国際ホルムズ海峡の封鎖から3週間、国際海事機関(IMO)が18日にロンドンで開いた臨時理事会は「安全な海上回廊」の設置を議論した。だが回廊ができても護衛が始まっても、保険が戻らなければ商業船は動かない。物流が止まったまま、運送業界で先に来るのは燃料高ではなく資金繰りの行き詰まりだ。(編集長・赤澤裕介)
保険が戻るまで船は出ない
IMO臨時理事会でペルシャ湾に3200隻、2万人の船員が足止めされている実態が報告された。少なくとも7人の船員が死亡している。日本、バーレーン、パナマ、シンガポール、UAEの5か国は「安全な海上回廊」を共同提案し、米国も支持した。
高市早苗首相は18日の参院予算委員会で「現時点で艦艇派遣は考えていない」と答弁し、19日に訪米してトランプ大統領と会談する。日本は軍事派遣ではなくIMOの多国間枠組みで船員退避を優先する立場を示した。
ただし回廊は船員の退避策であり、商業物流の再開策ではない。機雷や護衛の問題は残っているが、商業物流を止めている最大の要因は保険だ。戦争リスク保険の料率は危機前の0.1%未満から0.75-5%に跳ね上がり、多くの保険会社が引き受けを停止した。IMOのアルセニオ・ドミンゲス事務局長が「海軍護衛は安全を100%保証するものではない」と述べたのは、この構造を踏まえている。軍艦が来ても保険会社がリスクを引き受けなければ船主は船を出せない。民間保険が機能しない以上、政府が戦争リスクを引き受ける枠組みが要るが、米国も日本もまだ具体策を持っていない。
米海軍の護衛は19日時点で実績がない。一方、インド海軍は自国のLPG(液化石油ガス)タンカー2隻を護衛して通過させ、トルコ船籍の船舶もイランの許可で通航した。海峡を通れるかどうかは外交関係で決まっている。
コンテナ船も止まったままだ。APモラー・マースク、MSC、CMA CGM、ハパックロイドの大手4社はホルムズ通過を停止し、湾内には140-170隻、47万TEU相当が足止めされている。迂回先は喜望峰ルートに限られ、航海日数は数週間延び、コストは2-3倍に膨らむ。ハパックロイドは戦争危険付加運賃を1TEUあたり1500ドルで適用し、CMA CGMはリーファーと危険品の予約を止めた。
原油価格は高値圏で乱高下が続く。18日にブレント原油は108ドル台に上昇し、19日は101-104ドルで推移した。日本の調達実勢を反映するドバイ原油はブレントを大幅に上回り、120-152ドルで振れている。ブレントが103ドルの日にドバイは130ドルを超える。国内メディアで目にするブレントやWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)の数字と、日本が実際に払う調達コストには大きな開きがある。
JKM(Japan Korea Marker)の高騰は冷凍冷蔵倉庫や物流センターの電力コストに直結する。
エネルギー価格の上昇は海運にとどまらず、国内の陸上物流のコスト構造を変え始めている。
政府は19日出荷分から補助金を再開し、ガソリン170円、軽油158円を目安に小売価格を抑制する。ただし店頭反映は3月末から4月上旬になる。4月1日の軽油引取税暫定税率廃止(リットル17.1円)はすでに補助金で先取りされており追加の値下げ効果はない。
補助金がなければ軽油はいくらになるか。ドバイ原油ベースで本誌のシミュレーション(起点: 原油65ドル・為替149円・本体115円)を適用した。
「停戦・通航再開時」はEIA(米エネルギー情報局)が見通す第3四半期のブレント80ドル以下に対応するドバイの水準だ。補助金の基金残高は2800億円で、ドバイ130ドル超の現状では2か月持たない可能性がある。
ここで見誤ってはならないのは、補助金は小売価格の歯止めであって、物流企業の損益を守るものではないという点だ。軽油が158円に抑えられていても、海上輸送の迂回で立替費用は膨らみ、荷主からの入金サイトは変わらない。固定運賃契約のまま迂回コストや燃料費の上昇分を吸収すれば、売上はあっても手元の現金が回らなくなる。
備蓄は254日分ある。政府は8000万バレルの放出を始めた。燃料は届く。だが届いた燃料の代金を、運送会社が払えるかは別の問題だ。コストを転嫁できないまま立替負担だけが膨らんでいくキャッシュフローの危機は、備蓄でも補助金でも止められない。
下流のサプライチェーンにも波及が始まった。三菱ケミカルや出光興産はナフサ調達の減少を受けてエチレンの減産に着手した。ナフサの国内備蓄は20日分とされ、3月下旬に減産ラインに達する。エチレンはポリエチレン、樹脂、繊維、自動車部品、半導体の封止材料の原料であり、影響は石油化学から製造業全体に広がる。
今週の首脳会談が分岐点になる。停戦交渉が動いて日本向けタンカーの通航枠が広がれば、ドバイのプレミアムは縮小に向かう。前例はある。インドとトルコはイランとの直接交渉で自国船を通した。逆に具体策がまとまらなければ、石化減産、補助金枯渇、軽油300円超が同時に来る。
いずれのシナリオでも、物流企業と荷主は海峡の再開を待って判断を先送りする余裕はない。
今週まず入出金サイトを確認する。立替負担がどこまで膨らんでいるか、手元資金がいつまで持つかを数字で把握する。固定運賃契約を棚卸しし、迂回コストや保険料の上昇分の負担区分を確認する。燃料サーチャージはドバイ130ドル超、補助金なしなら軽油315円の前提で再計算する。
2週間以内に赤字案件の継続・停止判断と荷主との条件再交渉に入る。補助金の店頭反映が3月末から4月上旬であることを踏まえると、この2週間が交渉の窓だ。補助金が反映された後では「価格は下がった」と言われ、交渉の根拠が弱まる。荷主も無関係ではいられない。運賃転嫁を拒んで運送会社を資金ショートに追い込めば、代替先も同じコスト構造に直面しており、結局は自社のサプライチェーンが止まる。
1か月以内に案件構成の見直しと撤退ラインを設定する。ナフサ減産が下流に波及する4月中旬以降、荷動きそのものが変わる可能性がある。どの案件をどの条件まで受けるかを事前に決めておかなければ、赤字の拡大を止められない。
海峡の通航再開には保険の復活、掃海の完了、護衛体制の確立が必要で、そのいずれも外交と軍事の進展が前提になる。海峡が開く日を待っていても、手元資金は待ってくれない。
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