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ホルムズ危機、補助金縮小へアジア各国の出口戦略は

2026年5月5日 (火)

環境・CSRホルムズ海峡の通航制限を端緒とする原油急騰局面で、アジア各国は補助金、価格統制、企業負担の組み合わせで店頭価格を吸収している。日本は燃料油価格定額引下げ措置の補助単価を週次で変動させ、4月30日〜5月13日週は39.7円/Lに再拡大した。インドネシアは補助対象油種を据え置き、非補助油種を市場連動で引き上げた。タイは1リットル30バーツの小売上限を3月31日に失効させ、油基金による補助を継続・拡大した。中国は国家発展改革委員会(NDRC)の上限価格と臨時調控を続ける。各国の出口設計は財政負担、企業負担、市場移行の比重で分かれ、物流コストの跳ね返りに段差が出ている。(編集長・赤澤裕介)

日本の燃料油価格定額引下げ措置のガソリン補助単価は、3月19日週の30.2円から3月26日週48.1円、4月2日週49.8円のピークを挟み、4月23〜29日週に30.9円まで縮んだ。4月30日〜5月13日週には39.7円に再拡大している。資源エネルギー庁発表のレギュラーガソリン全国平均は4月27日時点で169.7円/L。野村総合研究所の試算では、2022年1月の制度開始以降の関連予算計上額は8兆1719億円、追加分を含めて9兆円規模に達する。25年12月31日に廃止されたガソリン暫定税率25.1円/Lと、26年4月1日に廃止された軽油暫定税率17.1円/Lは段階的に補助単価へ振替えられ、ガソリンは25年12月11日に同水準25.1円/L、軽油は25年11月27日に同水準17.1円/Lまで先行拡充された。4月以降の軽油補助単価縮小は税制本体への振替分で、店頭への追加値下げ効果は出ていない。

インドネシアでは、補助対象のペルタライト(オクタン90)が1リットル1万ルピア、バイオソーラー(補助対象軽油)が同6800ルピアで1月から据え置かれている。非補助のペルタミナ(Pertamina、インドネシア・ジャカルタ)系油種は市場連動で動いた。1月1日と5月4日の小売価格を比べると、ペルタマックス・ターボ(オクタン98)は1万3400→1万9900ルピア(48.5%増)、デックスライトは1万3500→2万6000ルピア(92.6%増、ほぼ2倍)、ペルタミナ・デックスは1万3600→2万7900ルピア(105.1%増、2倍超)。26年予算では、燃料・電力価格を抑えるためのエネルギー補助金・補償支払いとして381.3兆ルピアが計上されている。プルバヤ(Purbaya)財務相は4月、追加補助が最大100兆ルピア規模に達する可能性を示した。

タイは1リットル30バーツの小売上限を3月17日まで運用したのち、延長を経て3月31日に失効させた。バンコク地方税を除くバンチャク(Bangchak Corporation、タイ・バンコク)公表小売価格でガソホール95は1月9日30.85→5月1日43.30バーツ/L(40.4%増)、ディーゼルB7は29.94→40.80バーツ/L(36.3%増)。タイ油基金は4月24日時点で622.7億バーツの赤字を抱える。中国はNDRCが3月9日に1トン当たりガソリン695元、ディーゼル670元を引上げ、3月23日には本来2205元、2120元とすべき調整を1160元、1115元に圧縮する臨時調控を出した。4月7日に420元、400元の引上げ、4月21日に555元、530元の引下げ。GlobalPetrolPricesのNDRC系価格系列で4月27日小売上限は3か月前比でガソリン24.6%、ディーゼル27.0%。

インドは石油・天然ガス省が3月27日付でガソリン、ディーゼル物品税を1リットル10ルピー引き下げたが、削減分は店頭に反映されず、原油急騰下のIOC、BPCL、HPCLなどOMC(Oil Marketing Company)の損失補填(under-recovery)に充当した。デリーの店頭はガソリン94.77ルピー/L、ディーゼル87.67ルピー/Lで1月以降据置となっている。サウジアラビアはガソリン91が1リットル2.18リヤル、ガソリン95が2.33リヤルで21年7月以降、政府上限下で固定。ディーゼルは年次レビュー方式で、26年1月1日に1.66→1.79リヤルに引上げ(7.8%増)、年内固定とした。本稿執筆時点では5月分価格を未確認。

アジア各国の出口戦略と物流コスト感応度

ここでいう出口戦略は、補助金や価格上限で抑えた燃料価格を、財政負担、企業負担、店頭価格のどこへ戻していくかという設計を指す。

各国の出口設計は3つの吸収器に整理できる。財政・基金負担吸収型は、日本の燃料油価格定額引下げ措置(関連予算計上額9兆円規模)、タイの油基金(赤字622.7億バーツ)、インドネシアの補助・補償会計と追加補助最大100兆ルピア規模の可能性に表れる。日本は国費・税収減、タイは油基金、インドネシアは補助・補償会計という形で、負担の器は異なる。国営企業・統制価格吸収型は、インドのOMC損失補填、サウジアラビアの政府上限、NDRCによる中国の小売上限価格管理で見られる。ただし中国は上限価格自体が3か月前比でガソリン24.6%、ディーゼル27.0%上昇しており、物流コスト感応度は低ではなく中程度に置くべきだ。市場移行型は、インドネシアの非補助ディーゼル、タイの30バーツ上限失効後のディーゼルB7に表れる。

物流コスト感応度はこの分類でおおむね符合する。インドではOMCの損失補填、サウジでは政府上限下の国内価格体系が緩衝役を担い、物流業者の燃料調達コストは安定している。中国はNDRCの臨時調控で本来の引上げ幅を圧縮したが、小売上限価格自体は3か月前比でガソリン24.6%、ディーゼル27.0%上昇しており、物流コスト感応度は中程度とみるべきだ。市場移行型を選ぶインドネシアの非補助ディーゼル、タイの上限失効後のディーゼルB7では、これらの油種を使う物流業者が直接の値上がりを被る。非補助ディーゼルを使う物流事業者では、燃料費がほぼ2倍から2倍超に膨らみ、長距離輸送の運賃見直し圧力が強まっている。

日本では、24年告示で燃料サーチャージの基準価格が軽油120円/Lに置かれた。これに対し、3月30日時点の軽油全国平均は補助込みで159.0円/Lだった。当時の軽油補助単価65.2円/Lを単純に上乗せした補助なし参考水準は224円/L台となり、標準的運賃の前提との差は100円/Lを超える。サーチャージ条項を補助単価の変動に合わせて見直す必要性が高まっている。

日本の補助縮小局面の物流コスト試算では、補助単価が30.2円/Lから49.8円ピークを挟み、再び39.7円に拡大する週次の変動が続く。1台の大型トラックの月間燃料消費を1500リットルと仮定すると、補助単価10円/Lの変動は月1万5000円に相当する。補助による月間軽減額は、ピーク49.8円/L時で7万4700円、30.2円/L時で4万5300円となる。49.8円/Lと30.2円/Lの差は19.6円/Lで、月間1500L消費なら2万9400円の変動要因となる。物流統括管理者(CLO)制度は26年4月1日に施行され、年間9万トン以上を取り扱う特定荷主、特定連鎖化事業者は上位3200社程度とされる。一定規模以上の特定事業者には中長期計画、定期報告が求められ、特定荷主、特定連鎖化事業者には、指定後速やかにCLO選任届出が求められる。初年度の中長期計画提出期限は26年10月末。補助縮小局面では、荷主との契約で「補助込み店頭価格」を基準にするか、「補助なし参考価格」を基準にするかが争点になる。CLOの中長期計画では、燃料サーチャージの基準価格、改定頻度、補助単価変動時の契約条項を明文化する必要がある。

米国内配送を含むサプライチェーンでは、軽油上昇を週次燃料サーチャージで吸収する動きが強まっている。フェデックス陸運系の5月4〜10日サーチャージは26.50%、UPSは4月13日発効テーブルで全米平均軽油5.35〜5.44ドル時点なら27.00%を適用する設計で、米郵政公社(USPS)も4月26日〜27年1月17日の臨時8%サーチャージを導入した。アジア発貨物でも、米国内配送区間を含む場合には最終配送コスト上昇として波及する。

国土交通省やトラック業界団体は、運賃転嫁、燃料サーチャージ制の周知を進めている。全日本トラック協会は3月27日に「燃料高騰危機突破総決起大会」を開いた。運賃転嫁が進まない中小運送業者では、補助縮小と原油動向の二重の負担が経営を圧迫している。

補助金、価格統制、企業負担という3つの吸収器の出口設計は、アジア各国で性質を違える。市場移行が進む油種は物流コストに直接跳ね返り、価格統制が残る油種でも上限価格自体の引上げは物流コストへ波及する。日本の燃料油価格定額引下げ措置は財政負担吸収型に位置づけられ、出口設計は週次変動と税制本体への振替分の組み合わせで進む。


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