
▲M&A成約式で握手を交わす丸運の中村正幸社長(左)と中村運輸機工の中村雅浩社長(右)
M&A創業130年超の歴史を持つ丸運は4月1日付で、重量物輸送や据付工事を得意とする中村運輸機工(東京都大田区)の全株式を取得し、グループ会社化した。これを受け、M&Aを仲介した日本M&Aセンター(千代田区)の主催により、16日、都内でM&A成約式が開催された。式典では、丸運の中村正幸社長、中村運輸機工の中村雅浩社長が、今回の決断に至った経緯や背景、そして今後の展望について語り、物流・運送業界におけるM&Aの意義と未来像を示した。(編集部・鶴岡昇平)
■「涙が出るぐらい感謝」 中村運輸機工社長、M&A決断の背景語る
中村運輸機工の中村雅浩社長は、M&Aを決断した直接的なきっかけが、自身が心筋梗塞で倒れた経験にあったことを明かした。同社は従業員10人程度の規模ながら、大手顧客の重量物輸送・据付工事などを全国で手掛けてきた。「現場にも出て、計画から一切をほとんど私がやってきた」という中村社長は、50代後半で徹夜作業明けに倒れ、緊急搬送された。「まさか倒れてずっと入院するとは。あり得ないと考えていた」と当時を振り返る。

▲M&Aに至る経緯と丸運への感謝を述べた中村運輸機工・中村雅浩社長
入院中も現場が気になり、「本当は抜け出しちゃいけないんだけど、そっと抜け出して電話して指示を出したりしていた」というが、同時に「この仕事がうまくいかなくなってしまうのでは」「自分が(急に)いなくなったらどうしたらいいんだろう」という強い不安に駆られた。「震えが出てくる」ほどの不安のなかで、事業の将来と従業員の生活を守るための選択肢としてM&Aを考え始めた。
当初は「すごい不安だった」というM&Aだが、日本M&Aセンターの担当者と話すなかで徐々に信頼関係が生まれ、丸運との縁につながった。「丸運という社名は幼い頃から『のらくろ』で親しんでいた。いろいろな縁が重なった」とも語り、「従業員は人数は少ないが、一生懸命やる人たち。何も言わずにやってくれていることに、すごい感謝している。今回、本当に良いご縁をいただき、涙が出るぐらい感謝している。安心して任せられる」と、丸運グループ入りへの期待と安堵感を述べた。社員へは早い段階で経緯を説明し、理解を得られたという。
■丸運社長「一騎当千の人材」、機工事業強化へ強い期待
丸運の中村正幸社長は、今回のM&Aが、2022年に策定した「2030丸運グループ長期ビジョン」に基づく成長戦略の重要な一環であると強調した。「機工事業は当社の強みであり、専門性が高く今後も成長が見込める、非常に大事な事業だと位置付けている」と述べ、同分野への注力を改めて示した。

▲中村運輸機工の中村雅浩社長に対し、感謝と今後の方針を語った丸運の中村正幸社長
その上で、中村運輸機工については、「50年近くにわたり培われた機工のノウハウ、そして何よりそこで働いている方々の技能、スペシャリストとしての力にすごく期待している」と高く評価。「中村運輸機工様は10人程度の規模だが、それぞれが『一騎当千』のプロフェッショナル。しっかりした現場管理ができる方々がいることは、さらに協力会社の幅を広げ、事業を拡大していく上で大きな力になる」と語った。
丸運自身も機工事業を手掛けているが、「今現在持っているリソースだけでは、お客様からの引き合いがあっても手が回らないことがある」という課題を抱えており、中村運輸機工のグループ化は、人材・技術力の獲得による体制強化の面でも大きな意味を持つ。「今回のM&Aは、我々の事業拡大における重要かつ大きな一歩。今後もこの分野でのM&Aを積極的に検討し、仲間を増やしていきたい」と、さらなるM&Aへの意欲も見せた。
■グループ運営とシナジー、「1+1」を「3にも4にも」
今後の運営について、丸運の中村正幸社長は「グループの一社として、丸運のスタンダードである安全管理などを共有しながら一緒にやっていく。中村雅浩社長には引き続き経営を担っていただき、従来の事業も継続していただく。その上で、我々の事業も手伝っていただく形になる」と説明。社名も当面は維持する方針だ。
具体的なシナジーとしては、近年需要が増しているデータセンターや工場向けの受変電設備据付事業などを強化していく考えを示した。さらに、「日本国内だけでなく、海外も含めて展開していきたい。日本のお客様が海外で機械を据え付けるといったニーズにも応えていきたい」と、グローバルな視点での事業拡大にも言及した。

▲成約式後、関係者による記念撮影
■丸運流M&Aの基準「シナジー」「共感」「対等な関係」
中村正幸社長は、丸運がM&Aの相手を選定する上での基準についても言及。「基本的には、我々がやりたいことについてシナジー効果があるかどうかが大前提。飛び地の会社(全く関連のない事業)を買うことは考えていない」と明言。その上で、「中村運輸機工様は我々のビジネスに完全に合致し、体制強化に必要な人材も含めてパーフェクトだった」と述べた。
さらに重視するのが、相手企業との関係性だという。「単純に売上や利益を合算して規模を大きくするという考え方はない。1+1が2ではなく、3にも4にも5にもなるようなM&Aを期待している」とし、「それには、相手様のあることなので、私どものことを知っていただき、それに共感していただいて、『一緒にやっていきましょう』と言ってくださる会社様が一番大事。資本参加して上に乗っかるのではなく、一緒になってやっていくというスタンスで考えている」と、対等なパートナーシップを重視する姿勢を強調した。
今回のM&Aは、事業承継に悩む中小企業と、専門分野の強化・拡大を目指す大手企業双方のニーズが合致し、互いへの理解と共感をベースに実現した。ポスト24年問題で業界再編が加速するとみられるなか、一つのモデルケースとなりそうだ。
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