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JILS、人的資本開示の方向性を提言

2025年6月12日 (木)

調査・データ日本ロジスティクスシステム協会(JILS)は11日、物流業界での人的資本経営の高度化と情報開示の充実を図るため、「魅力ある物流企業に向けた人的資本開示の論点整理」を取りまとめて公表した。有価証券報告書で人的資本の情報開示が義務付けられたことから、投資家や大学生向けにどのような情報を開示したらよいのか、提言している。

人的資本とは、企業に所属する社員や従業員ら人材が持つ知識やスキル、経験、能力のことで、こうした情報を開示することを、人的資本開示と言う。

具体的には人材育成の取り組みや実績、社員の定着率や離職率、男女の待遇差、育児休業の実績、コンプライアンスへの取り組み、健康対策、労災防止対策などが含まれる。

JILSでは人手不足や高齢化、多重下請け構造といった業界特有の課題を抱える物流業界で、企業が投資家や大学生らに魅力を感じてもらうには、どのような人的資本状況を開示すればよいのかを検討するため、昨年3月に「物流企業の人的資本経営推進委員会」(委員長、円谷昭一・一橋大学大学院教授)を発足し、議論を進めてきた。

論点整理では、トラックドライバーは全産業比で労働時間が長く、賃金は低いうえ、人材の減少、高年齢化傾向が続くと分析したうえで、社会がデフレ脱却へと向かうなか、物流業界の価格転嫁は全業種比で遅れており、国土交通省や公正取引委員会による監視や取締りも強化されていると指摘。労働環境は改善の途上にあるとした。

投資家の関心が高い人的資本開示に対しても物流業界は消極的で、陸運業(物流)や倉庫・運輸関連業では人材戦略で平均を下回る項目が多い。このため、課題解決を牽引する経営人材の育成とともに、運送を担う現場の人材の働き方改革を推進し、発信する必要があるとした。

さらに、物流業界の課題解決のために自社が果たすべき役割と、その実現のための経営戦略を明確化し、採用・育成方針を示すほか、成長意欲・課題解決意欲を持つ人材に活躍の場を提供し、エンゲージメント向上と動機づけを図るといった提言を行った。また、多重下請け構造への対応として、料金改定や価格転嫁の実績を分析し、適正な収受や支払いを推進すべきだとしている。

大学生向けの情報開示では、上場物流企業の人的資本開示は、全体的には低い水準にとどまっており、ドライバーや協力会社の人的資本に関する開示はほとんど行われていないと指摘。同じ2024年問題の影響を受ける建設業と比較しても、物流企業の人的資本開示の水準は相対的に低いとした。

就職先を検討する大学生は、研修や従業員のエンゲージメント、離職率、労働災害に関する情報への関心が高い。このため、研修については、どの職種についている従業員がどんな研修を受けているのか、研修への参加率などを開示し、エンゲージメントでは年齢別のスコアを開示するのが良いとした。離職率などの人材の流動性でも数値を公表し、労働災害については事故の内容や対策を開示すべきだとしている。

JILSでは「人的資本の開示は、投資家からの信頼獲得はもちろん、優秀な人材の確保・定着にもつながる。今後は、こうした情報を適切に発信できる企業ほど市場や社会から選ばれる存在になっていく」としている。

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LOGISTICS TODAY編集部
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