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マルチベンダー対応の「Wisbrain」が示す、持続可能な倉庫運営の設計思想

自動設備投資の次は「映像データ」のインフラ化だ

2026年4月13日 (月)

ロジスティクス物流現場の自動化は、ここ数年で急速に進んだ。効率化、省人化による競争力強化を目的とした設備投資では、すでに“更新”の局面を迎える企業も多く、導入そのものはもはや特別な話ではなくなっている。

しかし現場を取材していると、ある違和感に気づく。設備は増えたのに、現場は思ったほど楽になっていない。人が減るはずだったのに、トラブル対応や巡回確認のために管理要員は残り続ける。むしろ「自動化設備を管理する仕事」が新たに生まれているケースすらある。

この構造的な矛盾の背景には、物流のDX(デジタルトランスフォーメーション)が「設備中心」で進んできたことがある。倉庫の中の作業効率は確かに向上したが、現場全体を俯瞰する情報基盤は整備されていない。結果として、個別最適の設備が増えただけで、運営の最適化にはつながっていない。

ここで浮上してきているのが「映像データ」という新たな論点だ。

(クリックで拡大、出所:Wisbrain)

3月に東京で開催された「物流倉庫ロボティクス・オペレーション 2026」では、Ultimatrust(アルティマトラスト、東京都千代田区)が、映像インフラソリューション「Wisbrain」(ウィズブレイン)を紹介した。同社の営業・事業開発統括部長、室井義貴氏は、「ウィズブレインは、カメラそのものではなく映像を活用するためのインフラ構築をサポートするソリューション」だと解説する。

物流現場における映像はこれまで、防犯や安全管理のための監視ツールとして扱われることが多かったのではないか。しかし、自動化が進むほど、現場の状況をリアルタイムに把握する手段としての価値は高まる。ロボットが止まった理由、荷役が滞っている場所、バースの混雑状況──。こうした情報は、帳票やセンサーだけでは把握しきれない。最も現場に近いデータは、依然として「映像」なのである。

AIカメラの機能向上、バリエーションやコスト合理性のある導入サービスなど選択肢も増え、物流施設への設置数は急増していると室井氏はいう。遠隔監視によって巡回業務を減らし、トラブル対応の初動を早めたり、事故やクレーム対応への作業確認でサービス品質を向上させるのが狙いである。

ただし、対症療法でカメラ追加を繰り返した現場では、新たな問題が生まれている。「設置台数や設置工数のコストばかりがかさみ最適な配置となっていないことや、各部門や工程が個別にカメラを導入し、異なるシステムが乱立することで、社内のデータが分断されてしまう状況の発生」(室井氏)である。

また、導入のしやすさからクラウド型の映像サービスを採用した結果、セキュリティーやネットワーク統制の不安も表面化し始めている。物流は本来、止まってはならない社会インフラである。にもかかわらず、映像データの扱いは「ITサービスの延長」で考えられることが多く、長期運用や基幹インフラとしての視点が不足したまま運用されているケースも少なくない。 昨今のサイバー攻撃による甚大な被害を見れば、そのまま放置しては置けないセキュリティーホールとなるリスクがあり、「社内ネットワークがダーティー化するのを防ぐことは最重要の取り組み」(室井氏)である。

ウィズブレインは、カメラの販売ではなく、映像データを統合・活用するための基盤構築を目的としている。利便性の高いクラウドと、セキュアに設計されたオンプレミス環境、どちらも提供可能であり、現場要件によってはそれらを組み合わせたハイブリッド構成とすることもできる。複数メーカーのカメラやAI解析を統合できるマルチベンダー対応を強みとし、既存の機材活用や、後からの一元化や機能拡張もできる。これまでの設備を無駄にせず段階的に統合できる点は、長期的な投資回収の観点でも合理的だ。

物流設備導入は中長期的な計画に基づくが、AI画像解析の分野は技術進化のスピードが極めて速く、特定のソリューションに固定すると数年で陳腐化するリスクがある。このギャップを埋めるためには、設備ではなく「更新可能なデータ基盤」を先に整備する必要がある。映像インフラという発想は、その答えの一つといえる。「マテハンフリーのビデオ・マネージメント・システムとして、既存の機材も活用しつつ、無駄なく広域エリアをカバーできる運用が可能。また、画像検索やチェック作業も、気になる箇所を指定するだけで、高速で異常検知することが可能。画像確認にかかる時間を圧倒的に削減することができる。

こうした映像インフラの活用について、室井氏は物流領域に対する提案の方向性を「3つ」に整理する。

第1は、「物流改正法への実務対応としてのバース運用改革」だ。トラック予約システムの導入は進みつつあるが、現場では「入れただけ」で終わっているケースも少なくない。予約情報と実際の荷役進捗は一致せず、待機時間の発生や運用の属人化が残る。映像解析を組み合わせることで、到着・荷役・出発までの実態を可視化し、制度対応を“実効性のある運用改善”へと昇華させることができるという。

第2は、「ロボット導入後の“頭脳不足”を補う役割」である。自動化設備は導入されたものの、複数システムの連携が不十分で現場全体の状況が見えないという課題は多い。ロボットやマテハンは「動く」が、それを統合的に判断する視点が存在しない。映像はその“目”となり、分断された設備やシステムを横断的につなぐ役割を果たす可能性がある。

そして第3は、「倉庫全体を俯瞰するダッシュボード化による運営の高度化」だ。単なる映像確認ではなく、解析結果を一元的に可視化することで、現場の状況をリアルタイムで把握できるようになる。これは部分最適の自動化から、施設全体を対象とした“完全自動化運営”への移行を意味する。映像はそのインフラとして機能するという考え方だ。

こうした構想の前提となるのが、物流現場におけるICT環境の遅れである。バースや屋外ヤードでは、そもそもネットワークが整備されていない施設も多い。物流は長らくExcel(エクセル)文化に支えられてきたため、映像データを運営に活用する発想自体が十分に浸透してこなかった面もあるだろう。

しかし状況は変わりつつある。ロボット導入や制度対応を契機として、現場のネットワーク整備は急速に進んでいる。出荷検品台、バース、屋外搬送エリアなど、これまで“情報化の外側”にあった領域が一気にデータ基盤へと組み込まれ始めている。

映像活用のリテラシーもまた、これから大きく変わっていく可能性がある。

映像が「経営情報」へと進化する。倉庫全体の稼働状況やボトルネックをリアルタイムで把握できれば、物流は現場の経験則に依存した運営から、データに基づく意思決定へと移行する。これは単なる現場改善ではなく、サプライチェーン全体の設計思想を変える可能性を持つ。

これまで物流DXは、WMS(倉庫管理システム)やマテハンなどシステム導入の文脈で語られてきた。しかし次の段階では、「現場で生まれるデータをどう統合するか」が主戦場になる。その中で映像は、最も膨大で、最も未活用のデータ領域だ。

自動化の次に来る変革は、設備ではなく“見える化のインフラ”なのかもしれない。(大津鉄也)

▲室井義貴氏

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