ロジスティクス三菱重工業グループの三菱造船(横浜市西区)と日本郵船は9日、大型船によるCO2輸送技術の共同開発を行うことで合意したと発表した。液化ガス輸送船(LPG・液化石油ガス輸送船、LNG・液化天然ガス輸送船)建造で蓄積した三菱造船の高度なガスハンドリング技術と、多種多様な船舶の運航に関する日本郵船の豊富な知見を統合する。今後、液化CO2輸送船(LCO2船)の開発を足掛かりとして、CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)バリューチェーンへ参画していく。
カーボンニュートラル社会を実現するための有効な手段として注目を集めるCCUSのバリューチェーンにおいてLCO2船は、液化されたCO2を貯留および利用する拠点まで輸送するという必要不可欠な役割を担うものとして、将来的な需要の拡大が期待されている。
三菱造船は、三菱重工グループが取り組む低環境負荷エネルギーへの転換の戦略的な事業強化の柱であるCO2エコシステムの構築において、LCO2船の開発および事業化を積極的に推進しており、今回の共同開発事業はその実現に大きく寄与する。これまでの液化ガス輸送船建造で培った技術や知見を結集し、海洋システムインテグレーターとして海の脱炭素化を目指す。
日本郵船は、大型船によるCO2輸送技術の確立がカーボンニュートラル社会の実現に大きく寄与すると判断。今回の共同開発事業では、技術的なハードルの高いCCUSバリューチェーンにおける多様な技術を有する三菱重工グループと一体となり、これまでの豊富な船舶運航に関する知見を融合して中小型船のみならず大型LCO2船運航の早期実現を目指して取り組む。この事業を足掛かりに、今後CCUSバリューチェーンへ参画していく。
三菱造船と日本郵船は、相互補完となる各社の強み・知見を活用し、今回の共同開発事業を通じてCCUSバリューチェーン構築に必要なLCO2船を含む各種技術の開発に引き続き尽力することで、カーボンニュートラル社会の実現に向けて貢献していく。
日本が主導する形でCCUSを推進する好機にしてほしい
CCUSは、政府が宣言している「2050年までのカーボンニュートラル実現」に向けた取り組みに不可欠な技術として注目されている。三菱造船と日本郵船という、国内を代表する船舶メーカーと海運企業がタッグを組んで、CCUSバリューチェーンの構築を進める取り組みは、世界の海運業界において、大きな存在感を示す機会になると期待したい。
大型船によるCO2輸送技術は、カーボンニュートラル社会の実現に大きく貢献する存在であると考えられている。例えば、工場や火力発電所から排出されたCO2を活用地や貯留地まで低コストで大量・安全に輸送するためには、大型船舶がどうしても必要となる。
しかしながら、輸送機能を搭載した大型船舶の開発が進まないとこうした輸送は実現しない。まさに目的と手段の話だが、CO2輸送船の研究開発が、脱炭素化の推進に貢献する取り組みとして注目されているのはそのためだ。
ここで三菱造船と日本郵船の2社が主導権を握ることになれば、CCUSは日本が先導するカーボンニュートラル施策の一環としてワールドワイドの環境対応で大きなパワーを発揮できることになる。両社が抱える技術力は間違いなく世界随一だ。そこに課題解決を図るソリューション力が加われば、その実現は決して絵空事ではなくなるはずだ。
国内では、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がCCUSにかかる研究を推進する。ここはオールジャパンで一体化した開発部隊を結成して、活動を進めてほしい。それが世界のカーボンニュートラル実現の大きな力になるはずだ。(編集部・清水直樹)