国際イランのマスウード・ペゼシュキアン大統領は3月4日、X(エックス)でアラビア語とペルシャ語の2本を投稿し、湾岸諸国の指導者に「各国の主権を尊重する。地域の安全保障は域内の国々が一緒に守るべきだ」と呼びかけた。米国・イスラエルの攻撃開始から6日目。ホルムズ海峡がほぼ止まっているなかでのメッセージだ。ただ翌5日にはイラン外相が停戦も交渉も拒否しており、言葉と行動のずれが目立つ。物流業界が望む海峡の通航再開につながる動きとは言いがたい。(編集長・赤澤裕介)
ペゼシュキアン氏は投稿で「外交で戦争を止めようとしたが、攻撃を受けて自衛するしかなくなった」と説明した。狙いは明確で、湾岸諸国が米国の対イラン作戦に巻き込まれないよう釘を刺している。1月にサウジのムハンマド皇太子が「自国の領空・領土を対イラン攻撃には使わせない」と伝えた経緯があり、イラン側はこの約束を改めて確認したい思惑がある。
ところが「主権尊重」と言いながら、イランのミサイルとドローンは湾岸諸国に降り注いでいる。UAE国防省は4日、弾道ミサイル3発とドローン129機を検知し、うち8機が国土に落ちたと発表した。カタールではLNG(液化天然ガス)施設が集中するラスラファンにドローンが着弾し、カタールエナジーが生産を止めた。サウジの主力製油所ラスタヌラにも弾着の報告がある。バーレーン国防軍は開戦以降にミサイル75発、ドローン123発を撃ち落としたと明らかにした。
イラン外相アッバース・アラグチ氏は5日、海外メディアの取材に「停戦を求めていない。交渉する理由もない」と断言した。「2回交渉したが、そのたびに攻撃された」という不信感が根底にある。ホルムズ海峡については「今のところ閉鎖するつもりはないが、戦争が続けばあらゆるシナリオを考える」と述べ、封鎖の長期化をカードとして残した。
25年6月の「成功体験」が戦略の軸に
ペゼシュキアン発言の裏側にあるイランの戦略を読み解くには、25年6月の12日間戦争を振り返る必要がある。当時イランはカタールのアルウデイド米軍基地をミサイルで攻撃し、その日のうちにトランプ大統領が停戦を発表した。「湾岸を痛めれば、湾岸諸国が米国に『もうやめてくれ』と言い出す」——イランはこの成功体験を今回も再現しようとしている。
米国のシンクタンクは、イランがエネルギーインフラへの攻撃で湾岸諸国の痛みを引き上げ、それを米国への停戦圧力に変換する構図だと分析する。「主権尊重」のメッセージは、湾岸諸国の顔を立てつつ「米国に停戦を迫ってほしい」という暗黙の要請と見るのが自然だ。
湾岸諸国は板挟みだ。サウジは米国のイラン攻撃に反対しつつ、イランの報復ミサイルは迎撃しなければならない。海外メディアによると、サウジは周辺国に「イランとの緊張を煽る行動は控えるよう」求めた。紅海でのフーシ派攻撃再開を抑えるためにも、「反イラン連合には加わっていない」という姿勢を見せる必要があるためだ。
では停戦はいつ来るのか。海外メディアによると、イラン情報省がCIA(米中央情報局)に第三国経由で間接的に停戦協議を打診した。ただトランプは「交渉相手の多くが死んだ」と語り、合意を結べる相手がいるのか疑問を示した。外相は公式には交渉拒否、暫定指導部評議会の内部調整も進んでいない。停戦交渉が動き出す気配は今のところない。
本誌既報のとおり、海峡で商業航行が再開するには3つの条件がそろう必要がある。革命防衛隊のVHF通過禁止放送の解除、戦争リスク保険の復活、米海軍などによる安全保証だ。ペゼシュキアン発言は湾岸外交としては意味があるが、この3条件のどれにも直接はつながらない。革命防衛隊は大統領ではなく最高指導者(現在は暫定評議会)の指揮下にある。大統領の外交メッセージだけで、IRGCが海峡の通過禁止を解除する保証はない。
物流業界にとってのポイントは1つだ。外交的な「雪解け」の兆しが出ても、海峡が開くまでには停戦→保険復活→護衛体制の確立という段階を踏む必要がある。今の段階では停戦すら見通せない。数週間単位の封鎖継続を前提にした備えが求められる状況に変わりはない。
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