ロジスティクス商船三井は24日、同社の運航船がホルムズ海峡を通過したとの報道に対し「そのような事実はありません」とする声明を発表した。報道は23日、船舶追跡データをもとに商船三井が運航管理するVLCC(超大型原油タンカー)がイラク産原油200万バレルを積み、AIS(船舶自動識別装置)を切った状態でホルムズ海峡を通過してインドに到着したと伝えていた。開戦後にイラク原油の積載船がホルムズを通過した初のケースとして注目されたが、当事者が公式に否定した形だ。(編集長・赤澤裕介)
報道と否定、食い違いの背景
報道の根拠は、ペルシャ湾内で10日以上前にAIS信号を発信した同船が、直近になってインドのムンバイ付近で信号を再発信したという追跡データだ。AISを切った区間でホルムズ海峡を通過したと推定したものであり、通過の瞬間を直接捕捉したわけではない。
商船三井の否定にも背景がある。外航タンカーでは船主、船舶管理、用船、運航管理の役割が分かれることがあり、報道上の「運航船」の範囲と企業側の説明が必ずしも一致しない場合がある。同船の登録船主はパナマ法人であり、商船三井はテクニカルマネージャー(技術管理者)の立場にある。
もう一つの要因はセキュリティーだ。ホルムズ海峡ではイランが通航の可否を国ごとに選別する「選択的通航」が続いている。インド政府がイラン当局と安全確保の協議を進めた結果、インド向けのタンカーやLPG(液化石油ガス)船には個別に通過が認められている。パキスタンやトルコの船舶も同様だ。通過の事実を公表すること自体がイラン側の報復リスクを高めるほか、戦争保険料のさらなる急騰を招く可能性がある。本誌3月8日付記事で取り上げた通り、戦争保険料は紛争前の船舶価値0.15-0.25%から2.5-7.5%に急騰しており、公表による追加コストは無視できない。AISを切って通過する「暗航」が増えている現状とも整合する。
報道が正しく商船三井が公表できない状態にあるのか、報道が追跡データの解釈を誤ったのか。現時点ではどちらとも断定できない。確かなのは、ホルムズ海峡が「通過したかどうかすら公表できない海」になっているという事実だ。
この食い違いは、通航再開の判断を左右する情報の信頼性そのものに影響する。仮に暗航による通過が実際に増えていても、公式に確認できなければ保険条件の改善にはつながらず、商業ベースの通航再開の判断材料にもならない。物流企業にとっては、非公表の個別通過事例よりも、イラン側が制度として通航条件を明示し、保険市場がそれを織り込むかどうかが実務上の分岐点になる。
一方、ドナルド・トランプ米大統領は23日、イランの発電所への攻撃を5日間延期すると表明した。21日に突きつけた48時間の最後通牒の期限直前での方針転換だ。トランプ氏はSNSで「非常に良好で生産的な協議があった」と主張したが、イラン側は即座に「協議は一切行っていない」と否定した。イラン軍中央司令部報道官は22日の声明で、発電所を攻撃すればホルムズ海峡を「完全に封鎖する」と警告し、ペルシャ湾全域への機雷敷設とサウジアラビアの米軍基地への攻撃も示唆している。
延期発表を受けてブレント原油は一時96ドル台まで急落した。だが日本の軽油価格に直結するのはブレントではなくドバイ原油だ。ドバイ原油はアジアの精製業者が実際に買い付ける現物カーゴの値段であり、ホルムズ経由の中東産原油が物理的に出てこない以上、下がらない。通航制約に加え、戦争保険の急騰による船腹の実質減少、アジアの精製業者への買いの集中が重なり、中東産原油の現物だけが押し上げられている。
ブレントは急落したが、オマーン原油マーカーはむしろ20日の157.94ドルから23日に160.20ドルへ上昇した(GME公式)。中東産の現物に近い指標はブレントの動きとまったく連動していない。19日時点でドバイ原油スポットは166ドル台の過去最高を記録しており、ブレントとの乖離は大きく拡大した。先物市場の急落だけで国内の燃料コストが下がる見通しは立たない。ホルムズ通航量は開戦前の1日100隻超から数隻〜十数隻まで減少したとする複数の追跡データがあるが、AISを切った暗航船が多く全容は不確実だ。
日本向けの通過許可は依然として確認されていない。茂木敏充外相は22日のテレビ番組で、日本の船舶だけが先に通過するのではなく「みんな通れる状態をつくることが重要だ」との方針を示している。イランのアッバース・アラグチ外相は日本関連船舶の通過を認める用意があると表明したが、茂木外相は「今後の動きだからどうなるかわからない」と述べるにとどめた。
船舶追跡データによると、中東発で日本に向かっていた最後の原油タンカーは22日に千葉に入港する予定だった。以降、中東湾岸からの新規出荷は確認されておらず、日本行きの中東発タンカー5隻がペルシャ湾内に留め置かれたままだ。備蓄放出の原油が製油所を経て軽油として流通するのは4月中旬以降であり、3月末から4月上旬にかけての数週間に地域によっては軽油の品薄が深刻化する可能性がある。物流企業は燃料サーチャージの契約条件と在庫水準の両面を、この数週間のうちに点検する必要がある。
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