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月額5万円台が開く、EVトラック普及への突破口

2025年11月28日 (金)

記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「eMotion Fleet、3トンEVトラックを定額制で提供」(10月31日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

ロジスティクスEV(電気自動車)トラック導入を阻む障壁といえば価格だ。その常識に一石を投じるサービスが登場した。EV車両の「導入」「運用」「最適化」を一気通貫で担う企業「eMotion Fleet」(イーモーションフリート、東京都品川区)が提供するアセットマネジメントサービス「EV Fleet as a Service」(イーブイ・フリート・アズ・ア・サービス)だ。

月額5万3000円から──。この数字は、中小企業にとってもEVトラックが現実的な選択肢になったことを意味する。経済的ハードルを大幅に下げ、脱炭素化への扉を広く開け放つ試みといえる。

▲eMotion Fleet社長の白木秀司氏(出所:eMotion Fleet)

このプランの妙味は東京都の「ゼロエミッション東京」実現に向けた補助金という“追い風”を捉えた点だ。白木秀司社長は「ディーゼルトラックのメンテナンスリースと同等、いや、それ以下の価格を実現した。車両本体はもちろん、充電器、FMS(運行管理システム)、EMS(エネルギーマネジメントシステム)、メンテナンスまで必要なものを盛り込んで提供する。自動車保険と一部消耗品を除けば、EV運用に必要なものを月額定額制の5万3000円で賄える」と説明する。事業者は複数の業者と個別に契約する手間から解放されるわけだ。

残価リスク負担と実用車両の選定

この低価格の秘密は、同社が残価リスクを負担する独自の仕組みにある。白木氏いわく「EVはエンジン車より維持費が安く、燃料代も抑えられる」と語る。こうした“後から効く”メリットを先読みすることで、最初の壁を低くしたというわけだ。

車両はZO MOTORS(ゾー・モーターズ、中央区)が手がける3トンEVトラック「ZM6」を採用した。最大積載量3トン、航続距離200キロという堅実なスペックだ。バッテリー容量は88.5キロワット時。普通充電なら8時間、急速充電なら2時間で満充電になる。車両総重量7.5トン未満だから準中型免許で運転できるため、ドライバーの確保も比較的容易だ。白木氏は「性能、コスト、取引関係を天秤にかけた結果。実用性と費用対効果を重視した」と語る。

▲アセットマネジメントサービス「EV Fleet as a Service」はEVトラック車両、充電器、FMS、メンテナンスを一体で提供する

データ活用による伴走型支援

白木氏が語る差別化の肝は、実に明快だ。FMSとEMSを掛け合わせ、運行の可視化から安全運転支援、電費管理、充電制御まで一気通貫で実現した。「データに基づく運用支援により、EVに不慣れな事業者でも安心して運用できる環境を整えた」と白木氏。充電タイミングの最適化や電費の改善提案など、ソフトがハードを支える仕掛けだ。つまり、単なる車両リースの看板を掲げた丸投げサービスではない。運用の全体像を見据えた伴走型支援というわけだ。

▲FMSによる車両及び運行状況の可視化によって、ランニングコスト管理やCO2削減管理、安全管理対策が可能に(出所:eMotion fleet)

サービスは産声を上げたばかりで、実績はこれから積み上げる段階だ。だが、市場は歓迎ムードだ。白木氏によれば「大手物流事業者の委託先など、サプライチェーン全体の排出量削減に本腰を入れる企業から引き合いが来ている」という。

委託先の中小事業者にとって、環境対応は避けて通れぬ宿題となった。経済的負担を抑えながらEVを導入できるこのプランは、まさに渡りに船だろう。脱炭素化の波は大企業の看板だけでは収まらない。取引先の中小事業者にも確実に押し寄せている。このプランは環境対応と経済性という二兎を追う中小事業者にとって、数少ない現実的な選択肢となりそうだ。

日本全体のEV化という難題に挑む

自社の利益を追うのは当然だが、白木氏の眼差しは一企業の枠を超え、日本全体のEV化という難題に注いでいる。「日本のEV普及が遅れているのには理由がある。国産メーカーの開発スピード、ハイブリッド技術への傾倒、自動車産業という巨大な雇用の守りなど、こうした構造が絡み合い、EV化へのアクセルを踏み切れずにいるのではないか」という白木氏の分析は的を射ている。

白木氏は「ユーザー側にも『EVはお金がかかる』『使いにくい』という固定観念がある。これを、実際の運用データと経済的メリットで打ち破りたい。中小企業を含むあらゆる事業者が脱炭素化に参加できる入口を提供する。今や脱炭素化は避けて通れないが、理想だけでは経営は成り立たない。EVは使い方次第で、環境にも財布にも優しくなる。その道筋を示すのが我々の役目だ」と語る。

2030年目標達成への糸口

数字が物語る現実は厳しい。日本の商用車400万台のうち、EVはいまだ1%にも届かない。それでも2030年には新車の30%をEVにする──。この高い壁を越えるには、価格と使い勝手の両面で突破口が要る。白木氏の眼差しは目先の利益計算を軽々と飛び越えている。見つめているのは日本全体のEV化という、手強い道のりだ。

「我々のサービスはその糸口に過ぎない。月額5万3000円なら、中小でも手が出る。ワンストップサービスと運用支援により、EVに不慣れな事業者でも安心して運用できる環境を整える。こうして地道に実績を積めば、商用車のEV化も夢物語ではなくなる」と言う白木氏の口調は静かだが、その奥には揺るがぬ決意が光る。

同社は今後、軽貨物EVや営業車など商材ラインナップの拡充を計画する。全国展開も視野に入れ、アセットマネジメント規模も10億円から20億円規模への拡大を目指す。

▲愛知県主催、次世代のユニコーン創出を目指すビジネスプランコンテスト「AICHI NEXT UNICORN LEAGUE」で優勝

現代版「三方良し」の実現へ

自分にも、相手にも、環境にも優しい──これぞ現代版「三方良し」ではないか。月額5万3000円という価格は、単なる数字ではない。中小企業を含むあらゆる事業者が脱炭素化に参加できる入り口だ。いわば、日本の商用EV市場を変える可能性を秘めた挑戦。白木氏が描くのは、日本社会全体の車両EV化という壮大なビジョンだ。その実現に向けた第一歩が、今まさに踏み出された。事業の推移を見守りたい。(星裕一朗)

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