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第三回物流DX会議:ラウンドテーブルレポート前編

ガラパゴス化と「肌感覚」運営からの脱却を議論

2025年8月27日 (水)

ロジスティクス物流業界が直面するのは、もはや「課題」という生易しい言葉では表現しきれない構造的危機だ。

人手不足は業界の血管を細らせ、長時間労働は働き手の心を蝕み、多重下請け構造は利益を霧散させる。この三位一体の難題に対し、業界はいかなる処方箋を描こうとしているのかーー。

22日にLOGISTICS TODAYが主催したオンラインイベント「第三回物流DX会議」では、ライブ配信のセッションの裏側で、荷主、物流会社、ソリューションベンダーが物流の未来について議論するラウンドテーブルを開催した。本稿では、その模様を前後編にわたって紹介する。

▲ラウンドテーブルの様子

各卓はさながら業界変革を賭けた知恵比べの舞台と化した。現場を知り尽くした実務家と革新を志す変革者が膝を突き合わせ、理想と現実の狭間で真摯な対話を重ねた。

物流業界が直面する構造的危機に対し、変革の第一歩は現状の正確な把握から始まる。「第三回物流DX会議」のラウンドテーブル前半では、「現在の課題とあるべき姿」をテーマに、業界の最前線に立つ実務家たちがテーブルを囲んだ。個別最適の追求が招いた非効率、データに基づかない旧弊な意思決定――。浮き彫りになった根深い課題に対し、参加者はそれぞれの知見をぶつけ合い、未来への処方箋を模索した。

「システムのガラパゴス化」と、標準化への抵抗感

▲ラウンドテーブルの参加企業(クリックで拡大)

議論の中心となったのは、部分最適を繰り返した結果、システム全体が複雑化・非効率化する「システムのガラパゴス化」の問題だ。特に、現場ごとに独自にカスタマイズされ硬直化したWMS(倉庫管理システム)などが、新たなロボット導入やシステム連携の大きな障壁となっている実態が共有された。

さらに、システム間の「情報の分断」も深刻な課題として挙げられた。企業や拠点ごとに「カゴ車」と「パレット」の呼称が違うなど、基本的な用語すら統一されておらず、データ分析やAI導入の大きな足かせとなっている。こうした個別最適化は、荷主の要望に応えるための長年の現場努力の結晶でもあるため、標準化を進めることは現場のアイデンティティを否定することにもつながり、強い心理的な抵抗感を生んでいるとの分析も示された

この根深い課題に対し、5年から10年先を見据えた危機感を経営層から現場まで共有することが変革の第一歩だとの指摘があった。労働人口減少といった共通課題を、各社が競争する領域ではなく業界全体で取り組むべき「協調領域」と認識を改め、成功事例を積極的に開示・共有する文化を醸成すべきだとの意見で一致した

▲ラウンドテーブルの様子

「肌感覚」運営からの脱却と新たな人材活用

続いて、データに基づかない「肌感覚」による現場運営からの脱却が大きなテーマとなった。DHLなど海外企業の合理的なオペレーションと比較し、日本の物流現場には未だ勘や経験に頼る部分が多く、データに基づいた改善の必要性が強く訴えられた
▲ラウンドテーブルの様子

また、日本の物流は高品質な一方で、無料再配達に代表されるような過剰な付加価値サービスが多く、その見直しが急務であると指摘があった。労働者のニーズが短時間労働へと変化している現状も共有され、従来の長時間労働を前提としたオペレーションでは人材確保が困難になっているとの声が上がった。CLO(最高物流責任者)の重要性が強調される一方、義務化によって実態の伴わない「名ばかりCLO」が生まれることへの懸念も示された

解決策として、業界の垣根を越えた共同配送の推進や 、パレット・コンテナの標準化 、さらにはさまざまな事情で運転業務に従事できないドライバーを倉庫作業で活用したり 、他業界から人材を呼び込むためのリスキリング事業を立ち上げたりと 、既成概念にとらわれない多様な人材活用のアイデアを議論した。

▲ラウンドテーブルの様子

協調と標準化で描く未来への処方箋

全体の議論を通じて、多くの企業が個別最適の限界を認識しつつも、変革への具体的な一歩を踏み出せずにいる現状が明らかになった。システムの標準化や業界横断でのデータ連携、協調領域の確立といった「全体最適」への道筋は示されている。これを実現するには、自社の利益追求という発想を超え、業界全体の発展を目指すという共通認識の醸成が不可欠だ。今回の対話は、そのための信頼関係を構築する第一歩として、大きな意義を持つものとなった。

>>【ラウンドテーブルレポート後編に続く】「課題解決に向けた業界変革の処方箋を模索」

■「第三回物流DX会議」配信会場で併催されたラウンドテーブルの模様(前編)

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