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流通ISAC始動、サイバーセキュリティー強化へ

2026年6月4日 (木)

荷主アサヒグループジャパンやNTTなどの有志企業は「流通ISAC(アイザック)」を立ち上げた。サイバーセキュリティー強化に向けて製造・卸・小売業界を横断して情報共有と分析を行う枠組みだ。事務局を務めるNTTドコモビジネス(東京都千代田区)の井上直之部門長は、「特定の団体を母体とせず有志企業が集まる形態を採用した」と明かす。製造から小売までを横断する既存の業界団体が存在しなかったからだ。

▲NTTドコモビジネスの井上直之部門長

発起人9社をはじめとする枠組みの中では、営業活動の競争や利害関係から完全に離れる。他社では頼る相手の少ない最高情報セキュリティー責任者や技術担当者同士が、会社を超えて本音で日常的に相談できる場として機能している。

NTTはサイバーセキュリティー分野で20年の歴史を有し、日頃から防御システムの提供や最新システムの導入支援を行う。日本初の「テレコムISAC」設立当初から参画し、コミュニティー運営の知見を社内に持つ。ベンダーとしての利害を押し出さず「黒子」として中立的な立場をとる。

ライバル企業同士が情報交換しやすい場を提供できる点が最大の強みだ。数年前からトライアルホールディングスなどとの個別協議のなかで、サプライチェーン全体の情報共有が課題として浮上していた。他業界での被害拡大を受け、2024年度から25年度にかけて複数社間で具体的な対策の必要性を共有した経緯がある。議論の発散を防ぐため、前提条件が揃いやすい飲食料品・日用品のリアル店舗を持つ企業群を中心にスタートを切った。

設立目的は大きく3つある。1つ目は脅威情報の共有を通じ、攻撃の兆候など膨大な情報の適切な扱い方の習得や、初動対応の高度化を図る狙いだ。2つ目は、ベストプラクティスの整理と、経済産業省が26年度末から本格始動させるサプライチェーン対策評価制度への対応を挙げる。複雑な制度をそのまま適用するのではなく、業界の実態に合わせた平明な表現へと落とし込む。横のつながりを生かして各社が実践できる指針として解釈を共有する。

▲流通ISAC設立の目的(出所:流通ISAC))

3つ目は啓発・人材育成と情報技術リテラシーの標準化だ。実務担当者から経営層まで、共通の安全基準を浸透させるための啓発活動を推進する。ただし業界の裾野は広く、大企業から街の小規模店舗まで事業規模の幅が非常に広い。一律の義務化は機能しにくい実態がある。不審な添付ファイルを開かないといった極めて基本的な教育から標準化を積み上げる必要がある。直営店とフランチャイズ店では働くスタッフの属性が異なるため、それぞれに応じたアプローチによる教育が必要になるという気付きも得た。

当面は毎月ワーキンググループを開催し、会員間で課題や失敗事例を率直に共有できるコミュニティーづくりに注力する。新規会員募集に関して大々的な広報活動は展開せず、人づての紹介による仲間づくりを軸とする。信頼関係に基づいた確実なネットワークの拡大に力を注ぐ。

井上部門長は「来年(27年)春をめどに、情報共有の成果やベストプラクティスを具体的な形で示せる状態を目指す」と今後の展望を語る。さらに「現在は卸・小売・製造が中心だが、サプライチェーンの要を担う物流事業者からの参加要望があれば積極的に歓迎し、業界全体の集団防御力強化を図る」と物流業界の参画に期待を込めた。(菊地靖)

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