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ホルムズ危機、燃料価格に分かれた政策の差

2026年5月5日 (火)

国際中東情勢の悪化を受け、2026年1月から5月上旬にかけて主要国・地域の燃料小売価格には強い上昇圧力がかかった。ただし、実際の上昇率には国・地域により大きな差が出ている。米国は6割前後の急騰、欧州ではガソリンが2割前後、ディーゼルは3割台まで上昇した国もあった。中国は上限価格統制で本来の引き上げ幅を一部抑制したが上限価格自体は2割台まで上昇し、タイは3月末の30バーツ/L上限失効後に4割前後まで上がった。一方、インド主要都市の店頭価格、サウジアラビアのガソリン、インドネシアの補助対象燃料(ペルタライト、補助ディーゼル)、日本は据置から1割前後にとどまった。インドネシアの非補助系ディーゼルは、デックスライトがほぼ2倍、ペルタミナ・デックスが2倍超に跳ね上がり、補助対象と非補助で価格動向が二極化している。原油高の衝撃を消費者価格、税収減、補助金、国営・民間企業の損益のいずれに転嫁したかという政策手段の差が、価格動向の違いとして表れた。日本のレギュラーガソリン全国平均は4月27日時点169.7円で、政府の170円目標を維持。物流業界は補助金縮小局面の対応、燃料サーチャージの見直し、26年4月施行の物流統括管理者(CLO)制度の中長期計画への組込みを並行して進める局面に入っている。(編集長・赤澤裕介)

米国については、米エネルギー情報局(EIA)の26年1月平均小売価格、レギュラー1ガロン2.81ドル、ディーゼル3.52ドルを基準に、米国自動車協会(AAA)の5月4日全米平均、レギュラー4.457ドル、ディーゼル5.641ドルと比較すると、ガソリンは58.6%、ディーゼルは60.3%上昇した。EIA同一系列の週次データでは、4月27日時点でレギュラー1ガロン4.123ドル、ディーゼル5.351ドルとなっており、1月比はそれぞれ46.7%、52.0%となる。

EIAの石油行政地区(PADD)別データでは、カリフォルニア州を含む西海岸(PADD5)が1ガロン5.412ドル、中西部(PADD2)は3.884ドルで、ガソリンの地域差は1.528ドルに開いた。

国際比較でみると、現地通貨建ての小売価格動向には政策類型の違いが表れている。比較時点は国・地域により異なり、米国は5月4日、欧州・日本・香港・中国は4月下旬、インドネシアは5月4日、サウジアラビアは4月時点、タイは5月1日を基準とした。

米国は転嫁、欧州は税制で緩衝、アジアは統制、日本は国費・税制

各国の上昇率の差は、原油高の衝撃を消費者価格、税収減、補助金、国営・民間企業の損益のいずれに転嫁したかの違いとして表れている。

米国は連邦・州合算のガソリン税が1ガロン52セント程度で、小売価格に占める税の割合は12%程度にとどまる。連邦レベルで日本型の店頭価格補助制度はなく、政府はSPR放出で需給緩和を図る一方、ジョーンズ法免除によって国内沿岸輸送の制約緩和を図っている。SPRは計画1億7200万バレルのうち4月24日週時点で1750万バレルを放出した。ジョーンズ法免除は3月17日に発動、4月24日に5月18日から8月中旬まで90日延長された。

ただし、SPR放出の価格抑制効果は限定的とみられる。米財務省が2022年に公表した試算では、22年の1億8000万バレル規模のSPR放出について、米国単独で1ガロン13〜31セント、別手法で33セント、国際エネルギー機関(IEA)協調枠と合わせた場合は17〜42セント、別手法で38セントの抑制効果とされている。

欧州先進国は固定税とVATの比重が大きく、原油価格の上昇率が小売価格にそのまま反映されにくくなっている。ドイツは5月1日から6月30日までエネルギー税を1リットル14.04セント引き下げる時限措置を導入した。VAT分を含めて店頭価格への効果は1リットル17セント程度となる見込みで、連邦財務省は事業費を16億ユーロと見込んでいる。

フランスは全国一律の家計向け小売価格補助には踏み込まず、トタルエナジーズ(TotalEnergies)が4月8日から全国3300のサービスステーション(SS)で価格上限を設けている。5月はガソリン1リットル1.99ユーロ、ディーゼル2.25ユーロを上限とする運用を中東情勢継続中は維持する方針を表明している。

中国、インド、インドネシア、サウジアラビアなどは、補助金、価格統制、国営企業の負担、政府上限により家計価格への転嫁を抑えた。中国はNDRCが3月9日、3月23日、4月7日、4月21日の4回にわたり国内石油製品価格を調整し、3月23日には本来1トンあたり2205元(ガソリン)、2120元(ディーゼル)の引き上げとなるところを臨時調控で1160元、1115元に圧縮した。GlobalPetrolPricesのNDRC系価格系列では、4月27日時点の小売上限価格は3か月前比でガソリン+24.6%、ディーゼル+27.0%上昇している。

インドネシアはペルタライト(Pertalite、オクタン90、補助対象)を1リットル1万ルピア、バイオソーラー(補助対象軽油)を同6800ルピアに固定し、経済価格との差額はペルタミナ(Pertamina、インドネシア・ジャカルタ)の損益と政府補助・補償会計で吸収している。一方、非補助油種は市場連動で、ペルタマックス・ターボ(オクタン98)は1月1日の1リットル1万3400ルピアから5月4日に同1万9900ルピアへ48.5%、デックスライト(中位ディーゼル)は同1万3500ルピアから2万6000ルピアへ92.6%、ペルタミナ・デックス(高位ディーゼル)は同1万3600ルピアから2万7900ルピアへ105.1%上昇した。非補助ディーゼルを利用する物流事業者では、燃料コストが1月比でほぼ2倍から2倍超に膨らむ。エネルギー資源確保支出は26年予算で381.3兆ルピア、財務相は補正予算で100兆ルピアの追加要求を表明している。

インドの石油・天然ガス省は3月27日付で物品税をガソリン、ディーゼルとも1リットル10ルピー引き下げた。ただし、削減分は店頭小売価格に反映されず、原油急騰下での国営石油元売(OMC、IOC、BPCL、HPCL)の損失補填(under-recovery)に充当する運用となっている。デリーなど主要都市の店頭小売価格は1月以降、ガソリン、ディーゼルとも据え置かれている。

サウジアラムコ(Saudi Aramco)公式価格では、4月時点でガソリン91は1リットル2.18リヤル、ガソリン95は2.33リヤル、ディーゼルは1.79リヤル。ガソリン91、95は政府上限下で固定、ディーゼルは年1回の年次レビュー方式で26年1月1日に25年の1.66リヤル/Lから1.79リヤル/Lへ7.8%引き上げ後、年内固定で運用している。

タイはアジア・中東のなかで例外的な動きをした。30バーツ/L上限を3月17日までの措置としていたが、その後延長を経て3月31日で失効。バンコク地方税を除くバンチャック(Bangchak)公表小売価格で見ると、ガソホール95は1月9日の1リットル30.85バーツから5月1日に同43.30バーツへ40.4%、ディーゼルB7は同29.94バーツから40.80バーツへ36.3%上昇した。一方、油基金(Oil Fuel Fund)による補助は継続・拡大しており、4月24日時点のディーゼルB7小売は1リットル40.20バーツ、油基金赤字は622.7億バーツとなった。

日本は燃料油価格定額引下げ措置を変動型で運用し、レギュラーガソリン全国平均1リットル170円を超過した分を補助単価で吸収する設計を取っている。ガソリン補助単価は3月19日週30.2円、3月26日週48.1円、4月2日週49.8円(ピーク)、4月9日週48.8円と推移した後、4月16〜22日週35.5円、4月23〜29日週30.9円へ縮小、4月30日〜5月13日週は中東情勢悪化を受けて39.7円へ再拡大した。

ガソリン暫定税率(1リットル25.1円)は25年12月31日、軽油暫定税率(同17.1円)は26年4月1日にそれぞれ廃止された。両税率分は25年11月27日から補助単価に上乗せして先行支給されていたため、4月1日以降の軽油補助単価縮小は補助金支給枠から税制本体に振り替わった結果で、店頭価格に対する追加の値下げ効果はない。22年1月の制度開始以降の関連予算は、累計予算計上額で8兆1719億円(野村総合研究所試算)、追加分を含めると9兆円規模に達している。

備蓄面では、高市早苗首相が3月11日に民間備蓄義務量の引き下げ(70日分→55日分、15日分相当)と国家備蓄原油1か月分の放出方針を示し、合計45日分・8000万バレル規模の対応を表明した。エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は3月16日に緊急放出対策本部を設置し、3月24日の経済産業省による国家備蓄原油放出決定を受け、3月26日以降、苫小牧東部、菊間、白島、上五島、志布志の各国家石油備蓄基地で国家備蓄原油を順次放出している。

航空サーチャージはJAL、ANAが5月1日発券分から旅客便の欧州・北米・中東・オセアニア向け片道を1人5万6000円に設定した。これは4月のJAL2万9000円(1.93倍)、ANA3万1900円(1.76倍)からの大幅引き上げにあたる。JALは2〜3月のシンガポールケロシン平均と為替からゾーンR相当となるところ、政府補助の効果を踏まえてゾーンQを適用したと公式に明記。ANAも、政府の緊急的激変緩和措置による航空機燃料補助の効果を踏まえ、5月1日〜6月30日購入分の運賃額を軽減したと公表している。

陸運大手のフェデックス(FedEx)は5月4〜10日適用のFedEx Ground系燃料サーチャージを26.50%に設定。UPSは4月13日発効のテーブルで全米平均軽油価格1ガロン5.35〜5.44ドルなら27.00%を適用する設計で、いずれも週次変動制となっている。米郵便公社(USPS)は4月26日から27年1月17日まで臨時8%サーチャージを導入した。

日本では国土交通省が3月27日に運賃転嫁・燃料サーチャージ制の周知を表明し、全日本トラック協会(全ト協)は同日の「燃料高騰危機突破総決起大会」で激変緩和措置の継続を要請した。

CLO制度は26年4月1日に施行され、年間9万トン以上を取り扱う特定荷主・特定連鎖化事業者は、物流統括管理者(CLO)の選任が義務付けられた。一定規模以上の特定事業者には、中長期計画の作成と定期報告も求められる。特定荷主・特定連鎖化事業者の対象は上位3200社程度とされる。中長期計画書の初回提出期限は26年10月末で、燃料サーチャージの基準価格と改定頻度、荷主との契約条項、積載率、共同配送比率、荷待ち・荷役時間、モーダルシフト率を計画と定期報告のKPIにどう組み込むかが実務上の焦点となっている。

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