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人材獲得と効率化が軸、物流経営を多角的に後押し

2025年1月28日 (火)

話題「令和を代表するメガベンチャーを創る」。その宣言に恥じぬ勢いのまま、設立から5年で全国6拠点、社員400人規模になったスタートアップ企業がある。物流や製造に携わる事業者をDX(デジタルトランスメーション)の力で後押しするX Mile(クロスマイル、東京都新宿区)だ。

結果だけ聞くと順風満帆のサクセスストーリーのようにも聞こえるが、ここまでの道のりは決して平坦なものではなかった。X Mileの創業者でCEOの野呂寛之氏に、創業時の苦労や物流業界への想いを聞いた。

「令和を代表するメガベンチャーを創る」

野呂氏がはじめてX Mile立ち上げのヒントを得たのは大学生の頃だった。当時、同氏はEV(電気自動車)のインフラ整備を目指すベンチャーに在籍し、ベトナムやカンボジアで拠点の立ち上げに携わった。そのなかで物流の重要性に気付いたが、ほかの業界と比べて明らかにアナログな点が多いことが気にかかったという。その後、大学を卒業して金融サービスに関わるスタートアップに参画し、事業責任者として会社を成長させた。顧客のなかには物流会社もあったが、そこで垣間見た日本の物流現場も、やはりアナログな印象だった。

先進国であるはずの日本でもDX化が進んでいない現状を目にして、野呂氏は「物流業界のDX化推進はビジネスになるのではないか」と感じたという。学生時代、現場を見てきた経験も強みになると考えた。こうして2019年、X Mileが誕生した。

▲創業者でCEOの野呂寛之氏

野呂氏は「令和を代表するメガベンチャーを創る」という目標を掲げ、はじめから事業の多角化を考えていた。とはいえ、まずは喫緊の課題である人手不足の解消に取り組むこととし、ドライバーの採用支援サービスに手をつける。

しかし、たった1人で始めた事業は苦労の連続だった。ひとまず自宅のワンルームを拠点としたものの、オフィスも構えられないスタートアップとあってはなかなか信用を得られない。ろくに寝る場所もなく、床に寝袋を敷いて休息をとるような生活を送った。求職中のドライバーを募集するサイトを自分で立ち上げ、面談や運送会社への同行訪問まですべて1人でこなした。そして採用が決まるたびに1人喜びを噛みしめた。そんな日々を過ごすうち、少しずつ案件が増えていき、利用者から感謝されることも多くなった。

「今でこそ2024年問題が注目を集めているが、当時は物流のDX化に対する関心度は低かった。しかし、『DXの力で業界を良くしたい』という想いを真摯(しんし)に訴え続けたことが人々の関心を引き、信頼を得ることにつながったのだと思う」と野呂氏は振り返る。採用支援が軌道に乗ったことで、経営支援や労務管理といったサービスも提供できるようになった。仕事を通じて固く結ばれた利用者との絆が会社の財産だといっても過言ではない。

人手不足解消と業務効率化の2軸で物流業界を支援

X Mileは大きく分けて3つの領域で事業を展開する。

一つは業界に特化した人材採用サービス。同社はドライバー向けの「ドライバーキャリア」や倉庫管理者・運行管理者を対象にした「ロジキャリア」などの転職支援サイトを手がける。また、物流業のほか、建設業や製造業などに特化した求人サイト「X Work」(クロスワーク)も展開。ドライバーはもちろん、整備士や建築士などの転職・採用支援にも力を入れている。

もう一つは、クラウド上で利用できる経営支援サービスで、メインのサービスとなる「ロジポケ」はドライバー採用から労務管理、経営管理までシステム一つで完結する。クラウド型にすることで費用を抑え、システム開発に取り組む余力のない規模の小さな会社でも、容易に導入できるようにした。

「物流や建設の業界は、ソフトウエアだけを提供しても解決できない複雑な問題を抱え、ITやデジタルの知識を持ち合わせてない経営者も多い。人手不足解消と業務効率化の2軸でアプローチしなければ、現状は変えられないと思う」(野呂氏)

昨今は後継者が見つからず、事業継承に悩む経営者も多い。特に規模が小さい運送事業者は、経営者の引退とともに廃業を余儀なくされることもある。X Mileはそうした事業者と、積極的に事業拡大を進めている企業をマッチングする「ロジポケM&A」も手がけている。これが同社が主軸とする3つ目の事業だ。

▲X Mileの主な事業

いずれの事業も順調で、ドライバーキャリアはドライバーの登録数が50万人を超え、業界トップクラスの規模を誇る。同サービスの堅実な成長の裏には、同社の細やかな心配りがあった。

例えば転職支援では無料で求職者の相談に乗り、履歴書の作成や長所の洗い出しまでサポートする。これでドライバーは自分の運転歴や無事故歴、得意な作業、可能な業務範囲などをアピールでき、企業側も探し求めている人材を見つけ出すことができる。

経営管理・労務管理用ツールのロジポケも業界の変化や社会課題に合わせて随時機能の見直しを行っている。また、導入企業には専任サポートがつき、他社の事例なども参考に運用方法などをアドバイスする。

こうした業界の実情を踏まえたサービスを提供できることが、X Mileの強みだ。

コストを賃金に転嫁し、ノンデスクワーカーの地位向上を

X Mileはブルーワーカーのことを「ノンデスクワーカー」と呼び、私たちの衣食住を支える「なくてはならない存在」とする。ドライバーを含むノンデスクワーカーの地位向上も、同社が掲げるミッションの1つだ。そのためにはコストを適正に運賃に転嫁し、ドライバーの賃金を上げる取り組みが必要になる。

「運送事業者が荷主に対して、直接運賃の交渉をするのが理想だが、現状では難しい。賃上げにあたり、説得力のある数字を示せる経営者が少ないからだ。交渉材料をつくるために、私たちがサポートできる余地はかなり大きいと思う」と野呂氏。運送事業者の経営支援をさらに一歩推し進める方針だ。

経営管理システムを利用するなかで蓄積されたデータを使えば、交渉を進めるうえでの客観的な材料になり得るし、双方が折り合える可能性も広がる。既にセミナーやコンサルティングといった形で運送事業者を支援しているが、今後はさらに業界全体の発展に寄与する心づもりだ。

それが「令和を代表するメガベンチャー」への道だと野呂氏は確信している。

一問一答

Q.スタートアップとして、貴社はどのステージにあるとお考えですか?

A. シリーズBと公表していますが、一つ一つの事業規模は小さく、シリーズAくらいのサイズ感だと思っています。私たちが目指している目標に対しては道半ばで、さらに努力していかなければなりません。

Q. 貴社の“出口戦略”、“将来像”についてお聞かせください。

A. メガベンチャーを目標に掲げ、社会から信頼を得て、社員が胸を張って働ける会社を目指しています。いずれは上場し、社会課題を永続的に解決できる公益性の高い事業に取り組む会社へと成長したいと考えています。

「X Mile」ホームページ