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サプライチェーンの要となる倉庫管理の効率化に向けて

WMS関心度ランキング、他機能連携機能に高い注目

2021年11月30日 (火)

話題LOGISTICS TODAY編集部が11月19日から25日にかけて、物流企業や荷主企業を中心とする読者に対して実施したWMS(倉庫管理システム)に関する実態調査(有効回答数792件、回答率26.2%)で、関心のあるサービスについてランキングでまとめた。入荷予定や実績管理、在庫照会などの機能に高い期待を抱く一方で、カスタマイズのしやすさや他のITサービスとのシステム連携に課題を感じている実態が浮かんだ。倉庫の全体最適を推進することで物流課題の解決を図ろうとする機運が高まるなかで、倉庫オペレーションの司令塔としての役割を担うWMSに「柔軟性」を求める傾向の強いことが分かった。

今回の調査における回答者の内訳(重複あり)は、倉庫業39.9%▽3PL(物流一括受託)36.9%▽総合的な物流業33.5%▽トラック運送業(一般貨物自動車運送事業)30.9%▽その他の物流業14.1%▽国際貿易(フォワーディング)10.7%▽物流向けITサービス9.5%――など。荷主企業では、卸売6.8%▽食品製造6.2%▽小売3.8%▽自動車・自動車部品・輸送用機器の製造3.7%――など。ここでは、WMSの利用実態や課題認識についてヒアリングした。(編集部特別取材班)

3分の2がWMS導入に積極的

WMS(Warehouse Management System)は、ロケーション管理や入出庫に伴う在庫の変動や納品書の作成など、倉庫で行われる業務のマネジメントを支える機能だ。WMSの導入により、業務の標準化や効率化だけでなくコスト削減や在庫管理の強化を実現できるシステムとして、物流DX(デジタルトランスフォーメーション)化の観点からも注目が高まっている。

今回の調査で、WMSの過去の利用実績がある企業は65.8%、また66.8%が全てまたは一部の事業所で活用中であると回答。今後の導入については58.5%が具体的に予定しており、「予定はないものの利用する可能性がある」との回答を合わせると83.6%が前向きに考えていることが分かった。

積極派は「在庫・入出荷の効率性」、消極派は「多すぎて選びにくい」が理由に

では、WMSに「消極派」の企業の考え方はどうか。今後の導入の具体的な予定がなく、利用する可能性もないと回答した理由を聞いたところ、「現場の規模が小さく、導入メリットが得られないと考えられるから」が58.7%と過半数に達した。「倉庫管理・在庫管理を必要とする業種ではないから」(39.7%)、「提供会社や種類が多すぎてどう選んでいいのか分からないから」(29.4%)と続いた。WMS導入の必要性がないとの回答は企業の経営戦略に基づく判断と言えるが、システム提供側も明確に差別化ポイントを提案するなどの努力が求められそうだ。

今後は反対に「積極派」の企業に導入目的を聞いてみた。WMSの現在までの利用実績がある、または今後利用する可能性がある企業の大半が、「在庫管理業務の効率化」(87.7%)▽「出荷業務の効率化」(85.6%)▽「入荷業務の効率化」(80.2%)▽「出荷精度の向上」(76.4%)――と回答。在庫管理と入出荷は、WMSの提供サービスの主軸を成すものであり、需要側と供給側の意向が概ね合致しているようだ。裏を返せば、物流現場における課題の主要な部分であるとも言えるわけで、サプライチェーンの中枢と呼ばれる倉庫機能には高い在庫管理能力が求められている実情を物語っている。

投資額は総じて控えめな傾向に

ここで、WMSのタイプ別の投資状況について調べた。「自社(共同)開発型」「オンプレミス(自社運用)型」「クラウド/SaaS(サース、必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるようにしたソフトウェア)型」の3タイプ別に、総額を10とした場合の投資割合を聞いた。自社開発型は「10割」(40.5%)、オンプレミス型は「7~9割」(32.8%)、クラウド型は「1~3割」(60.5%)とタイプごとに結果が分かれた。

WMS導入には一定の投資が必要になるが、自社開発ではほぼ全額を負担する必要がある一方で、クラウド(SaaS)型の必要な分だけ利用できる利便性が、投資割合にも反映されていると見るべきだろう。物量増や小口化、現場の人手不足への対応など、投資がかさむ物流現場の懐事情をWMS提供企業も認識し、より導入障壁の低いサービス提案力が求められているということだろう。

WMS開発・利用に伴う投資総額は、「1000万円未満」が17.4%、「1000万円以上5000万円未満」が13.8%、「1億円以上5億円未満」が10.0%となった。さらに、WMS投資で「失敗だった割合」は、「2割程度」(16.5%)▽「3割程度」(13.8%)▽「失敗はなし」(12.0%)▽「1割程度」(9.8%)――となった。倉庫の業務効率化の必要性は承知しているものの投資枠は決して潤沢ではなく、それゆえに失敗は許されない風土が垣間見える結果となった。一方で、10億円以上を投じた企業も8.0%存在することから、経営判断における優先順位やシステム投資への理解度の違いが如実に表れているとも言えそうだ。

求める機能は「入荷予定」「在庫照会」

ここまで、WMSの導入状況や投資方針について見てきた。物流倉庫内の運営支援を目的に、現場の状況に応じて判断をくだすWMSだが、企業がWMSに期待する基本的な機能とは何なのか。

複数選択で回答を求めたところ、「入荷予定/実績管理機能」(91.2%)と「在庫照会機能」(87.0%)で特に高い回答率を示した。いずれもWMSを代表する機能であるが、なかでも入荷は予定データと実際に届いた商品に相違があると、在庫管理だけでなく出荷以降のプロセスに多大な影響を及ぼし、サプライチェーンの最適化に支障をきたす。いわばミスの許されない「関門」だ。在庫照会も、入荷予定の的確な把握に連動した機能として、倉庫業務の中枢を構成するものであり、WMSの機能について語るうえで欠かせない領域なのは言うまでもない。

次いで、「ハンディ検品機能」(77.0%)、「送り状発行機能」(75.9%)、「ロケーション移動対応」(75.6%)、「ピッキングリスト発行機能」(75.1%)、「出荷予定/実績機能」(74.1%)となった。各業務を個別で効率化するロボットなど先進的なサービスが存在するが、WMSにはそれらを統括する役割としての期待が大きいようだ。

課題は「カスタマイズ」「他システムとの連携」

物流倉庫の現場の業務効率化への期待が大きいWMSだが、その裏返しとして課題も浮かび上がっているようだ。課題点について回答を求めたところ、「カスタマイズのしやすさ」が38.1%でトップ。「RFID(ICタグ、ID情報を埋め込んだRFタグから、電磁界や電波などを用いた近距離の無線通信によって情報をやりとりする技術)との親和性」(23.5%)▽「トラック予約システムやバース管理システムなど、他の物流向けITサービスとの連携」(20.1%)▽「手厚いサポート体制」(18.8%)▽「AGV(無人搬送車)・AMR(自律走行搬送ロボット)など物流向けロボティクスとのシステム連携」(17.0%)――が続いた。

倉庫現場で必要に応じて設定を変更できる柔軟さは、こうしたシステム導入時に課題となるテーマだろう。そもそもWMSの強みは、企業で統一された基幹システムと異なり、倉庫現場の情報をリアルタイムで把握でき、状況に沿った判断が可能なところであるはずだ。それなのにWMS自体にカスタマイズ性が乏しいとなれば、本末転倒と言われても仕方がない。

さらに、他のシステムとの連携における課題認識が高いことも分かった。WMSは倉庫の全体最適を促すシステムと考えるならば、倉庫業務に連動する車両管理などとの連携は不可欠であろうし、相互補完することで物流機能を全体としてさらに強化するこことができるだろう。さらに、倉庫だけにとどまらないサプライチェーン全体の最適化を構成するプラットフォームの開発も進んでいることを考えれば、上位・下位のシステムと連携した機能は今後、ますます重要性が高まっていくだろう。WMS開発プレーヤーには、連携機能を意識したサービス展開が求められる。

期待するオプション機能に関する回答についても、「RFIDとの親和性」(33.0%)▽「カスタマイズのしやすさ」(31.4%)▽「AGV・AMRなどなど物流向けロボティクスとのシステム連携」(27.0%)――など、同様の傾向が見られた。

関心度ランキング、首位は「ロジザードZERO」

最後に、現在提供されている95件のWMSを抽出し、関心度をランキングでまとめた。トップはロジザード「ロジザードZERO(ゼロ)」で全体の30.3%が回答した。次いで日立物流ソフトウェア「ONEsLOGI」(ワンズロジ、19.6%)▽ヤマトシステム開発「倉庫革命」(15.3%)▽ロジクラ「ロジクラ」(13.8%)▽セイノー情報サービス「SLIMS」(スリムス、13.4%)――と続いた。

在庫管理システムで高い知名度を誇るロジザードのロジザードZEROは、法人向け対応のEC(電子商取引)向けWMS。アパレルをはじめ化粧品、ホビーなどさまざまな商材への高い対応力が強みで、RFIDなどオプション機能や、マテリアルハンドリングや各種物流ロボットとの連携機能も充実している。顧客サポートにも定評があり、国内におけるWMSの第一人者としての地位を固めている。

ONEsLOGIは、「One Stop Logistics IT Solution」(ワンストップ・ロジスティクス・ITソリューション)を意味し、顧客ニーズ把握から導入、稼働後のサポートまで一括して対面で進める手厚い支援体制が特徴。在庫・作業の可視化・分析や受発注クラウドサービスなど、WMS周辺ソリューションによる発展性提案も充実している。倉庫革命は、ヤマトホールディングスグループのノウハウも活用した物流管理サービスの中核システムとして、ラックの配置レイアウトや運用方法などシステム導入効果をより高める提案力が強みだ。

ロジクラは小売業やECビジネス領域で定評のある、自社・委託倉庫やフルフィルメントで利用できる統合在庫管理システム。複数拠点の一元化した在庫管理や低コストの検品サービスなど、小売店を意識した内容が従実している。SLIMSは、セイノー情報サービスが強みとする3PLや物流改善コンサルティングの実績に基づくノウハウを注入したWMS設計が特徴。リアルタイムな進捗管理を中心とした運用管理機能と、マネジメントに必要な運営管理機能の両面を備え、システム連携による多角的な課題解決に貢献できる。

「物流システム専業」と「物流企業グループ」が競う構図に

WMS関心度ランキングでは、ロジザードに代表される物流システム開発企業のサービスに関心が集まる一方で、ヤマトシステム開発やセイノー情報サービスなど物流企業グループが、内部で蓄積したロジスティクス領域のノウハウを活用したサービスで勝負するなど、強みの部分を競い合う構図になっている。

とはいえ、関心の高いサービスに共通するのは、WMSへの課題認識でも明らかになったとおり、他のシステムとの連携やオプション機能の充実を図っていることだ。倉庫は単独では機能せず、他の物流プロセスとのスムーズな連携が実現して初めて有効に機能するからだ。

もはや荷物を置くだけの機能を果たしていればよかった時代ははるか昔。サプライチェーンの要として求められる倉庫の運営管理スキルは、物流品質ニーズの高まりを受けて、今後さらに高まっていくに違いない。ITや物流だけでなく、コンサルタントや不動産などより幅広い業界のノウハウを結集したWMSの開発が加速する時代も、そう遠くないだろう。

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