話題倉庫の自動化に投資すればするほど現場が安定するとは限らない。設備の種類が増えるにつれ、工程間の連携が崩れ、繁忙期に特定のエリアだけが詰まるケースが目立ち始めている。この構造的な問題に、WES(倉庫実行システム)市場シェアトップ(※)のYE DIGITAL(以下、YEデジタル)はどう向き合ってきたのか。出荷制御の強化、3PL向け新モデル、生成AIによる保守刷新、といった同社のこの1年の動きを追いながら、「止まらない倉庫」をつくる技術の中身を解説する。
倉庫の自動化が進めば進むほど、現場は安定する。そう信じて投資してきた事業者たちが、想定外の壁にぶつかっている。AGV(無人搬送車)、AMR(自律走行ロボット)、GTP(Goods to Person、商品を保管場所から作業員のもとへ自動搬送する仕組み)。多様な機器を1つの倉庫に詰め込んだ結果、工程間の連携が崩れ、繁忙期になると特定のエリアに負荷が集中して全体が止まる。設備は動いている。なのに倉庫が回らない。
問題は機器の性能ではなく、それらを束ねる「制御の設計」にある。
在庫管理と入出荷計画を担うWMS(倉庫管理システム)は、個々の機器を直接さばく役割を本来持っていない。コンベヤや自動倉庫を物理的に動かすWCS(倉庫制御システム)は、現場全体の最適化を見る視野を持たない。その2つの層の間に立ち、WMSの計画を受け取って機器と作業員にリアルタイムで最適な指示を出す。それがWES(倉庫実行システム)の役割だ。「WESへの認識が市場で確実に変わりつつある」と、YEデジタルの物流DXシステム本部副本部長である浅成直也氏は言う。設備が増えるほどWMSの限界が露わになり、WESへの需要が前面に出てきた。
WES市場でシェアナンバーワンの地位にある(※)のが、YEデジタルだ。1978年に産業オートメーション大手・安川電機のIT部門が分社化して設立された「安川情報システム」を前身とする。2019年に現社名に変更した東証スタンダード上場企業だ。
モーターやロボットの制御系システムを源流に持ち、製造業での長年の現場実装経験が、物流倉庫の自動化システム開発に直結している。その強みを物流に特化した形で結晶させたのが、WES「MMLogiStation」(エムエム・ロジステーション、2021年提供開始)だ。この1年で同社が打ち出した機能強化の内容は、単なるシェア維持の話ではない。
(※)…デロイトトーマツミック経済研究所「スマートロジスティクス・ソリューション市場の実態と展望 2024年度版・2025年度版」>

▲YEデジタル 物流DXシステム本部副本部長 浅成直也氏
梱包まで自動化が進む現場で Wave制御の進化
ECの需要急増やセール期の集中が続く中、倉庫の自動化の範囲は広がり続けている。ピッキング、仕分け、そしてその先にある梱包まで自動化しようとする現場が増えてきた。ソーターから梱包機に直結するラインが現実のものになり始めたことで、新たな問題が生じた。梱包工程が自動化の対象に入ると、その手前の仕分けや出庫だけをWESで制御しても、全体が詰まりやすくなる。
26年6月から提供を開始した出荷機能の強化はこの問題に応えたものだ。中核は「Wave制御機能」の大幅な進化。Wave制御とは、作業指示の件数、設備の稼働状況、人員リソースを踏まえて、倉庫内の作業を複数のグループに分けて、時間差で順次開始する仕組みだ。満員のエレベーターに人を一度に詰め込まず、階ごとに分けて順番に運ぶような発想に近い。MMLogiStationではこれまで、出庫や仕分けの工程を対象としていたが、今回の強化でその対象が出荷工程まで拡大した。

▲Wave制御による安定した作業イメージ(出所:YEデジタル)
あわせて強化されたのが、荷物をどう振り分けて処理するか(グルーピング)を、顧客ごとの業務ルールに合わせて細かく設定できる機能だ。例えば「投函型の小型宅配便に入れるのか、それとも60サイズの宅配便か」という配送区分の違いや、「これは割れ物だからソーターに乗せられない」という荷物の特性まで細かく分類し、それぞれに対応した作業フローを組み立てられるようになった。
浅成氏は「自動化設備をつなぐだけでなく、業務に合わせた作業フローを柔軟に構築できる点が他社との最大の違い」と説明する。同一の設備を使っていても、指示の制御設計次第でスループットは大きく変わる。EC向け物流センターなどでは10~20人規模の人員削減につながった現場も出てきているという。
WMSが「70点で止まる」問題 3PLへの展開
WESを導入してきたのは、これまで主に自社倉庫を持つ大手メーカーなどが中心だった。その一方で、複数の荷主から物流を受託して多拠点を運営する3PLにとって、WESは「顧客に提案できるサービス」ではなく、「自社が導入する設備」として捉えられることが多かった。
その背景には構造的な問題がある。複数の自動化機器を倉庫に入れる場合、機器同士の手待ちをなくし、生産性を最大化するためには、WMS側に細かな制御ロジックを追加実装しなければならない。ところが、WMSの改修には工数もコストもかさみ、「設備は入れられるが、やりたいことの70点ぐらいで止まってしまう」(浅成氏)というのが3PLの実情だ。結果として自動化の効果が出し切れず、投資対効果が見えにくくなっていた。

▲機能選択サービス型WESプラットフォーム、構成イメージ(出所:YEデジタル)
WESを間に入れることで、この構造が変わる。WMSはデータを渡すだけでよく、細かな制御はWESが担う。浅成氏が「WMSのスリム化」と呼ぶこの考え方が、3PLにとっての突破口になる。
26年6月下旬から提供を開始した「複数拠点対応WES基盤」は、3PLが自社の自動化標準パッケージを構築し、荷主に複数の運用パターンを提案できる仕組みで、システムのパッケージ化ではなく「業務のパッケージ化」を実現する。3PLが「どんな荷主でも受け入れられる倉庫」を持つための基盤として、WESの使われ方が一段変わろうとしている。
障害が起きた時、誰がどう対処するか AQUA運用監視サービス
自動化が進めば、システムの安定稼働への依存度も高まる。障害が起きた時の復旧に時間がかかれば、倉庫全体が止まる。問題は設備そのものだけでなく、「いつ、どの設備で、何が起きているか」を迅速に特定し、対処できるかどうかにある。

▲AQUA運用監視サービスのイメージ(出所:YEデジタル)
工場や倉庫の自動化において運用面の課題は2つある。1つは「復旧できるメンバーが限られており、その人がいないと復旧ができない」という属人化の問題。もう1つは「年に一度あるかないかの障害でも、何時間で復旧できるか全く見えない」という問題だ。復旧に一定時間を要する場合は、作業員を別の作業へ振り分ける判断もしたいが、ズルズルと待ち続けることになる。そうした現場の困りごとを解決するのが、25年12月から提供を開始した「AQUA運用監視サービス」だ。
「AQUA運用監視サービス」は、この2つの問題に構造から対処する。基盤となるのは同年6月に提供を開始した運用保守データ活用サービス「AQUA DataFusion」だ。MMLogiStationがエラーを検知すると自動でインシデント(障害の発生記録)が起票され、AQUAの監視担当者が即座に把握できる。過去の類似インシデントとその対処履歴はシステム上で検索できるため、現場担当者が自分で対処法を引き出せるケースも増える。技術メンバーも同じ情報をリアルタイムで共有できるため、電話でのやり取りに費やしていた時間が大幅に短縮される。「情報共有のスピード感が全然変わる」と浅成氏は強調する。
復旧時間の定量的な削減数値はまだ集計中だが、顧客側でのインシデント記録の蓄積が進むことで、次の障害への備えが組織として引き継がれていく仕組みになっている。YEデジタルは18年に開設したITカスタマサービスセンター「Smart Service AQUA」でのアウトソーシング実績を土台に、24年からデータ統合管理プラットフォームと生成AI活用の取り組みを本格化させてきた。

▲MMLogiStationの機能強化の軌跡(出所:YEデジタル)
「つながります」は差別化にならない
新機能が相次ぐなかで、もはやWESは「どの自動化設備でもつながります、どのメーカーでもつながりますというのは、差別化要素にならなくなっている」(浅成氏)。
WESベンダーが10社を超え、荷主側がRFP(発注先を決める際に企業へ提示する提案依頼書)の中でWESを定義して調達するようになった今、接続性はテーブルに乗るための前提条件にすぎない。つないだ自動化設備をいかに効率的に動かすかが問われている。
Wave制御のさらなる強化、デジタルツイン空間での再現、AIを活用した最適化計算、それらを積み上げていくことで目指すのは、システムが人員配置も自動化機器の動きも主導して倉庫全体をコントロールする基盤づくりだ。いずれヒューマノイドロボットが現場の一員になる時代を見据えながら、YEデジタルはMMLogiStationを通じてその基盤を今から積み上げている。



































