ち・荷役時間管理を実現する1つの正解として再評価されるのではないだろうか。
「2024年問題を現場から打破せよ〜“トラック予約受付システム”を超える継続的な物流連携の新戦略〜」
<開催日時>
2025年1月17日(金) 13時30分-16時(時間は予定)
視聴形式:オンライン配信(YouTubeライブ)
※ライブ配信に参加が難しい場合は、イベント終了後より期間限定のアーカイブ配信あり。
参 加:無料
定 員:100人 ※アーカイブ配信も要事前申込
申込期限:2025年1月16日(木)16時
<主 催>
「2024年問題を現場から打破せよ」実行委員会(シーイーシー、ハコベル、古野電気、LOGISTICS TODAY)
<詳細・申し込み>
https://www.logi-today.com/702214