行政・団体経済産業省が石油元売り各社に対し、軽油・ガソリンの卸値算定指標をドバイ原油からブレント原油に切り替えるよう行政指導していたことが27日、海外通信社が入手した省内文書で明らかになった。補助金の算定基準にとどまらず、元売りが卸値を決める際の指標そのものを「今後継続してブレント基準で」と指導する内容だ。ブレントはドバイより1バレル30ドル以上安い。卸値がブレント基準に切り替われば、物流事業者がスタンドや元売りから買う軽油の小売価格は補助金で抑制される。政府はガソリンの全国平均を170円に抑える方針で、軽油にはガソリンと同額以上の補助が適用されている。だが元売りの仕入れはドバイ連動のまま変わらない。本誌のシミュレーションでは、ブレント基準の卸値とドバイ実勢の仕入れ原価の差は1リットル64円に達する。この差額は当面、元売りのマージンで吸収される。(編集長・赤澤裕介)
本誌は22日付で、ドバイ原油が166ドル、ブレントが109ドルと57ドルの乖離に達していることを報じた。ドバイはアジアの精製業者が実際に取り合う現物カーゴの値段であり、ブレントは北海産でホルムズ海峡と無関係の先物市場の値段だ。封鎖でアジア向け現物だけが急騰し、両者の差は平時の3ドル前後から50ドル以上に開いた。
経産省は19日出荷分からの燃料補助金(緊急的激変緩和措置)再開にあわせ、元売りに対しブレント基準への切り替えを指導した。同文書には「今後継続してブレント基準を利用する」と記されている。法的拘束力のない行政指導だが、元売り各社は実務上従う方向とされる。経産省はコメントしていない。
元売りが卸値を設定する基準そのものがブレントに切り替わる。物流事業者が購入する軽油の価格は、ブレント基準の卸値に補助金が適用されて抑制される。ガソリンの全国平均170円という基準に対し、軽油にはガソリンと同額に暫定税率分17.1円を上乗せした補助が行われており、3月26日以降の補助単価は65.2円だ。ここまでを見る限り、物流事業者に不利な話ではない。
一方で、元売りの仕入れは別の前提で動いている。同文書によると、日本企業が現在調達している原油の実勢コストは1バレル140-200ドル。タンカーで運ぶ原油の取引はドバイ連動の契約が多く、行政指導で卸値の物差しを変えても、仕入れの物差しは変わらない。
本誌の軽油価格シミュレーション計算式(起点:原油65ドル、為替149円、本体価格115円)に28日時点の市場価格を入れた。ブレントは112ドル(28日終値)、ドバイ実勢は同文書の調達コスト下限にあたる140ドル、為替は160円で計算した。
ブレント基準で元売りが設定する卸値の小売相当額は276円。しかし元売りの仕入れ原価はドバイ実勢で340円だ。1リットルあたり64円の逆ざやが元売りに生じる。同文書が示す調達コストの上限(200ドル)で計算すればこの逆ざやはさらに膨らむ。補助金で物流事業者の購入価格は170円に抑えられるが、一方で元売りが64円分を吸収している。
元売りの吸収余力次第、物流への波及はこれから
この仕組みは元売りの吸収余力がある間だけ成り立つ。
ENEOS、出光興産、コスモエネルギーの元売り3社は、原油高で精製マージンが一部拡大している面もあるが、64円の逆ざやが販売量に応じて積み上がれば、負担は無視できない規模になる。封鎖が長期化し元売りの吸収力が限界に達すれば、卸値にドバイ実勢を反映せざるを得なくなる。そうなったとき、補助金の枠内で収まるか、それとも物流事業者の軽油仕入れ値が現在の抑制水準を超え始めるかが分かれ目になる。
物流事業者としては、2つの確認が欠かせない。
1つは、元売りとの軽油仕切り価格の契約条件を確認することだ。行政指導を受けて卸値がブレント基準に切り替わったのであれば、当面の仕切り価格はブレント連動で安定する。だが契約に「原油市場の変動に応じて見直す」といった条項があれば、元売りが吸収しきれなくなった時点で仕切り価格が動く可能性がある。
もう1つは、荷主への説明の準備だ。今は補助金で小売価格が抑制されているため荷主側の危機感は薄い。だが元売りの卸値が動いた場合、燃油サーチャージの引き上げ交渉が必要になる。そのとき、ブレントとドバイの乖離、政府の指標変更の仕組み、元売りの吸収余力の限界を数字で説明できなければ交渉にならない。「なぜ補助金で抑えられていたのに急に上がるのか」という荷主の疑問に答える材料を、今のうちに整理しておく必要がある。
加えて、卸値が動いた場合にどの時点でサーチャージを見直すのか、社内の判断基準を先に定めておく必要がある。価格が動いてから対応すると、交渉は常に後手に回る。
28日のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)原油先物は取引時間中に100.04ドルをつけ、2022年7月以来の大台に接触した。イランは米国の停戦案を拒否し、ドナルド・トランプ米大統領はイラン発電所への攻撃期限を4月6日まで延長した。封鎖が終わる見通しは立っていない。政府は備蓄放出、補助金、卸値の指標変更で時間を稼いでいるが、いずれも元売りのバランスシートに負荷をかけ続ける措置だ。元売り各社は6月の決算を控えており、逆ざやの継続をどこまで許容できるかが焦点になる。64円の差額がいつ、どういう形で表に出てくるか。物流事業者は次の価格変動を前提に動く局面に入っている。
【3月29日訂正】初出時、軽油の補助後小売価格が「170円前後に収まる設計」とした記述がありましたが、170円はガソリンの全国平均小売価格を基準とした数字であり、軽油にはガソリンと同額に暫定税率分17.1円を上乗せした補助が行われています。当該箇所を修正しました。
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