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ホルムズ危機、航空貨物の勢力図を塗り替える

2026年3月13日 (金)

ロジスティクスホルムズ海峡の事実上封鎖から2週間。海上輸送の混乱が長期化するなか、航空貨物市場の地殻変動が起きている。中東3大ハブの機能停止でグローバルキャパシティーの2割近くが消失し、アジア-欧州の航空貨物レートは急騰した。危機のたびに繰り返される「海が止まったら空に殺到する」というパターンは、サプライチェーン設計の脆弱性そのものだ。(編集長・赤澤裕介)

(出所:カタール航空)

消えた中東ハブの航空キャパシティー

今回のホルムズ危機が航空貨物市場に与えている影響は、海上輸送の代替需要だけではない。航空貨物は重量ベースでは世界の貨物輸送の1%に満たないが、価値ベースでは3割以上を占める。半導体、医薬品、精密機器など高付加価値品の動脈であり、その混乱の影響は重量の比率からは想像できないほど大きい。そして今、もっと深刻なのは、中東の航空ハブそのものが使えなくなっていることだ。

カタール航空、エミレーツ・スカイカーゴ、エティハドの湾岸3社は世界の航空貨物キャパシティーの13%を占める。ドーハ、ドバイ、アブダビのハブはアジアと欧州を結ぶ東西の接続点として機能してきた。中国‐欧州間のキャパシティーの4分の1がこれらのハブを経由している。空域制限でこれらのハブが機能停止したことで、グローバルの航空貨物キャパシティーは3月初旬、一時18%減少(※)した。

中東情勢受け航空貨物激震、世界の容量18%減(3月2日配信)

影響が集中しているのはアジア‐欧州レーンだ。インド亜大陸や東南アジアからの欧米向け貨物は、通常なら中東経由で運ばれる。このルートが断たれたことで、フォワーダーはアジアから欧州への直行チャーターを手配し始めている。海外物流メディアによると、ゼネタのニール・ヴァン・デ・ウォウ最高航空貨物責任者は、影響を受けたルートの航空貨物レートが短期的に2-3倍に上昇する可能性を指摘している。

一方、太平洋横断レーンは比較的安定している。今回の混乱は中東ハブへの依存度が高い東西レーンに集中しており、すべての航空貨物が一律にひっ迫しているわけではない。

ただし原油価格の高騰がジェット燃料コストを押し上げる影響は全レーンに及ぶ。ブレント原油は8日に1バレル100ドルを突破し、一時126ドルまで上昇した。ジェット燃料は航空貨物のコスト構造の中で大きな比重を占めるため、原油高が続けばレート全体に上昇圧力がかかる。

海上輸送の状況はさらに厳しい。コンテナ船130隻以上がペルシャ湾内で待機を余儀なくされ、APモラー・マースク、MSC、ハパックロイド、CMA CGMの主要船社はいずれもホルムズ海峡の通航を停止した。喜望峰迂回はリードタイムを10-14日延ばし、上海‐ジュベル・アリ間のコンテナ運賃は週末の間にFEUあたり1800ドルから4000ドル超に跳ね上がった。海上輸送が長期化すれば、緊急性の高い貨物が航空にシフトする圧力はさらに高まる。

▲ホルムズ危機が輸送モードに与えた主な影響(クリックで拡大)

こうした局面で興味深い動きがある。米フォワーダー大手のCHロビンソンは、この危機のさなかに航空貨物の戦略的活用を説くガイドをメルマガで配信した。コンテンツ自体は2025年10月頃に公開されたもので新しくはないが、配信のタイミングは明らかにホルムズ危機を意識している。同社のガイドは航空貨物を重量単価で評価するのではなく、在庫コスト、保険料、機会損失を含めた総保有コスト(TCO)で輸送モードを選ぶべきだと主張する。航空・海上・鉄道・トラックを製品特性に応じて組み合わせる「モードニュートラル」設計が、サプライチェーン全体の競争力を左右するという考え方だ。

この主張自体は正しい。しかし問題は、多くの企業がこうした設計を平時に済ませていないことだ。危機が起きてから航空に殺到し、最も必要なときに最も高いコストを払う。紅海危機でもそうだった。今回も同じパターンが繰り返されている。

ホルムズ危機は、航空貨物を「緊急時の代替手段」としか位置づけていない企業に対して、その設計思想の代償を突きつけている。逆に言えば、平時から航空を含めた輸送ミックスを設計し、フォワーダーとの間でキャパシティーの枠を確保していた企業は、今この瞬間にその投資を回収している。

物流の意思決定が「どのモードが安いか」から「どう組み合わせれば止まらないか」に変わる転換点が、今まさに来ている。

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