国際米国の軽油小売価格が1ガロン5.641ドルに達し、1月の3.52ドルから60.3%上昇した。原油急騰、税負担の薄さ、カリフォルニア州での製油所連続閉鎖、戦略石油備蓄(SPR)放出効果の限定、欧州向け輸出の継続が同時並行で進行し、店頭価格に直接転嫁された。連邦議会下院では4月14日に「26年ガソリン輸出禁止法案」が提出されたが、トランプ政権は4月20日、米国防生産法(DPA)303条に基づき国内増産支援の大統領決定を出し、5月初旬時点では輸出制限には踏み込んでいない。フェデックス(FedEx)は米国軽油価格の上昇をGround系燃料サーチャージに反映し、日本航空(JAL)、全日本空輸(ANA)は国際ジェット燃料価格と為替を基準に5月発券分の燃油サーチャージを引き上げている。(編集長・赤澤裕介)
米国自動車協会(AAA)の5月4日全米平均で軽油は1ガロン5.641ドル、米エネルギー情報局(EIA)の26年1月平均3.52ドルから60.3%上昇した。EIA同一系列の4月27日値5.351ドルでも52.0%上昇となる。ガソリンの全米平均上昇率(EIA1月→AAA5月4日)58.6%を軽油上昇率が上回り、ガソリンより軽油の上昇率と絶対価格が高い状態が続いている。
EIAの石油行政地区(PADD)別データでは、4月27日のガソリン平均価格が西海岸(PADD5)5.412ドル、中西部(PADD2)3.884ドルで、地域差は1ガロン1.528ドルに開いた。軽油でも西海岸(PADD5)は同6.530ドル、中西部(PADD2)は5.131ドルで、地域差は同1.399ドルとなった。米国の燃料市場は地域別の精製能力と輸送制約に大きく左右され、なかでも西海岸は他地域からの代替供給が限られる。
米国の燃料税は連邦ガソリン税1ガロン18.4セント、連邦ディーゼル税同24.4セント、州税の全国平均34セント程度で、ガソリン合算52セント前後、ディーゼル合算58セント前後にとどまる。5月上旬の高騰後価格を前提にすると、小売価格に占める税の比率はガソリンで1割強、軽油で1割前後となる。欧州先進国は固定税と付加価値税(VAT)合算で50%を超える国が多い。日本は従来、税負担が大きかったが、25年末のガソリン暫定税率廃止、26年4月の軽油暫定税率廃止により、税制と補助金の組み合わせで価格を抑える運用に移っている。税負担の比重が大きい国ほど原油上昇分は店頭価格上昇率に薄まりやすく、米国の場合は原油上昇分が小売価格にほぼ直接転嫁される。
カリフォルニア州の精製能力縮小は西海岸の地域差を広げた。フィリップス66(Phillips 66、米テキサス州ヒューストン)のウィルミントン製油所(日量13万9000バレル)は25年後半に段階的に閉鎖され、バレロ(Valero Energy、米テキサス州サンアントニオ)のベニシア製油所(同14万5000バレル)も26年4月に閉鎖した。両製油所を合わせると日量28万4000バレルの能力が失われ、州内精製能力の2割前後に相当する。地域差はガソリン1.528ドル、軽油1.399ドルにまで開き、その主要な背景となっている。

米エネルギー省はSPRからの放出を継続している。同省は3月11日に1億7200万バレルのSPR放出計画を発表し、EIAによると3月20日週から4月24日週までの実放出は1750万バレルだった。米財務省が22年に公表した試算では、22年の1億8000万バレル規模のSPR放出について、米国単独で1ガロン13〜31セント、別手法で33セント、国際エネルギー機関(IEA)協調枠と合わせた場合は17〜42セント、別手法で38セントの抑制効果とされている。今回の計画総量は22年放出と近いが、4月24日時点の実放出はその1割程度にとどまり、短期の価格抑制効果は限定的とみられる。
ジョーンズ法免除は、Department of War(DOW)の要請を受け、米国土安全保障省(DHS)が3月17日に限定免除を認め、米税関国境警備局(CBP)が関連ガイダンスを公表した。同法は1920年に制定され、米国内の沿岸間輸送には米国籍船の使用を求めている。免除は当初5月17日までの60日間で、4月24日に90日延長され、5月18日から8月中旬まで継続する。米国メキシコ湾岸の精製品を西海岸へ輸送する際の船舶制約を緩和する措置だが、対象は特定貨物、期間に限定され、軽油の全米平均価格に対する効果は確認されていない。
世界の中間留分(ディーゼル、ジェット燃料、灯油など)需給は4月以降、一段と引き締まっている。北海ブレント原油は1月平均1バレル64ドル台から3月に100ドル前後へ上昇し、4月下旬から5月初旬には110ドル台で推移した。IEAは4月の月例石油市場報告(Oil Market Report)で、中東と、原料制約を受けたアジアの製油所が原油処理量を日量600万バレル削減したと指摘し、製品市場では中間留分クラックが過去最高水準に達したと整理した。EIAによると、米国の欧州向け軽油輸出は25年1月の日量16万7000バレルから26年1月には同39万6000バレルへ倍増した。3月にはKpler集計で米国のクリーン石油製品(clean petroleum products)輸出が日量311万バレル、欧州向けは同41万4000バレルとなった。
米国の原油、石油製品の輸出は4月24日週、EIAデータで日量1418万バレルの過去最高水準に達した。バレロは1〜3月期決算で純利益13億ドルを計上し、25年1〜3月期の5億9500万ドルの赤字から黒字に転じた。精製部門の営業利益は18億ドルで、精製マージンの上昇、なかでもディーゼル、ジェット燃料のマージン拡大が寄与した。
輸出制限論を退け、増産支援に動く
連邦議会下院では4月14日、ロー・カンナ議員(民主党、カリフォルニア州第17選挙区)が「26年ガソリン輸出禁止法案」(下院議案第8266号、H.R.8266)を提出した。下院外交委員会に付託されている。法案はガソリンのみを対象としており、軽油は対象に含まれていない。5月初旬時点で確認できる主要な輸出制限法案はH.R.8266にとどまる。
トランプ政権は4月20日、DPA303条に基づき、国内の石油生産、精製、物流の能力を国防上重要な産業資源と位置付ける大統領決定を出した。同条項は購入、購入コミットメント、金融支援、ローン保証、コストシェアなどを通じて国内生産能力を拡大する枠組みで運用される。米国石油協会(API)、米国燃料、石油化学製造業者協会(AFPM)は、精製品の輸出制限が在庫、供給、価格、同盟国への供給支援に悪影響を与えるとの主張を維持しており、22年のジェニファー・グランホルム前エネルギー長官書簡への反論論理を踏襲している。
カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は連邦の輸出制限を要求せず、価格透明性に関する州規制(SBx1-2、ABx2-1、AB30によるE15許可)で対応している。4月30日には連邦の中東政策を「トランプのイラン戦争税」と表現し批判したが、輸出制限論には言及していない。米連邦取引委員会(FTC)による正式な反トラスト調査開始は、5月初旬時点で公表資料からは確認できない。エリザベス・ウォーレン上院議員が3月23日付で出した調査要請書簡への回答状況も明らかになっていない。
学術系では、コロンビア大学グローバルエネルギー政策センター(CGEP)などのエネルギー政策専門家が、原油輸出制限について、米国産WTI原油と北海ブレントの価格差(WTI-Brentスプレッド)拡大、米国内生産インセンティブの低下を通じて逆効果となるリスクを指摘している。米国産シェールオイルが硫黄分の少ない軽質スイート系で、米国内の精製業者は中東産を中心とする硫黄分の多い重質サワー原油向けに設備が最適化されているミスマッチもあり、輸出を止めても米国内精製業者は国産軽質スイートを直ちに代替投入できない、との論点も共通している。
米国の物流業界では、軽油上昇を週次の燃料サーチャージで吸収している。フェデックスは5月4〜10日適用のFedEx Ground系燃料サーチャージを26.50%に設定。UPSは4月13日発効のテーブルで全米平均軽油価格1ガロン5.35〜5.44ドルなら27.00%を適用する設計を採っており、いずれも週次で更新される。米郵便公社(USPS)は4月26日から27年1月17日までの臨時8%サーチャージを導入した。米国湾岸の軽油卸価格は欧州、アジアの精製品市場の参照価格として機能している。日本のJAL、ANAは5月1日発券分から旅客便の欧州、北米、中東、オセアニア向け片道を1人5万6000円に設定し、JALは2〜3月のシンガポールケロシン平均と為替からゾーンR相当となるところ、政府補助の効果を踏まえてゾーンQを適用したと公表している。
米国軽油60%上昇の背景には、税負担の薄さによる原油上昇分の直接転嫁、西海岸の精製能力縮小による地域差拡大、SPR放出とジョーンズ法免除の効果の限定、欧州向け軽油輸出の拡大が国内需給を引き締める圧力として作用したことが並行している。連邦議会の輸出禁止法案は4月14日の提出後、5月初旬時点で外交委員会段階にとどまり、政権はDPA303条による国内増産支援の方針を表明している。米国の原油、石油製品の輸出は4月24日週に日量1418万バレルの過去最高水準に達し、欧州向け軽油輸出は25年1月の同16万7000バレルから26年1月に同39万6000バレルへ倍増した。
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