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ENEOSと三菱商事、SS配送拠点事業化に手応え

2025年6月4日 (水)

ロジスティクスENEOSと三菱商事が共同で、全国のサービスステーション(SS、ガソリンスタンド)を活用したラストワンマイル(LOM、ラストマイル)配送支援サービスの実証実験を進めている。2023年8月に設立した合弁会社「Life Hub Network(ライフハブネットワーク、LHN)」を通じて、EC(電子商取引)サイトや宅配事業者の荷物を一時保管し、ギグワーカーが最終配送を担う新しい物流モデルの構築を目指している。

▲右から三菱商事地球環境エネルギーグループ石油ソリューション本部リファイナリー事業部 リテール・事業開発チームシニアマネージャー(事業開発/ラストワンマイルプロジェクト)田村太郎氏、ENEOSプラットフォーマー事業部事業開発グループ ・グループマネジャー 重藤希見子氏

ENEOSプラットフォーマー事業部からLHNに参画している重藤希見子氏は「SSに新しいサービスを追加することで、より便利でお客様に必要とされる拠点にするためプロジェクトを進めている」と説明する。従来のガソリン・軽油やカーメンテナンスの販売に加え、物流拠点としての機能を付加することで、空きスペースを有効活用した新たな事業を開発することが狙いだ。「SSにとってトラックをたくさん運用している物流企業は、大事なお客様であり、こうした物流企業・業界に役に立つサービスを提供したいという思いがある」

三菱商事は総合商社である一方、同社の子会社である三菱商事エネルギーはENEOSブランドSSにおいて重要な役割を担っている。石油製品の販売においては、長年にわたるビジネスパートナーシップを築いてきた。近年ではカーボンニュートラル・循環型社会の実現に向けた事業などで存在の連携も深まる中、両者の持つSSに関する知見やノウハウを生かして始まったのが同事業ということになる。

三菱商事からLHNに参画している田村太郎氏は「ラストワンマイル配送の領域は非常に可能性を秘めている。モビリティーやECが拡大する中で、消費財の商業流通をより効率化することで脱炭素にも繋がる」と取り組みの意義を語る。

現在は実証段階として、大手EC事業者から単品商品を扱うEC事業者、大手・中小の宅配事業者まで幅広い荷主と連携。最長で2022年から継続的に実証実験を行っている事業者もある。

3つの配送パターンで実証

LHNでは現在、3つの配送パターンで実証実験を行っている。「Aパターン」は荷主がSSまで荷物を運び、そこからLHNが配送を担当。「Bパターン」はLHNが荷主の配送センターから荷物をピックアップし、支線配送とラストワンマイル配送の両方を実施するというもの。「Cパターン」は荷主がサービスステーションに運んだ荷物を、荷主側が配送も行う、または消費者が直接受け取るクロスドッキング方式だ。CパターンではLHNは輸送に関してはノータッチとなる。

LHNが考えるSSを活用したLOM事業モデル(出所:Life Hub Network)

実証実験は2020年頃から検討を開始し、2023年1月にプレスリリースを発表。現在は1都3県で展開しており、最大で100か所ほどのSSを活用した実験も実施した。荷物はロールボックス(カゴ台車)を単位として扱い、1日1-2サイクルの運用を基本としている。

荷物の保管には新規に倉庫の建設などは行わず、SSの規模に応じた台数のカゴ台車に荷物を保管。荷物はこのカゴ台車に収まる大きさまでに限定されている。また、SSは消防法に基づき周囲に防火壁を設ける必要があり、防火壁を越える高さのカゴ台車を配置しないようにするなどの安全上の工夫がなされている。

▲SSで使用されるカゴ台車。防火壁より低い高さのものを使用する(出所:Life Hub Network)

新たな働き手の参画促進

配送の最終段階では、セルフィット(東京都新宿区)のマッチングアプリ「DIAq」(ダイヤク)を活用し、個人事業主やギグワーカーが配送を担当する。重藤氏は「プロのドライバーが一日中配送業務に従事するのではなく、短時間だけ働きたい方も参画できる新しいモデル」と特徴を説明する。ダイヤクは運送向けのクラウドソーシングアプリで、多くのフードデリバリー同様、ラストワンマイル配送の案件が発生すると近隣エリアのギグワーカーに通知が行き、ワーカーが荷物をピックアップして配達を行う仕組み。

実際に最大規模の実証実験では、参加者のおよそ半数が軽貨物車両を使った個人事業主で、軽貨物以外ではフードデリバリーと兼業する働き手も多かったという。田村氏は「フードデリバリーのビジータイムはお昼時と夕方以降。デリバリーを担うギグワーカーは午前中や昼から夕方の時間帯はアイドルタイムとなるが、その時間をラストワンマイル配送の仕事で埋めることができる」とした上で、「育児や介護でフルタイムで働けない方が、スポット的に短時間働けるという評価の声もあり、多様な働き方の創出にもつながっている」と新たな雇用創出効果に言及した。料理ができあがったら即座に配達しなければならないフードデリバリーと比べると、ECなどの配送はリードタイムを長く取ることもでき、時間的制約が緩やかなことでさまざまな人が働きやすい雇用の創出という側面もあるようだ。

▲物流企業、SS、多様な働き手にメリットを提供(出所:Life Hub Network)

一方で、複数の事業者との連携には課題もある。田村氏は「各社それぞれ異なるやり方や品質・ルールがあり、共同配送を実現するための最大公約数を見つけることが重要」と指摘。荷主からのさまざまな伝票や情報を共通言語に翻訳し、配送パートナーに連携するシステムの標準化が急務となっている。データ連係や効率化を通じて、共同輸配送も目指すという。

母体となる2社にはいずれも宅配に関する輸配送のノウハウは持ち合わせていない。そのため、広く荷主や物流事業者等、関心を持つパートナーとの共創を念頭に置いている。例えば、荷主からの荷物のピックアップは協力会社によるものであり、荷主拠点からSSまでの支線輸送の安定確保も課題となっている。

田村氏は「荷主、運び手、SS店舗からそれぞれに好感触を得ており、手応えは感じている」と現状を評価する。

重藤氏も「物流の人手不足とEC需要の拡大を考えると、是非サービスを事業化してほしいと評価もいただいているので、オペレーションを磨き込み、早期に拠点拡大を目指したい」と事業化への意欲を示す。

現在は6月から拠点を拡大し、200か所の配送エリアでの継続運用を予定。事業化を念頭に、さらなる拡大を目指す。

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LOGISTICS TODAY編集部
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