国際アラブ首長国連邦(UAE)の空域制限は5月2日に解除された。だが航空便数も貨物運賃もまだ正常化していない。UAE一般民間航空局(GCAA)が同日、2月末以降の一時的な航空交通制限をすべて解除し、通常の航空航行業務の全面再開を発表したものの、便数の戻りは航空会社で温度差がある。航空追跡サービスのフライトレーダー24によると、5月3日時点でエミレーツ航空(UAE)の便数は危機前の88%まで戻ったが、UAE系主要4社合計では73%にとどまる。
EUの航空安全機関EASAはUAEを含む中東・ペルシャ湾岸空域への警戒を5月5日まで維持しており、ルフトハンザやKLMオランダ航空など欧州系を中心とする外国航空会社のドバイ便停止も続く。航空貨物のスポット運賃は中東・南アジア地域発(MESA発)で前年比65%高と高止まりし、ホルムズ海峡周辺の海運リスクも収束していない。航空ハブの再開は物流の正常化を意味するわけではない。(編集長・赤澤裕介)

実便数なお7割台、欧州勢は復便遅れ
GCAAが5月2日に発出した安全速報は、2026年2月28日以降にUAE空域内で適用していた予防的航空交通制限をすべて解除し、通常運用に復帰したと明記した。同速報は航空会社に対し、隣接する飛行情報区(FIR、ICAOの枠組みの下で設定される飛行情報業務・警報業務の空域単位)の公示を確認し、ドバイから先の航路が利用できるかどうかを確認するよう求めている。ドバイ・エアポーツのポール・グリフィス最高経営責任者は、ドバイ国際空港(DXB)が運航拡大局面に入ったと説明している。
実便数の回復ペースは航空会社により温度差がある。フライトレーダー24は3月以降、戦争前の平均日次便数を100として実便数を比較する湾岸航空会社回復指数(GARI)を公開している。同指数で戦争前の便数(2月23〜27日平均)に対する5月3日時点の回復率は表1のとおり。ここでUAE系主要4社はエミレーツ航空、エティハド航空、エア・アラビア(UAE)、フライドバイ(UAE)の4社を指す。
回復率の差は、長距離国際ハブ型のエミレーツ航空がアジア・欧州・アフリカを結ぶ中継機能の復元を先行させている可能性を示唆する。一方、短中距離・LCC系のフライドバイやエア・アラビアでは、需要、周辺空域、空港スロットの制約がより強く残っているとみられる。
DXBが受けた打撃も小さくない。ドバイ・エアポーツの第1四半期業績では、旅客数も貨物量も前年同期比で2割減となり、3月単月の旅客数は3分の1まで落ち込んだ。第1四半期の旅客は1860万人で前年同期2340万人から20.6%減、貨物は39万9600トンで22.7%減、航空機発着回数は8万8000回で20.8%減。3月単月の旅客は250万人で65.7%減と打撃が集中した。
危機期間中の処理量は、ドバイ・エアポーツ管轄のDXBとアル・マクトゥーム国際空港(DWC)合計で、2月28日から4月30日までに600万人超の旅客、3万2000回超の航空機発着、21万3000トンの貨物に達した。完全停止には至らず、空域制限下でも一定の運用継続力を維持していたことになる。
UAE側の宣言と並行して、欧州側の警戒は維持されている。EASAは4月30日、紛争地帯情報通報(CZIB、紛争地域での運航リスクを欧州系キャリアに警告し回避を勧告する公式通報)の中東・湾岸版「2026-03」をR8に改訂し、有効期限を5月5日まで延長した。改訂自体は期間延長で、内容変更はない。R8の本文は、4月8日に発表された米イラン停戦の履行がなお不確実だとして、リスク監視継続の必要性を示している。
EASAは、UAEのエミレーツFIRを含む対象空域について、原則として全高度での運航回避を勧告している。サウジアラビアとオマーンの一部空域については高度別のリスク評価も示した。CZIB R8は5月5日に有効期限を迎える。次回更新で解除・緩和されるか、再延長されるかが、欧州系キャリアの復便判断を左右する。
外国航空会社の運休も続く。各社のドバイ便運休期限は表2のとおりで、5月末から10月までの幅で分散している。ルフトハンザ・グループはパートナー向け公式情報を更新しており、傘下5社のドバイ便停止を7月11日まで延長した。航空会社別運休まとめでは依然「5月31日まで」とする記述も残るが、本稿ではルフトハンザ・エクスパーツのパートナー向け公式情報を優先した。
ドバイ・エアポーツが3月27日付で外国航空会社に通告した発着制限についても、現時点で取り扱いに留意が必要だ。報道で内容が示された同書簡では、4月20日から5月31日までの期間、外国航空会社のドバイ空港向け運航を1日1往復規模に制限する方針が示され、エミレーツ航空とフライドバイは「国家緊急運用計画への組み込み」として制限対象外とされた。5月2日のGCAAによる空域通常運用再開後も、同キャップが解除されたとの公式発表は5月4日時点で確認できていない。空域制限が解除されても、空港側のスロット・発着容量制約が外国航空会社の復便ペースを抑える可能性が残る。同制限は、ドバイ路線の計画便数が多かったインド系航空会社への影響が特に大きいと報じられている。
航空貨物市場ではキャパシティ不足は縮小しつつ、運賃水準はなお高止まりしており、正常化と呼べる下落局面には入っていない。オランダに本拠を置き、世界の航空貨物実取引データを週次集計する航空貨物市場データ会社のワールドACDの第16週(4月13〜19日)報告で示された水準は表3のとおり。ワールドACDは「米・イスラエルによるイラン攻撃開始(2月28日)以来、世界平均スポットレートの週次上昇幅としては最小」とし、容量回復に伴って上昇ペースが鈍化しつつあるものの、危機前比では依然40%の高水準にあると指摘した。MESA発キャパシティの危機前比不足は第15週の35%から第16週には30%へ、湾岸地域は53%から46%へ縮小した。
5月4日に公表された第17週(4月20〜26日)報告でも、MESA発スポットレートは1キロ4.65ドル、前年比65%高と、第16週からの高止まりが続いている。MESAは中東・南アジアを含む広域集計であり、ドバイ単独またはUAE単独の運賃を示すものではない点には留意が必要だ。供給制約は縮小傾向にあるが、価格水準はなお危機時の高止まりを維持している。表3が示すのは、第16週にMESA発が前週比で下落した一方、世界平均はなお小幅上昇したという対比だ。
UAEハブの便数回復は、貨物専用機(フレイター)だけでなく、旅客機の床下貨物室を使うベリー貨物のスペースが戻ることを意味する。ただし、欧州系キャリアの復便遅れと、海運リスクによる航空シフト需要が残るため、旅客便の床下スペースが戻っても、それが直ちに運賃低下につながってはいない。
海運リスクは未収束のままだ。国連の海事専門機関である国際海事機関(IMO)は4月24日のブリーフィングで、ペルシャ湾とホルムズ海峡周辺で29件の船舶攻撃を確認、少なくとも10人の船員が死亡し、2万人の船員が1600隻の船舶上で湾内に滞留していると発表した。アルセニオ・ドミンゲス事務局長は、ホルムズ海峡のいかなる場所にも安全な通航はないと述べた。
船舶追跡データ会社ケプラーと衛星解析会社シンマックスのデータでは、ホルムズ海峡の通過船舶数は直近1日あたり7隻前後にとどまる。危機前の平常時は1日125〜140隻が通過しており、現在の通航量は1割未満の水準だ。ケプラーのリスク管理部門マネージャー、ディミトリス・アンパッツィディス氏は、過去2カ月のホルムズ通過量が危機前のおよそ5%水準まで落ち込んだと指摘した。
ホルムズ海峡の通航不安は、海上輸送のリードタイム延長と戦争保険・燃料コスト上昇を通じ、納期厳守を要するタイムクリティカル貨物の航空シフトを促す。航空キャパが回復に転じてもスポットレートが下がりにくい背景がここにある。
トランプ米大統領は5月3日、中立国船舶の出航支援作戦「プロジェクト・フリーダム」を発表した。中東・中央アジアを管轄する米軍の地域統合軍である米中央軍(CENTCOM)は、5月4日から同作戦への支援を開始すると公表し、誘導ミサイル駆逐艦、陸上・艦載機100機超、マルチドメイン無人プラットフォーム、兵員1万5000人を支援対象に含めると発表した。
複数の米当局者は報道に対し、同作戦は従来型の護衛随伴を必ずしも意味せず、米海軍艦艇の近接展開と安全な航路情報の提供が中心になるとの見方を示している。CENTCOMは対イラン海上封鎖の維持も明記しており、プロジェクト・フリーダムはホルムズ海峡の完全な自由航行回復ではなく、制限下での船舶退避・通航支援に近い位置づけとなる。
トランプ米大統領の発表後にイランが米海軍に警告し、5月3日にUAE・フジャイラ北方78海里でタンカーが正体不明の発射体により被弾したと報じられた(UKMTOアタック052-26、乗員全員無事)。
日本荷主、燃油負担と代替路維持
日系大手では、日本航空(JAL)が通常時に自社運航する羽田・ドーハ線(JL59・JL50)の運航見合わせを続けている。JALは安全が十分に保たれることを確認できるまで両便を見合わせるとし、4月24日に羽田発5月31日まで、ドーハ発6月1日まで延長を発表した。全日本空輸(ANA)はUAE・GCC方面への自社定期旅客便を運航していない。
旅客燃油特別付加運賃は両社とも5月1日〜6月30日発券分から大幅に引き上げられた。両社の運賃は燃料価格水準別のゾーン区分(A〜R、Aが0円、Rが最も高水準)で決まる仕組みで、アジア域内ジェット燃料価格の代表的指標であるシンガポール・ケロシンの2カ月平均が1バレル146.99ドル、為替156.99円、円換算2万3076円で本来ゾーンRに該当するが、政府の緊急的激変緩和措置(資源・エネルギー価格高騰時の補助金制度)を踏まえてゾーンQ(2万2000円基準)が適用された。日本発の北米・欧州・中東・オセアニア線片道は、ANA、JALともに5万6000円となった。4月発券分のJAL2万9000円、ANA3万1900円から大幅な上昇となる。
ANAカーゴの日本発国際貨物燃油サーチャージは5月1日以降のAWB(航空運送状)から見直された。4月前半のシンガポール・ケロシン平均は1バレル214.01ドルで本来「210ドル以上215ドル未満」テーブル相当だが、激変緩和措置の特例で「190ドル以上195ドル未満」テーブルが適用される。北米・欧州・中東・オセアニアなど長距離は1キロ当たり226円となる。4月中旬適用の247円からは下がるものの、4月初めの78円と比べれば3倍水準にある。日本貨物航空(NCA)も同一基準を適用する。
ANAホールディングスは3月27日、ANAカーゴ、NCA、NCAジャパンの貨物3社を27年4月1日付で統合する計画を発表した。NCAが存続会社となり、航空運送事業許可を維持する。26年4月からは統合に向けた海外販売窓口の段階的一元化と、中部・関西の上屋集約が始動している。中東危機下で販売・手配体制の一元化が進むことは、日本発国際貨物の代替ルート調達にも影響する可能性がある。
外務省はUAE全土に対する危険情報を3月5日に「レベル3:渡航中止勧告」へ引き上げ、5月4日時点で継続している。GCAAの空域全面再開と外務省レベル3の継続は併存し、企業の出張承認、駐在員・技術者派遣、現地倉庫や物流拠点への監査・立ち会いに影響が及ぶ。航空便が戻っても、人の移動を伴う物流実務は正常化しにくい。海上混載を扱うNVOCC(非船舶運航業者。自社で船舶を持たずに混載輸送を手配する海上フォワーダー)ではEFS(緊急燃油サーチャージ。危機時に船社などが運賃に上乗せする一時的な追加費用)導入が広がっており、航空・海上の双方で追加コストの転嫁が課題となっている。
日本の荷主・フォワーダーが直近で確認すべき判断軸は、(1)中東経由スペースの巻き戻しを5月中に急がず、ドバイ経由とドーハ、イスタンブール、中央アジア経由を比較継続すること(2)緊急サーチャージの転嫁条項を契約条件で再点検すること(3)6月以降の欧州系復便とEASA更新を見極めたうえでスポット調達方針を見直すこと(4)海運のホルムズリスクが残る限り、航空運賃は下がりにくいと前提を置くこと(5)ANAグループ貨物3社の販売一元化が日本発貨物のスペース調達、問い合わせ窓口、代替ルート手配に与える影響を継続把握すること——の5点。
次の焦点は5月5日のEASA更新となる。CZIBが解除・緩和されれば欧州系キャリアの復便判断に弾みがつき、延長されればUAE当局の正常化宣言と欧州側の安全評価のズレが続く。
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