
(出所:エミレーツ)
ロジスティクス米国・イスラエルがイランを攻撃した2月28日から1週間。中東の空と海の混乱は収まるどころか、新たな段階に入った。紛争直後に世界の航空貨物スペースは一気に18%消えたが、その後エミレーツやカタール航空が限定的に運航を再開し、局面は「スペースがゼロ」から「不安定な部分再開と大量の積み残し(バックログ)が併存する状態」に移っている。航空運賃はすでに跳ね上がり、海上・航空の両方でサーチャージが次々と打ち出されている。欧州航空安全機関(EASA)は3月11日まで中東全域の飛行回避勧告を延長しており、正常化はまだ先だ。(編集長・赤澤裕介)
3月7日時点の空域は、国や時間帯によって閉鎖・部分再開・再閉鎖が入り混じる流動的な状態にある。バーレーン、クウェート、イラン、イラク、イスラエルでは閉鎖が続く時間帯が長いが、カタールは7日に空域を限定的に開け、帰還便と貨物便に限って運航を認めた。UAEも一部再開したが、決められた狭い航路を管制の許可を得ながら飛ぶ形で、通常運航とはほど遠い。ドバイ国際空港(DXB)では7日早朝にも周辺での安全事案(迎撃による落下物とみられる)で運航が一時止まり、着陸しようとした旅客機が上空で待機する事態になった。ドーハのハマド国際空港(DOH)は定期便の運航を停止しているが、カタール民間航空局の許可のもと、限定的な帰還便や貨物便は飛んでいる。
航空貨物分析のローテートによると、空域閉鎖から24時間の時点で世界の航空貨物スペースは前週比18%減った。うち13%は空域規制が直接の原因だ。海外運賃分析会社のゼネタも16-18%減と分析しており、数字はほぼ一致する。航空データ分析のアヴィアンによれば、アジア太平洋-中東-欧州の回廊ではスペースが26%減少(有効トンキロベース)。中国・香港から欧州へ湾岸を経由する間接便に限れば75%減と、ほぼ壊滅状態にある。
ただし、これらは紛争発生直後の数字だ。その後、中東キャリアの部分再開が進んだことで、大手フォワーダーのDHLは湾岸発着の航空貨物スペースが30-40%程度まで回復しつつあると見ている。問題は、スペースが戻り始めても混乱が終わらないことにある。空域の開閉が日単位で変わるため運航計画が立てにくく、世界中の空港に積み残された貨物のバックログが膨らんでいる。ゼネタのニール・ファン・デ・ウー最高航空貨物責任者は「混乱が1日なら復旧に5-7日だが、今回はそれとは桁が違う」と話す。
なぜ紛争直後に18%もの落ち込みが起きたのか。理由は3つある。第1に、カタール航空、エミレーツ、エティハドといった中東の大手が全便を止めたこと。フレイトスの分析では、この3社だけで世界の航空貨物スペースの13%、中国-欧州航空貨物の4分の1を占めていた。第2に、ほかの航空会社も湾岸向けの運航をやめ、すぐには代わりの便を出せなかったこと。第3に、貨物専用機(フレイター)が給油地を変えたり直行に切り替えたりしたことで、積める量やネットワーク全体のバランスが崩れたことだ。
中東を避けるルートの利用は急速に進んでいる。アヴィアンのデータではアジア-欧州の直行便スペースが13-14%増えたほか、カザフスタンのアルマティやジョージアのトビリシ、イスタンブールなど中央アジア・コーカサス方面に給油地を切り替える動きが広がっている。ただし、これらの空港はもともと大量の貨物をさばく設備が整っておらず、地上での積み替え作業がボトルネックになるリスクがある。さらに3月5日にはイランのドローンがアゼルバイジャンのナヒチェバン空港ターミナルを攻撃した。迂回ルートも万全ではない。
フェデックスは中東11か国(バーレーン、イラン、イラク、イスラエル、ヨルダン、クウェート、レバノン、オマーン、カタール、UAE、サウジアラビア)向けの便を止めたままだ。DHLは中東経由の貨物に24-48時間の遅れが出ているとして顧客に注意を呼びかけた。貨物専用航空会社のカーゴルックスは中東便をほぼ全面キャンセルし、飛ばしているのはマスカット便だけだ。
旅客便の運航停止も長引いている。ルフトハンザグループはドバイ・アブダビ便を3月10日まで、テルアビブ便を22日まで、テヘラン便にいたっては4月30日まで止める。KLMはテルアビブ便を冬季ダイヤ終了まで全便停止にした。旅客機が飛ばなければ、旅客機の貨物室(ベリーホールド)も使えない。その分だけ貨物機への需要が集中し、スペースの奪い合いが激しくなっている。
運賃とサーチャージ、荷主は何に備えるべきか
フレイトス航空指数(FAX)によると、紛争が始まった2月28日からの1週間で、東南アジア→欧州は6%超上がって1キログラムあたり3.82ドル、中東→欧州は8%上がって1.62ドル、中国→米国は15%上がって6.90ドルになった。ただし中国→米国については紛争前から春節後の需要回復で上昇基調にあり、すべてが中東危機の影響とは言い切れない。また、FAXの数字は長期契約を含む平均値で、今すぐ飛ばしたいスポット貨物の実勢レートはこれよりさらに高い水準にあるとみられる。迂回にかかるコスト分として10%程度の上乗せが見込まれるほか、航空貨物にも戦争リスクサーチャージや燃料サーチャージが導入され始めた。
中国では春節明けの需要の戻りにばらつきがあり、アジア発の貨物量はまだ本調子ではない。裏を返せば、工場がフル稼働に戻れば運賃はさらに上がる可能性が高い。3月後半にかけて中国の出荷が本格化すると、バックログと新規需要がぶつかる形になる。海外フォワーダーによると、長期契約の運賃交渉を一時停止しているキャリアもある。
ホルムズ海峡はイラン革命防衛隊(IRGC)が閉鎖を宣言し、船の通航はほぼゼロになった。海外の海事情報分析会社によると、3月4日に海峡を通った船はわずか5隻で、7日間平均の27隻を大きく下回る。スエズ運河に船を戻す計画を立てていた船社も軒並み撤回し、アフリカの喜望峰を回るルートが再び標準になっている。
原油価格も急騰した。ブレント原油は3月6日に92.69ドル/バレルで引け、紛争前の73ドル前後から1週間で28%上がった。イラクが日量150万バレルの生産を止め、クウェートも貯蔵スペースが足りなくなって減産を始めるなど、供給が実際に途絶え始めている。海外投資銀行の一角は「解決の兆しが見えなければ100ドル超えもある」と予測しており、燃料サーチャージのさらなる引き上げは避けられそうにない。
船社が導入済み、または導入を発表した海上サーチャージをまとめた。
海上保険にも大きな動きがある。ガード、スカルド、ロンドンP&Iクラブなど主要な海事保険会社が、ペルシャ湾・ホルムズ海峡について72時間前通知で戦争リスクの保険カバーを解除し始めた。船主が航行を続けるには、追加の保険料を払って再設定するか、保険なしのリスクを取るかの判断を迫られている。保険のない船は寄港先の港湾から入港を拒否される可能性もあり、単なるコスト増ではなく、中東航路という選択肢そのものが失われかねない事態だ。
大手フォワーダーが荷主に推奨しているアクションは4つある。まず、出荷の見通しをできるだけ早くフォワーダーに伝え、スペース確保に協力すること。次に、ブッキングを早めに確定してスペースを押さえること。3つ目は、混雑や遅延を前提に安全在庫を見直すこと。そして4つ目は、Sea-Air(海上+航空の組み合わせ)や陸送経由といった代替手段を検討することだ。ただし、Sea-Airの中継地だったドバイが使えない状態なので、これまでのSea-Airモデルがそのまま通用しない点には注意がいる。代替となる中継拠点の検討も進んでいるが、ドバイほどの航空接続を持つハブは限られ、万能の代替とは言い難い。荷主にとっては「最安のルート」より「バックアップが多いルート」を選ぶ発想への切り替えが求められている。
航空業界の専門家は、旅客便だけでも正常化に最低1か月かかると見ている。航空貨物はバックログの処理があるため、回復にはさらに時間がかかる。ホルムズ海峡の閉鎖が長引けば、海上輸送のコスト増は中東向けだけでなく全航路に波及する。「すぐに元に戻る」前提の計画は危険で、荷主には複数のシナリオを想定した備えが求められている。
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