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軽油なしで走れるか

2026年3月4日 (水)

環境・CSR軽油が1L=300円を超える世界は、もう想像の話ではない。ホルムズ海峡の封鎖危機でWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は一時12急騰し、ブレントは79ドルに迫った。日本の原油輸入は9割超が中東経由だ。海峡が詰まれば、トラックの燃料タンクに届く軽油の値段は跳ね上がる。前号で取り上げた燃料サーチャージは、あくまで短期の止血策にすぎない。では、そもそも軽油を使わずにトラックを走らせることはできるのか。(編集長・赤澤裕介)

5つの選択肢、1つの正解はない

日本のCO2排出量の19を運輸部門が占め、うち7がトラックだ。その燃料はほぼすべて軽油。この「軽油一本足」を崩す代替手段は、いま5つに広がりつつある。

▲軽油の代替案(経産省資料、メーカー公表値などに基づく、クリックで拡大)

ただし、この5つのどれか一つで軽油を丸ごと置き換えられる段階にはない。重要なのは「いつ、どの場面で、何が使えるか」だ。時間軸で整理する。

今日できること──バイオディーゼルという「即効薬」

明日からでも切り替えられる選択肢がある。バイオディーゼルだ。

廃食油などから精製するFAME(脂肪酸メチルエステル)を軽油に5以下で混ぜたB5燃料は、品確法に適合し、既存のディーゼルエンジンにそのまま使える。車両の改造も設備投資もいらない。25年のエネルギー基本計画でも運輸部門の脱炭素施策として導入推進が明記された。セブン&アイ系の配送車両は24年12月からB5を採用し、いすゞは藤沢工場の送迎バスで次世代バイオディーゼルを実装している。

さらに注目を集めているのが次世代型のHVO(水素化植物油)だ。軽油と同じ分子構造を持ち、100の濃度でエンジンに使える。CO2削減効果は80-90。コスモ石油マーケティングは25年11月、JR西日本の営業列車に100次世代バイオディーゼル燃料の供給を国内で初めて開始した。25年8月にはマツダが都内で企業・自治体向けの体験会を開き、90人が参加している。

「即効薬」としてのバイオディーゼルには、しかし量の壁がある。国内のFAME製造量は年1万579キロリットル(23年度)、製造事業者は36者。トラック業界全体の軽油消費量と比べれば桁違いに小さい。資源エネルギー庁はB5の混合上限を7に引き上げる検討を始めたが、供給量の拡大が追いつかなければ、現場の選択肢にはなりにくい。

3年で届くもの──EVが「街の足」を変え始めた

時間軸を少し先に延ばすと、EVトラックが見えてくる。ただし「走れる場所」は限られる。

▲デュトロZ EV(出所:日野自動車)

三菱ふそうのeキャンターは航続324キロ(124キロワット時モデル)、いすゞのエルフEVは最大250キロ、日野のデュトロZ EVは150キロ。いずれも小型で、ラストワンマイルや都市内配送が主戦場だ。大型・長距離の幹線輸送には、バッテリー重量による積載量の制約と充電インフラの不足から、当面は対応できない。経産省の25年3月の資料でも、国内商用車の新車販売に占める電動車比率は「数」にとどまるとされている。

それでも、先行する企業の動きは速い。ヤマト運輸は25年3月時点で4200台超のEVを導入済みで、26年度末には累計1万台超を目指す。30年には集配車両の60にあたる2万3500台をEV化する計画だ。日本郵便もEV四輪718台を走らせ、佐川急便はFCとEVを組み合わせた配送を展開している。

価格面でも変化が起きつつある。26年春にBYD(中国)が日本専用設計の小型EVトラック「T35」を投入する。価格は架装費込みで800万円前後。国内メーカーのeキャンター(1370万円-)やエルフEV(800万円台-)と真正面からぶつかる。普通免許で運転でき、CTC(セル・トゥ・シャシー)構造で航続250キロ。海外勢の参入が価格競争の引き金を引く可能性がある。

走行コストだけを見れば、EVの強さは際立つ。エルフEVの電費(2.27-2.9km/kWh)で計算すると、電力単価30円/kWhの場合、100キロあたりの電力費は1000-1300円程度。軽油が1リットルあたり300円まで上がった大型車(燃費3km/L換算で100kmあたり1万円)と比べれば桁が違う。原油高は、EVの経済的な優位性を際立たせる。ただしそれは「小型・近距離」に限った話であり、車両価格の差や充電時間による回転率の低下を含めたトータルコストでは、まだ軽油車を完全には上回れていない。

その先の本命──水素・LNG・合成燃料の「現実」

大型トラックが東京から大阪まで、軽油を1滴も使わずに走る。その未来に最も近いのが水素FC(燃料電池)トラックだ。

日野自動車が25年10月に発売したプロフィアZ FCVは、トヨタのFCシステム2基と高圧水素タンク6本を搭載し、航続距離650キロを実現した。充てん時間は15-30分。実証走行の累計は40万キロを超え、アサヒグループや西濃運輸、ヤマト運輸が参画してきた。トヨタも26年末に小型FCトラックを投入し、年700-5000台の供給を目指す。

▲日野プロフィアZ FCVプロトタイプ(出所:日野自動車)

しかし、数字を冷静に見ると壁の厚さがわかる。プロフィアZ FCVの車両価格は1億6000万円程度。ベースのディーゼル車の6倍を超える。経産省は車両差額の4分の3を補助し、重点6都県(東京、福島、神奈川、愛知、兵庫、福岡)では水素燃料費も1キロあたり700円を支給する。それでも水素の小売価格は東京で1キロあたり1760-2200円と高い。

ここで一つ、見落とされがちな事実がある。プロフィアZ FCVの水素消費量から試算すると、100キロあたりの燃料費は1万3500-1万6900円になる。軽油が300円/Lに高騰しても、大型ディーゼル車の100キロあたり燃料費は1万円だ。つまり、原油がどれだけ上がっても、現時点では水素FCのほうがまだ割高なのだ。「原油高=水素が自動的に有利」ではない。水素価格の低減とインフラ拡充が実現して初めて、構図が逆転する。水素ステーションは全国150か所(25年10月末、JHyM調べ)にとどまり、大型トラック対応の大規模設備は限られる。1基の整備に3億3000万円かかるとされ、政府が掲げる30年のFC大型トラック5000台という普及目標は、インフラ整備の速度にかかっている。

LNG(液化天然ガス)トラックは、水素よりも手前の「現実解」として存在感がある。航続距離1000キロ超。ディーゼル比でCO2を10-20削減できる。いすゞが国内唯一の量産メーカーとしてギガLNGを販売し、25年10月には先進安全装備を加えた改良モデルを発売した。希望小売価格は3855万8300円(東京地区)で、ディーゼル車との価格差は比較的小さい。北海道では三菱商事が主導する環境省実証事業で、いすゞ製やボルボ製のLNGトラック14台超が累計230万キロ(25年3月時点)を走り、大きなトラブルなく軽油車と同等のオペレーションを続けている。畜産ふん尿由来の液化バイオメタンを混合する試験も進む。

ただしLNG充てん設備は国内に20-30か所程度しかなく、全国展開にはまだ遠い。そしてLNG価格自体が原油と連動しやすい。軽油が上がればLNGも上がる構造があり、「軽油の代わり」としての経済メリットは局面によって揺れる。燃料契約のスキームと拠点設計がなければ、コスト優位は安定しない。

合成燃料(e-fuel)は、再生可能エネルギー由来の水素とCO2から作る液体燃料だ。既存のエンジンもインフラもそのまま使える「究極のドロップイン」とされる。ENEOSが24年9月に実証プラントを完成させ、25年の大阪・関西万博で走行実証を行った。出光興産も北海道でメタノール合成プロジェクトを検討し、29年度以降の供給開始を目指す。政府は商用化目標を「30年代前半」に前倒ししたが、製造コストは1リットルあたり300円前後とされ、現時点では軽油と競争できない。トラック運送にとっては「将来の保険」だ。

5年前にはなかった選択肢

どの燃料にも一長一短がある。だから「複線型」で行くしかない。都市内配送はEV、幹線輸送は水素FCやLNG、既存車両の即時対応にはバイオディーゼル、将来は合成燃料。政府も環境省の「商用車等電動化促進事業」(25年度補正、300億円規模)でEVにディーゼル差額の3分の2、FCVには4分の3を補助するなど、複線型を前提にした支援策を敷いている。

ホルムズ危機がもたらす原油高は、運送事業者にとって痛手以外の何ものでもない。しかし5年前、この表に並ぶ選択肢の半分は存在しなかった。eキャンターは量産されておらず、プロフィアZ FCVは構想段階、BYDのT35は影も形もなかった。選択肢が「ある」ということ自体が、5年前とは決定的に違う。

サーチャージで目の前の出血を止める。その間に、自社の運行に合った代替燃料を見極め、試し、備える。次のホルムズ危機が来たとき──そしてそれはいつか必ず来る──軽油一本足の事業者と、複数の燃料を使い分ける事業者とでは、受ける衝撃がまるで違うはずだ。

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