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今後の成田空港施設の機能強化に関する検討会

第2の開港へ、年間300万トン航空貨物ハブ構想

2025年8月13日 (水)

ロジスティクス物流が大きな変革期を迎えている中、未来を見据えた政府主導の検討会が活発に議論を重ねています。夏休みはこれらの重要な政策動向を振り返り、理解を深める絶好の機会。今回は「今後の成田空港施設の機能強化に関する検討会」を取り上げます。

アジアの空の覇権を巡る熾烈な競争が激化するなか、成田空港は果たして「東洋の玄関口」としての威光を取り戻せるのか──。

国土交通省航空局は、「今後の成田空港施設の機能強化に関する検討会」を設置し、成田国際空港の国際航空物流ハブとしての競争力強化に向けた本格的な議論を開始した。同検討会では、C滑走路の新設やB滑走路の延伸といった「更なる機能強化」事業と連動し、航空貨物施設の集約化と機能向上を通じて、東アジア最重要空港としての地位確立を目指す。

▲(左上)B滑走路を2500mから3500mに(右上)3500mのC滑走路と関連施設を新設(出所:国交省)

検討会で示される方針により、物流事業者は処理能力の大幅向上、コスト削減、リードタイム短縮といった大きなメリットを享受できる見込みだ。成田空港は現在、年間発着回数30万回から50万回への拡大を計画し、2029年3月の機能強化完了を目標にした。発着回数の大幅増加に伴い、航空貨物量は年間300万トンに達すると見込む。現在の貨物取扱施設の容量(年間280万トン)では対応できなくなるため、抜本的な施設整備が急務だ。

国際ハブ空港としての競争力維持・強化が目的

検討会は日本の国際競争力確保に向け、成田空港の競争力維持・強化を図るのが目的だ。検討会は学識経験者や関係事業者などで構成され、2024年9月に発足し、貨物施設の整備について重点的に検討してきた。委員長には山内弘隆・武蔵野大学経営学部特任教授氏が就任。委員には航空会社、鉄道事業者、空港運営会社などの関係機関が参加し、多角的な視点から議論を進める。

▲検討会で示された成田空港の地理的優位性(出所:国土交通省)

成田国際空港社(千葉県成田市)は、22年10月に独自の「『新しい成田空港』構想検討会」を設置し、24年7月にとりまとめを国に報告している。国の検討会は、この構想を受けて設置した。より具体的な施設整備の方向性を検討する役割を担う。

成田空港の貨物取扱施設は78年の開港以降、段階的に整備され、空港内で複数に分散した貨物地区や貨物上屋が存在する。施設規模は延べ34万平方メートルに及び、24年の年間取扱量は194万トンに上る。フォワーダー施設は空港周辺に点在しており、効率的な物流フローの実現が課題だ。

年間発着数が50万回に達すると、航空貨物量は年間300万トンと見込まれ、現在の成田空港の貨物取扱施設の容量では扱いきれなくなる。この処理能力不足は、日本の国際競争力低下に直結する重大な問題となっている。航空貨物においても、首都圏空港の発着容量限界や施設の狭さ、施設整備の難しさから、構造的な課題が複数存在している。

▲羽田空港は既に年間発着数49万回を達成しており、成田空港が50万回に達すると首都圏で100万回が見えてくる

半導体など精密機器や農林水産品の集積基地として期待

貨物需要を引き付ける、質を備えた施設にするには、人手不足に対応した効率化も求められている。貨物やそれを運ぶトラックの動線、働き手の確保、自動化や機械化による働きやすい労働環境整備などが重要課題だ。航空物流分野でも人口減少などに伴い慢性的に人手が不足し、成田空港と周辺でも顕在化している。

検討会の中間とりまとめでは、新貨物地区に関して「エアサイド、ランドサイド、空港外を含め、総合的に安全で円滑かつ柔軟な貨物の流れを実現するように設計すべき」と提言している。既存の貨物地区やフォワーダー施設といった国際航空物流機能を1か所に集約して設置することで、コストやリードタイムなどの削減を実現することが必要と指摘している。空港隣接地との一体的な運用も、航空物流拠点としての付加価値を生むと見ている。新貨物地区では、最新の物流技術を導入し、デジタル化による業務効率化も推進する予定となっている。貨物上屋やフォワーダー施設を集約し、空港隣接地と一体的に運用できる新貨物地区の整備が望ましいとしている。

検討会は最終的なとりまとめに向けてさらなる検討を進める予定だ。成田空港会社を中心とした整備計画の策定を求めている。新滑走路の供用開始まで4年を切っており、具体的な整備計画の策定が急務だ。

▲新旅客ターミナルと新貨物地区の配置イメージ(出所:国土交通省)

ヒューリックと日本航空が国際物流拠点「WING NRT」を共同運営

既に民間企業による具体的な動きも始動。ヒューリックと日本航空は、成田市下福田地区において航空上屋施設と物流施設を一体化した国内初の国際物流拠点「WING NRT」の運営を共同で進めることで合意した。全体土地面積45万平方メートルの広大な用地で、27年の建築工事着手、29年の開業を目指している。

▲WING NRTは成田空港の近接地に位置、国内初の航空上屋と物流機能の一体運用となる(出所:JAL)

検討会は東アジアにおける最重要空港として、成田空港の地位確立を目指している。「第2の開港」とも呼べる大規模な機能強化により、国際貨物のハブ空港機能が大幅に強化される見込みだ。処理能力の大幅向上により、半導体をはじめとする精密機器、リチウム電池、越境EC、医薬品などに加えて、政府が輸出拡大を掲げる農林水産品の集積基地としての役割が期待できる。検討会の構想は成田を起点とした物流ネットワークが世界の経済動脈と融合し、貿易の新たな結節点を形成するというもの。これにより、経済安全保障の観点から、海外依存のサプライチェーンを「母国回帰」させる呼び水としても機能すると見ている。

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