行政・団体高市早苗総理は29日、X(エックス)で石油製品や医療関連物資の供給状況に言及し、備蓄放出で「日本全体として必要となる量」は確保しているとした一方、バスやトラック、漁業・農業向けの燃料が流通段階で末端まで届いていない事例があると明らかにした。赤澤亮正経済産業相も同日、Xで「政府を挙げて全力対応する」と投稿し、落ち着いた対応を呼びかけた。(編集長・赤澤裕介)
中東情勢を踏まえ、石油製品や、エネルギー源ではない石油関連製品、とりわけ医療関連の物資に関する不安のお声を伺っています。
まず、原油や石油製品については、備蓄の放出により「日本全体として必要となる量」を確保するよう取り組んでいます。…
— 高市早苗 (@takaichi_sanae) March 29, 2026
投稿は3つの柱で構成されている。(1)原油・石油製品は備蓄放出で必要量を確保(2)バス・フェリー・トラック運送事業者や工場・漁業・農業用の燃料が流通段階で届いていないケースがあり、経済産業省が融通支援を実施(3)ナフサやエチレンなどエネルギー源ではない石油関連製品、とりわけ医療関連の物資について厚生労働省と経産省が連携し、サプライチェーン間の融通体制を構築した──という内容だ。対応事例として九州地方の路線バス会社への軽油供給再開、海底ケーブル敷設船への重油補給実現を挙げた。
経済産業省はもちろん政府を挙げて全力対応致しますのでこれまで通りの落ち着いた対応をよろしくお願い申し上げます。 https://t.co/KVK52aUxVP
— 赤沢りょうせい (@ryosei_akazawa) March 29, 2026
政府の備蓄放出は計画通り進んでいる。16日に民間備蓄15日分の放出を開始し、26日からは国家備蓄原油の放出も始まった。放出量は850万キロリットル(国内需要1か月分)で、ENEOS、出光興産、コスモエネルギーホールディングス、太陽石油の4社が引き取る。産油国共同備蓄も5日分を3月中に市場へ供給する。政府は全体の供給量は確保されていると説明する。しかし備蓄を放出しても末端に届くまでには複数の段階がある。高市総理が流通段階の偏りに言及したことで、その間で滞りが起きていることを政府として認めた格好だ。
販売制限と配送制約、3つのボトルネック
備蓄から精製、タンクローリー配送、末端のスタンドや事業者のインタンク(自社敷地内の燃料タンク)に至る過程で、少なくとも3つの局面でボトルネックが表面化している。
1つ目は元売り・販売事業者による販売制限だ。金子恭之国土交通相は19日の会見で、バス事業者の1割にあたる400事業者から「軽油価格が上昇している」「これまで通りの供給がなされていない」との報告があると明らかにした。17日の会見ではトラック・バス向けにタンクローリーによる大口購入者への軽油販売の停止や数量制限が起きていると言及している。長野県では運送会社のインタンクへの供給が一時止まり、バス会社で予定日に軽油が納入されなかった事例も出ている。
2つ目は配送のタイムラグだ。国家備蓄の原油を放出しても精製に数日、タンクローリーや内航タンカーでの配送にさらに数日かかる。業界では、2024年4月の時間外労働上限規制以降、タンクローリーの配送余力が低下しているとの指摘がある。
3つ目は、燃料が不足した場合の用途別優先配分だ。少なくとも公表ベースでは、局地的に供給が不足した際にどの用途に優先して回すかの明確なルールは確認できない。27日に自民党本部で開かれた「燃料価格高騰等経営危機突破総決起大会」には全日本トラック協会(全ト協)、全国ハイヤー・タクシー連合会、日本バス協会の3団体が参加した。全ト協の寺岡洋一会長は「適正な価格で、適正な量の油がないと、エッセンシャルワーカーとしての責務を果たせない」と訴えた。決議では「軽油を安定的に確保できる環境の整備」「緊急的激変緩和措置の継続」「燃料サーチャージの周知徹底」「軽油価格カルテルに対する徹底的な事実解明」の4項目を採択している。
ナフサ減産、透析から食品包装まで波及
高市総理の投稿は原油・燃料だけでなく、ナフサ(原油を精製して得られる石油製品で、プラスチックなどの原料)やエチレンなどの石油関連製品にも触れた。政府の対応がこれまで原油・燃料油の価格抑制と備蓄放出に集中していたなか、石油化学の川下製品にまで対象を広げた形だ。
経産省の資料によると、ナフサの調達先は中東4割、国産4割、その他地域2割。原油は254日分(25年12月末時点)の備蓄がある一方、ナフサ単体の在庫は20日程度にとどまる。ホルムズ封鎖でナフサの中東からの輸入が途絶したことを受け、国内のエチレン製造設備12基のうち6基が減産、3基が定期修理などで停止しており、通常稼働を維持しているのは3基にとどまる。
経産省は川下製品(ポリエチレン、ポリプロピレンなど原料を加工した樹脂製品)の在庫を国内需要の2か月分とし、中東以外からの輸入と国内精製分を加えればさらに2か月分の確保が可能と説明する。石油化学工業協会も3.5-4か月分の在庫があるとしており、直ちに供給が途絶える状況にはない。ただしアジア各国での原油不足で、アジアで生産され日本に輸入されている製品の供給には長期的な懸念がある。
医療用プラスチックへの言及も具体的だ。全国保険医団体連合会(保団連)は25日、医療用ガウン、グローブ、注射器、点滴バッグ、カテーテルなどの供給懸念を訴える緊急要望書を高市総理、厚労大臣、財務大臣、経産大臣に送付した。高市総理の投稿では食品包装材の原材料、透析回路用の医療用プラスチック、手術中に使う廃液容器を挙げている。本誌が27日に報じた通り、国内で透析治療を受ける33万7414人(24年末、日本透析医学会統計調査)が使うダイアライザー(人工腎臓)や血液回路はすべてナフサ由来の樹脂だ。
政府は厚労省と経産省の連携でサプライチェーンの情報集約と、異なるサプライチェーン間での石油製品の融通支援体制を立ち上げた。高市総理は「ただちに供給が滞ることはない」と強調し、代替調達を含めあらゆる可能性を追求するとした。
政府は備蓄放出で全体の供給量を確保しているとするが、流通段階の偏在やナフサ川下の減産はなお続いている。今回、高市総理が公に認めたのは量の不足ではなく、末端到達の滞りだ。焦点は備蓄量から、燃料や資材を誰にどう届けるかという配分に移りつつある。
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