ロジスティクススタンダード運輸(神奈川県海老名市)は、タカラスタンダードの専属輸送を担い、住宅設備の輸送を主業務としてきた。1972年の創業以来、安定した荷主基盤を持つ同社だが、近年は環境対応を前面に打ち出し、脱炭素経営を企業戦略の柱に据えている。大手の物流企業や荷主企業で脱炭素などの取り組みを行うことは今では珍しくないが、同社のように社員数100人規模の運送業ではあまり見かけない取り組みである。なぜこうした取り組みをはじめたのか。また、それによる影響や、今後の見通しなどを聞いた。

▲スタンダード運輸の小林猛社長
同社が環境負荷低減を目指す原点となったのは2000年代初頭の排ガス規制である。都内でのディーゼル車乗り入れ禁止を受け、同社は車両の半分以上を入れ替えることを余儀なくされた。同社の小林猛社長は当時を振り返り「輸送は環境に優しくないというイメージが強烈に残った」と語る。ディーゼル車はどうしても環境に負荷をかけてしまうという認識を持った経験が、のちに脱炭素への本格的な取り組みを進める出発点となった。

▲ESG推進本部の須貝栄二脱炭素経営チームリーダー
その後同社がCO2排出量の可視化に踏み切ったのは18年のこと。排出量可視化の体制構築を現場で指揮した同社ESG推進本部脱炭素経営チームリーダーの須貝栄二氏は、「およそ100台の車両について過去5年間のデータを請求書やレシートから拾い上げ、排出量を算出」したという。また、「燃料代の記録はあっても、入力の仕方にばらつきがあり、数値が正確でなかったり不ぞろいであったため、データを正す作業に時間を要した。さらに、車両ごとの月間使用量を確認し直し、明らかにおかしい数値を修正するために夜遅くまで作業が続くこともあった」と振り返っている。
同社では当初18年を基準に削減目標を設定したが、その後事業が拡大するにつれ、排出量の絶対値は増加せざるを得なかった。これへの対応として、従来の燃料使用量を基準とする「燃料法」での排出量算出から、輸送実績を加味する「トンキロ法」へと切り替えた。燃料法では単純に投入した燃料の総量から排出量を計算するため、拠点や車両が増えると事業規模の拡大分まで排出量が膨らんで見えてしまう。これに対し、トンキロ法は輸送した貨物の重量と距離を組み合わせて算定する方式であり、効率的な運行や積載率の改善といった努力が数値に反映される。

▲同社は6台のEVを導入。写真は同社が導入したいすゞ自動車「エルフミオ」(出所:スタンダード運輸)
同社は、車両面ではEV(電気自動車)導入を推進。住宅現場向けの配送には小型トラックが多く、同社の取り組みとEVとの相性は良い。現在はいすゞ「エルフ」など6台を導入し、神奈川県内100キロ前後の配送に対応している。事業所には200V充電器を2基設置し、翌日の運行に支障はない。小林氏によると、「運転手からは静かで快適で、アイドリングせずにエアコンを使えると好評」だという。

▲エルフミオは充電設備のコストがあまりかからず導入しやすいという(出所:スタンダード運輸)
一方で、現場で大量に廃棄される梱包材の問題も環境対応の対象とした。かつて小林氏は「工場から出荷された製品は大量の梱包材にくるまれているが、設置先では産業廃棄物として捨てるだけの存在となってしまうことに課題を感じていた」と言い、解決策としてリサイクル業者と連携して産廃ではなく再資源化ルートに乗せる取り組みを始めた。さらに静岡県の再生プラスチック会社を買収。トラック用輪止めや公園の擬木を製造する事業を展開し、輪止めでは市場シェア7割を占めている。
こうした取り組みは若手人材や女性ドライバーの応募を後押ししている。平均年齢は40代後半ながら20代も在籍し、普通免許で運転できる小型EVトラックは女性ドライバーの増加につながっている。面接時には「環境や健康を大切にする会社だから働いてみたい」という声も聞かれ、採用競争の激しい物流業界において差別化要因となっているという。

▲同社の点呼場。労務管理と連携し、毎日の記録とその保管を着実にこなしている
同社では運行管理のためのデジタルシステムを導入。排出量の算出に必要な運行データを取る以外に、労務管理にも役立てている。東海電子のアルコールチェックやデジタコを全車両に展開し、出退勤や休憩時間を正確に記録することで、長時間労働の是正と残業未払いの防止につなげた。さらに、富士通のITプラットフォームを活用して5年以上にわたり運行データを一元管理している。小林氏によると、「交通事故の発生も大きく減るとともに、保険料の掛け金が安く抑えられるという効果も出ている」という。
同社にとって法令順守は最低限守るべきライン。小林氏によれば時には、「改善基準告示の範囲内でできない運行は断ることもある」という。法令に則った経営のためにも、各種デジタルツールは無くてはならないものなのだ。
「どうせやらなければならないことなら、先んじて取り組みたい」と語る小林氏。環境対応をコストではなく差別化の手段と捉え、輸送とリサイクルを組み合わせた資源循環型モデルをさらに推し進めていくという。
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