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現場任せにしない熱中症対策、法改正、現場実践、産業医、電力戦略で横断検証

「休む・止める」を仕組みに、酷暑物流の生存戦略

2026年7月14日 (火)

イベント14日の日本列島は、各地で危険な暑さに見舞われた。気象庁の観測をもとにした報道によると、午後2時時点で全国900超の観測地点のうち、35度以上の猛暑日となった地点は今年最多の規模となり、30度以上の真夏日も全国の広い範囲に及んだ。もはや「今年の夏は暑い」という一過性の話ではない。異常な暑さが日常化しつつあるなかで、物流現場は人命を守りながら、いかに稼働を維持するのかを問われている。

LOGISTICS TODAYはこの日、オンラインイベント「酷暑の物流生存戦略2026──CLO元年の夏を生き抜くための決断、命を守りKPIを両立させる待ったなしの改革」を開催した。法令対応、現場運用、産業保健、施設・電力の各視点から、酷暑時代の物流施設運用と熱中症対策を検証するもので、厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課中央労働衛生専門官の高松達朗氏、フジトランスポート取締役の川上泰生氏、丸全昭和運輸物流品質管理部理事の飯岡剛氏、三和建設執行役員大阪本店次長でRiSOKOブランドマネージャーの松本孝文氏、産業医で新宿区議会議員のファイズオペレーションズ古畑匡規氏、デジタルグリッドプラットフォーム事業部Directorの井澤僚太氏が登壇。エイターリンク社長室広報担当の壽松木健太氏がVTRで出演した。

厚労省の高松氏は、職場における熱中症の発生状況と、改正労働安全衛生規則、熱中症防止ガイドラインのポイントを解説した。職場の熱中症による休業4日以上の死傷者数は近年増加傾向にあり、死亡災害では「初期症状の放置・対応の遅れ」が重大化につながる傾向が示されている。業種別では、運送業は製造業、建設業に並ぶ高リスク分野として位置づけられる。

高松氏

改正省令では、暑さ指数を示すWBGT値28度以上、または気温31度以上の作業場で、継続1時間以上または1日4時間を超える作業が見込まれる場合、事業者に対し、報告体制の整備、重篤化防止のための実施手順の作成、関係作業者への周知が義務付けられている。高松氏は、熱中症を疑う症状があれば作業から離脱させ、身体を冷却し、必要に応じて医師の診察や救急搬送につなげる体制を事前に整える重要性を説明した。

ガイドラインでは、WBGT値の実測を基本としたリスク評価、身体作業強度に応じた作業計画、休憩場所の確保、暑熱順化、水分・塩分の定期摂取、巡視・声かけなどを組み合わせることが求められる。物流現場では、倉庫内、荷役、車両周辺、屋外待機、単独作業など作業条件が多様であり、画一的な対策ではなく、現場ごとにリスクを把握し、運用へ落とし込むことが課題となる。

続いて、物流・施設現場で対策に取り組む各社からは、実践と導入時の課題が共有された。

(左から)川上氏、飯岡氏、松本氏

川上氏は、フジトランスポートで進める熱中症対策として、荷台内に冷風を循環させる熱中症対策車両の共同開発・試験導入や、ドライバー、整備士、清掃スタッフを対象とした熱中症手当の支給、整備現場でのこまめな休憩促進などを紹介した。輸送現場では、ドライバーが車内外を行き来し、整備や清掃など周辺業務も暑熱環境にさらされる。川上氏は、現場ごとの作業実態に応じて対策を重ねる必要性を示した。

飯岡氏は、丸全昭和運輸での取り組みとして、熱中症教育や応急処置の周知、ファン付き作業服の支給、飲料の提供、倉庫内での「熱中症ステーション」設置などを説明した。現場での対策は装備や設備の導入にとどまらず、熱中症の重篤性、脳への影響、正しい冷却方法を管理者が理解し、作業者へ繰り返し伝えることが重要だとした。

松本氏は、三和建設が早くから進めてきた建設現場の猛暑対策を紹介した。同社では社内に「猛暑対策本部」を設置し、始業時や休憩時に独自開発した「しおゼリー」を配布するなど、対策を現場の習慣として定着させている。施設面では、新築倉庫の設計段階から将来の空調増設スペース、大型ひさし、断熱性能の向上を検討し、改修時には大型シーリングファン、エアー搬送ファン、遮熱シート、発泡ウレタン吹付けなどを組み合わせる。グループ会社が開発したエアシャワー型冷却機器「取るねつ」にも触れ、作業者の身体を短時間で冷却する取り組みを紹介した。

現場各社の発表からは、酷暑対策が「備品を配る」「水分補給を促す」だけでは成り立たなくなっている実態も見えた。荷役時間帯をどう調整するか、待機場所をどう確保するか、パレット化などで手荷役をどこまで減らせるか。いずれも物流事業者だけで完結する課題ではなく、荷主や発注者との協議、施設側の理解、作業条件の見直しを伴う。暑熱リスクは現場で発生するが、そのリスクを高める条件は現場の外で決まることも多い。

産業医の古畑氏は、「なぜ対策しても人が倒れるのか」をテーマに、組織の管理体制に潜む課題を指摘した。熱中症対策は、多くの企業ですでに何らか実施されている。問題は、WBGT計の設置、水分補給の指示、eラーニングなどが、実際の現場運用まで落とし込まれているかどうかにある。

▲古畑氏

古畑氏は、管理の死角として、始業直後、休憩前後、残業時間、夜勤帯、管理者不在の場所、一人作業、新人や応援スタッフが入る現場などを挙げた。WBGT値が共有されない、基準を超えても作業を止められない、緊急時の報告体制や作業中断基準が曖昧といった状態では、対策は用意されていても機能しない。

また、基礎疾患を持つ作業者、睡眠不足、食欲低下、前日の飲酒、体調不良などが重なると、熱中症リスクは高まる。冷たい飲料を現場近くに常備する、涼しい休憩場所を事前に把握させる、冷水ペットボトルを首回りや脇の下に当てて身体を冷やすなど、初期対応を現場で迷わず実施できる状態にしておく必要があるとした。

古畑氏はさらに、熱中症は現場で発生する一方、リスクを生む意思決定は現場の外で行われることが多いと指摘した。発注条件、納期、繁忙期設定、荷下ろし方法などが現場の暑熱リスクを左右するため、CLO、物流統括管理者には、現場のリスクを経営判断や荷主企業との協議につなげる役割が求められるとした。

最後のテーマは、酷暑対策を進めるほど避けて通れなくなる電力だった。

デジタルグリッド井澤氏は、物流施設では全館空調や局所冷却の導入に加え、自動化・省力化に伴う搬送ロボット、仕分け機器などの電力消費も増えていると説明した。暑熱対策を強化すれば、作業環境は改善する。一方で、電力需要と電気料金の上昇リスクは、施設運営の新たな負担となる。井澤氏は、電力調達を「受け身で買うもの」から「設計するもの」へ転換する必要性を示した。

▲井澤氏

デジタルグリッドは、電力プラットフォーム事業、再エネプラットフォーム事業、蓄電池事業を展開するスタートアップ。井澤氏は、同社の電力プラットフォームを通じ、完全固定価格での電力調達、変動型との組み合わせ、再生可能エネルギーの導入支援などを紹介した。24時間操業の大規模物流施設で、使用電力量の9割を完全固定価格で調達し、電気料金の上昇リスクを抑制した事例にも触れた。

セッション内では、エイターリンク壽松木氏もVTRで出演した。同社は、ワイヤレス給電技術の社会実装を目指すスタートアップで、天井に設置した送電機から微弱電波を発し、温湿度センサーなどをバッテリーレス、配線レスで稼働させる仕組みを紹介した。物流倉庫向けには、広域に配置したセンサーによるWBGT値の可視化による現場リスク管理や、暑さ指数に応じた空調の自動制御を提案。既存空調への後付け設置も可能とし、省エネと安全性の両立を目指す。

今回のイベントを通じて示されたのは、熱中症対策が、もはや「夏だけの注意喚起」では済まないという現実だ。異常な暑さが普通になりつつあるなかで、現場が我慢で支える運用は限界を迎えている。必要なのは、現場の努力を前提にすることではなく、現場で働く人が無理をせず、異変を感じた時に「休む」「止める」と言える状態を組織として支えることだ。

CLO元年を迎えた物流業界にとって、暑熱リスクは安全衛生だけでなく、荷主との条件交渉、施設投資、作業設計、人材確保、電力調達、CO2削減など、CLOに求められる中長期計画策定にも関わるテーマとなった。酷暑の常態化を前提に、物流を止めずに人命を守る仕組みをどう構築するか。今回のイベントは、その問いを物流現場、管理部門、荷主企業に投げかける場となった。

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