国際イラン革命防衛隊(IRGC)がホルムズ海峡に設けた通行管理体制が、議会での法制化に向かっている。海外海運情報サービスによると、13日から25日にかけて26隻がIRGCの審査を経て通過し、少なくとも2隻が人民元で通行料を支払った。1隻あたり最大200万ドルに達するとの報告がある。戦時の封鎖対応として始まった管理が、恒常的な制度に移行する兆しが出ている。(編集長・赤澤裕介)
IRGCの通行管理は、従来の自由航行とは性質が異なる。通過を希望する船舶は、IRGCが承認した仲介業者を通じて船舶所有者、積荷、乗組員名簿、仕向け地などを事前に提出する。IRGCが制裁対象との関連や積荷の種類を審査し、承認された場合のみ認証コードと航行指示が発行される。航路も制限される。通常の2車線ルートではなく、イラン領海内のゲシュム島とラーラク島の間を通る指定ルートを、IRGC艦艇の護衛のもとで航行する。石油貨物が優先され、それ以外は追加の審査対象になる。
この体制はすでに実績を伴っている。26隻が通過し、複数の船舶が通行料を支払ったとされる。湾岸協力会議(GCC)のジャセム・アルブダイウィ事務局長は26日の記者会見で、イランが通行料徴収を公式に行っていると述べた。イラン議会では市民委員会が海峡での「主権、統制、監督」を制度として認め、通行料収入を組み込む法案の準備が進んでいる。イラン議員はイラン国営メディアに「我々は安全を提供している。船舶が通行料を払うのは当然だ」と述べた。
国連海洋法条約は領海内の無害通航(外国船舶が沿岸国の安全を害さない限り自由に通過できる権利)を認めているが、通行料徴収の規定はない。イランは同条約を批准しておらず、法的拘束が及ばない状態で既成事実が積み上がっている。
通行料が固定費化、輸送コストに上乗せ
この通行管理が制度化された場合、海上輸送コストの構造が変わる。これまでのホルムズ海峡は、戦争保険料や遅延リスクといった変動要因がコストの中心だった。本誌3月8日付で報じた通り、戦争保険料は紛争前の船舶価値の0.15-0.25%から2.5-7.5%に急騰している。ここに通行料が加われば、航行そのものに固定費が発生する。
最大200万ドルという水準は、VLCC(超大型タンカー)1航海あたりのコスト構造に直接影響する。原油輸送に限らず、コンテナ船やLNG(液化天然ガス)船にも適用が広がれば、海上運賃全体のベースが引き上がる。
さらに、通過の可否がIRGCの審査に依存することで、輸送の確実性が変わる。通過を認められる船舶と認められない船舶が分かれれば、航路選択は市場原理ではなく政治条件で決まる。本誌が繰り返し報じてきた「選択的通航」──誰の船かで通れるかどうかが決まる状態──が、料金徴収を伴う公式制度に格上げされるということだ。
物流事業者が確認すべきは3点ある。
(1)自社の利用船舶がIRGCの審査基準に合致するか(船籍国、荷主国籍、積荷の種類)。
(2)通行料が発生した場合、フレート契約やサーチャージにどう反映されるか。
(3)通行料の支払いが米国の対イラン制裁に抵触しないか。
特に(3)は、人民元建てで徴収されているとはいえ、IRGCへの資金提供は米国法上テロ組織への物質的支援に該当する可能性がある。
停戦なく、制度だけが固まる
停戦交渉は進展していない。イラン国営プレスTVは25日、匿名の政治安全保障高官の話として、米国が提示した15項目の停戦案をイランが拒否し、5項目の逆提案を示したと報じた。5項目は、攻撃の完全停止▽戦争再発防止の保証▽損害賠償の支払い▽抵抗勢力を含む全戦線での停戦▽ホルムズ海峡に対するイランの主権承認──だ。海峡の主権が停戦条件に入っている以上、通行管理体制の撤回は交渉の出口ではなく入り口の問題になる。
ドナルド・トランプ大統領は26日、イランの発電所攻撃期限を4月6日まで10日間延長した。軍事面ではイスラエルが同日、バンダルアッバスでIRGC海軍司令官アリレザ・タングシリ氏を空爆で殺害した。IRGC海軍の指揮系統への打撃だが、IRGCは数十年にわたり海峡での非対称戦(小型艇やミサイルなどを使ったゲリラ的な海上戦闘)能力を組織的に整備しており、個別の指揮官の交代で通行管理が崩れる状況にはない。
ホルムズ海峡の通行管理は、封鎖の一時対応から、通行条件を伴う制度へと性質を変えつつある。通行料の徴収が法的枠組みに組み込まれれば、海峡は「通れるかどうか」ではなく「どの条件で通るか」を問う段階に入る。4月6日のトランプ期限が、次の分岐点になる。
◆ この記事をより深く理解するために ◆
・通行料に加え指標変更でも輸送コストが変わる構図
「軽油卸値ブレントに変更、元売りに64円逆ざや」(3月28日)
・海峡封鎖の影響が石化・製造業に波及した経緯
「備蓄放出でも届かないナフサ、21中分類に連鎖」(3月27日)
・「選択的通航」の始まりと通行料制度化の前段階
「日本船通過容認でも調達コスト正常化は遠い」(3月22日)
・中国・ギリシャ・イラン船中心の通航構造が形成された時期
「ホルムズ海峡、封鎖2週間で危機深刻化」(3月13日)
・戦争保険料急騰が封鎖を決定的にした構図
「ホルムズ海峡、商業船ほぼゼロ」(3月8日)
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