ロジスティクス銀行員から転身し、求荷求車マッチングサービス「トラボックス」の立ち上げに参画した、トラボックス取締役会長、吉岡泰一郎氏。創業以来、25年にわたって運送業と関わってきた吉岡氏が一念発起し、54歳にして大型免許の取得に挑戦。その顛末を吉岡氏自身の手記で紹介します。
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とうとう教習がスタート!
教習所の待合室で、自分の子供らと同世代の若者と並んで、実習の開始チャイムを待つ。若者たちは乗用車の免許取得のためにここに来ているが、私の目的はトラックの免許取得である。
教習の開始を告げるチャイムが鳴り、担当教官の元へ行き、教習簿を渡す。「吉岡さん、免許を確認させてください」。免許証を渡して確認してもらい、実習が始まる。

▲教習所のトラック。全長は12メートル
「教習は初めてですね?では、最初に助手席に乗ってください。ドアを開ける前にキチンと前後を確認をして、両手でゆっくり上がってください」
大型トラックの助手席には乗ったことがあるし、トラックショーでは展示車の運転席にも座ったこともある。しかし、この時は、ぎこちなく助手席に座った(ように思う)。
緊張しながらも、教官の一挙手一投足から目が離せない。「全長は12メートルあります。運転席の下に前輪タイヤがあり、後輪は荷台の切れ目のあたりです。乗用車とは別物を運転する気でいてください」。教官が運転するトラックの助手席に乗り、所内の外周を回りながら教官の説明を聞く。
やがて教官は、スタートした位置にトラックを止めて言った。「では、運転席へ乗ってください」
「…もう、私の番?」。それが本音だった。
とにかく「左折」が難しい
マニュアル車の運転自体も久しぶりである。前回いつ乗ったのかを思い出せない。18歳から今までの我が家の自家用車は、全てオートマ車だ。
運転席に座り、シートの位置を確認して、シートベルトを締める。教官から「日頃、(中型の)トラックに乗るお仕事ではないですよね?」と聞かれた。
もうバレた。「はい。トラックに乗る仕事ではありません。そもそもマニュアル車も、本当に久しぶりです。」と自白した。
少し気楽になったのも束の間、久々のマニュアル車運転である。(この時から、卒業まで一度もエンストをすることはありませんでしたが、緊張で2速でスタートするところを、お隣のバックギアに入れて進もうとしたことは片手くらいの回数ありました。)
発進したはいいが、スピードが怖くて出せない。そして、所内の左カーブ、左折。これが、とにかく怖い。
右折は問題ないのに、左折では「ハンドルを切るのが早過ぎます。それだと縁石に乗り上げます」「もっと前に突っ込んで、そこからハンドルを切ります」「ここの左カープは対向車が見えたら、横断歩道前でストップです。すれ違った時に後ろの荷台が対向車にぶつかります」──などなど、毎回何か言われてしまう。
正直、1限目から落第、センスが無いから辞めるべきではないかと思った。「すみません。私の運転は怖かったですよね…」。

▲教習後に教官からもらった名刺。メッセージが入ったものもある
しかし、教官のコメントは思ったものとは違った。「初めてにしては上出来です。あとは感覚と慣れです。今日は乗用車で帰りますか?もし、運転するなら、特に気をつけてください。とにかく、がんばって!」と言われ、教官から笑顔で名刺を渡された。
行きと同じく、帰りも教習所の送迎バスで帰路についた。結局、卒業まで、教習所へは全て送迎バスに乗り、自家用車では通学しなかった。そして教習が終わるまでに教官からいただいた名刺はゆうに10枚を越えた。メッセージが書き込まれた名刺を含め、全て大切に保管してある。