ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

日仏鉱物サプライチェーン合意、輸送再編へ

2026年4月1日 (水)
>> [pdf]この記事を印刷する(PDF)[/pdf]

行政・団体高市早苗首相とエマニュエル・マクロン仏大統領は1日、東京・元赤坂の迎賓館で首脳会談を行い、レアアース(希土類)の共同調達を軸とする「日仏重要鉱物協力ロードマップ(行程表)」の策定で合意した。共同声明には中国を念頭に「重要鉱物に対する輸出規制は重大な悪影響を及ぼす可能性がある」との懸念を明記。原子力・核融合エネルギー協力の首脳共同声明も別途発表した。3月20日の日米首脳会談に続き、2週間で米仏と鉱物の調達先を政府間で確定させた形だ。調達先、輸送ルート、契約相手の3つが国家間合意で決まり、企業の選択肢はその枠内に限定されつつある。物流会社にとっても、荷主と並走して調達先選定に関与できる余地が縮み、決定済みの枠組みを実行する機能としての比重が増している。(編集長・赤澤裕介)

非中国圏の精錬能力確保と物流の変化

今回の合意の中核にあるのは、フランス南西部ラック工業団地で建設が進むカレマグ(カレスター傘下)の重レアアース精錬工場だ。

重レアアースのジスプロシウムとテルビウムは、EV(電気自動車)のモーターや風力発電機に使う永久磁石に不可欠な素材で、精錬工程のほぼ全量が中国に集中している。カレマグの年間生産量600トンは世界の15%に相当する。岩谷産業とエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が共同設立した日仏レアアースを通じて最大1億1000万ユーロ(180億円)を出融資し、生産量の50%を日本向けに長期契約で確保した。経産省によると日本の重レアアース需要の2割をまかなう規模だ。フランス政府も補助金と税額控除で1億600万ユーロを拠出し、官民合わせた総事業費は2億1600万ユーロに達する。

▲カレマグ重レアアース精錬プロジェクトの概要(クリックで拡大)

調達先の多角化と言われるが、実態はブロック化に近い。精錬能力は中国圏と非中国圏に分かれ、非中国圏の限られた拠点を日米欧の政府が長期契約で確保する動きが同時に進んでいる。カレマグの生産能力は世界の15%にすぎず、日本がその半分を長期契約で確保し、残り半分はフランスと欧州向けとなる。米豪でも同様の動きがあり、三菱マテリアルや三井物産が参画する米国内プロジェクト、双日がライナス・レア・アースと進める豪州からの重希土類輸入(2025年10月開始)が並走する。非中国圏の精錬能力には上限があり、長期契約で埋まった分は他の企業が使えない。結果として、精錬拠点へのアクセスを持つ国の企業と持たない国の企業で、素材の入手可能性に差が生じる。

カレマグの稼働は26年末、本格的な商業生産は27年からだ。貨物が動き出すのは先だが、長期輸送契約の枠は工場稼働前に固まる見通しで、27年以降に新規参入できる余地は限られる。

精錬拠点の配置が変わると、物流の選別も進む。精錬拠点を確保した国が、そこから出る製品の輸送先と輸送業者の選択肢を事実上絞り込む形になるためだ。選別の基準は、国家間の調達プロジェクトへの関与、長期契約の輸送を担える体制、戦争リスクに対応できる保険と運航実績の3点に集約される。この基準を満たさない物流会社は、新しい貨物の流れに加わる機会を失う。その過程は段階的に進む。既存契約の更新が見送られ、新規案件の打診対象から外れ、入札の候補に入らなくなる。荷主が調達先を変えた時点で、その先の輸送契約も別の会社に移る。

ホルムズ海峡の問題は、この選別の速度を上げている。2月末の米・イスラエルによるイラン攻撃以降、イラン革命防衛隊が海峡封鎖を宣言し、通航量は平時比で95%減少した(調査会社ケプラー、3月1日から19日)。日本郵船、商船三井、川崎汽船の邦船3社はホルムズ通過を全面停止している。

▲ホルムズ封鎖による物流影響(クリックで拡大)

海峡は物理的に完全に閉じているわけではない。イランは友好国の船舶に選別的な通航を認めている。にもかかわらず商船が止まっているのは、採算の問題だ。戦争保険料は平時の数倍に上昇し、喜望峰回りの迂回で燃料費は3割から5割増える。このコストを運賃に転嫁しきれない。コストを荷主に転嫁できる長期契約を持つ企業だけが航路を維持できる状態であり、荷主との契約関係が船を動かせるかどうかを分けている。軍事的な封鎖が解除されても、保険市場が正常化し、転嫁先が確定するまで、商船の復帰には時間がかかる。

両首脳は事態の早期沈静化で一致し、G7の枠組みでの連携を確認した。フランスは26年G7議長国であり、6月のエビアン・サミットでホルムズ対応とエネルギー市場安定がG7全体の主要議題になる。日仏が今回合意した重要鉱物ロードマップも、G7行動計画に格上げされる可能性がある。原子力・核融合協力の共同声明は、化石燃料の海上輸送に依存しないエネルギー供給を国家間で進める内容だ。原発の稼働基数が増えるほどLNG(液化天然ガス)の海上輸送需要は減る。タンカー事業の先にある需要減と、核燃料輸送の特殊化も、物流会社の事業計画に関わる変化だ。

2月末にホルムズが事実上封鎖され、3月20日に日米が鉱物と原油備蓄で4文書に合意し、4月1日に日仏が重要鉱物ロードマップと原子力共同声明をまとめた。1か月の間に、鉱物とエネルギーの調達と輸送に関する国家間の枠組みが相次いで固まった。荷主の調達先はすでに変わり始めており、長期契約の輸送枠も埋まりつつある。荷主の調達戦略がいつ、どこに変わるのか。その情報を、輸送発注が切り替わる前に把握できるかどうかが、物流会社の受注に直結する局面に入っている。

◆ この記事をより深く理解するために ◆

・日米首脳会談で合意した重要鉱物13プロジェクトと原油備蓄の詳細。今回の日仏ロードマップの前段となる日米の枠組みを整理した。
「日米が原油備蓄と鉱物で4文書合意」(3月20日)

・ホルムズ封鎖直後の日本のエネルギー供給体制と備蓄の実態を分析した。
「中東原油9割依存の日本、備蓄頼みに限界も」(3月2日)

■「より詳しい情報を知りたい」あるいは「続報を知りたい」場合、下の「もっと知りたい」ボタンを押してください。編集部にてボタンが押された数のみをカウントし、件数の多いものについてはさらに深掘り取材を実施したうえで、詳細記事の掲載を積極的に検討します。

※本記事の関連情報などをお持ちの場合、編集部直通の下記メールアドレスまでご一報いただければ幸いです。弊社では取材源の秘匿を徹底しています。

LOGISTICS TODAY編集部
メール:support@logi-today.com

LOGISTICS TODAYでは、メール会員向けに、朝刊(平日7時)・夕刊(16時)のニュースメールを配信しています。業界の最新動向に加え、物流に関わる方に役立つイベントや注目のサービス情報もお届けします。

ご登録は無料です。確かな情報を、日々の業務にぜひお役立てください。