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日野自が排ガスと燃費数値不正、国内35%出荷停止

2022年3月4日 (金)

▲記者会見でデータ不正について陳謝する小木曽聡社長(左)と下義生会長

荷主日野自動車は4日、国内市場向けトラック・バス用エンジンの排出ガスと燃費に関する認証申請における不正行為を確認したと発表した。中型・大型エンジン計3機種について、エンジン性能を偽る不正行為があったことを確認。エンジン性能自体に問題があることも判明した。日野自動車は同日、これら3機種のエンジンとその搭載車両の出荷停止を決めた。同社は、出荷停止の対象となる車両は国内販売台数の35%に達するとの見通しを示した。

同社は4日夕に緊急の記者会見を東京都内で開き、下義生会長と小木曽聡社長が出席して詳細を説明した。

不正行為が判明したエンジンは、中型トラック「日野レンジャー」に搭載する中型エンジン「A05C(HC-SCR)」▽大型トラック「日野プロフィア」と大型観光バス「日野セレガ」に搭載する大型エンジン「A09C」▽大型トラック「日野プロフィア」と大型観光バス「日野セレガ」に搭載する「E13C」、の計3機種。

今回の不正行為の内容は、排出ガス性能の規制値と燃費性能にかかるデータの不適切な取り扱いだ。いずれも基準値を満たさないことを認識しながら、こうした数値に適合するように試験結果数値の書き換えや使用装置の変更などの不正行為がなされていた。日野自動車の小木曽聡社長は「現場における数値目標達成やスケジュール厳守へのプレッシャーなどへの対応が取られてこなかったことが背景にある」として、コンプライアンスを最優先する姿勢を明確化する考えを示した。

発覚の端緒について、日野自動車は北米市場向け車両用エンジンについて、米国法規に照らして2018年11月に社内にて排出ガス認証に関する課題を認識したことが契機となったと説明。米国当局に事実関係を報告しており、米国司法省など当局が詳細を調査中で、北米市場では他社製機種に搭載エンジンを変更しているという。

同社は、北米向けエンジンへの課題認識をきっかけに、国内市場向けエンジンについても調査を開始。ことし2月末までに、3機種のエンジンにおける不正行為が発覚。さらに、小型バス向け小型エンジン「N04C(尿素SCR)」についても、不正行為の有無は判明していないものの、実際の燃費性能が諸元値を満たしていないことが分かった。それ以外のエンジンについては「不正は確認しされなかった」(小木曽社長)としている。

とはいえ、今回の日野自動車における調査は「2016年排出ガス規制対象エンジン」を対象としている。同社は、それ以前における不正行為については今後確認を進めていくとしており、さらに不正行為がなされたエンジン台数が増える可能性も否定できない。

中型エンジン「A05C(HC-SCR)」については、エンジン認証試験の一つである「排出ガス性能の劣化耐久試験において、排出ガス浄化性能が劣化し規制値に適合しない可能性を認識したうえで、排出ガス後処理装置の窒素酸化物を窒素と水に浄化する装置を途中で交換して試験を続けたことが判明した。排出ガス劣化耐久性能の再試験結果から、経年変化による排出ガスの規制値を超過する可能性があることも判明している。

日野自動車は「日野レンジャー」の同エンジン搭載車の出荷を停止するほか、再発防止策を講じて出荷再開に向けた対応を進めるとしている。経年変化による排出ガス規制値超過の可能性については、リコールなどの対応準備を急ぐ。リコール対象は「A05C(HC-SCR)」を搭載している「日野レンジャー」の4万3044台としている。

大型エンジン「A09C」「E13C」については、認証試験の燃費測定において、測定装置の操作パネルから燃料流量校正値を燃費に有利に働くよう数値を設定し、実際より良い燃費値を計器に表示させるようにして試験を実施した。実際の燃費性能は諸元値に満たないことが判明している。このエンジンを搭載する「日野プロフィア」「日野セレガ」の出荷を停止するほか、再発防止策を講じたうえで出荷再開に向けた対応を進める。

今回の不正が発覚した対象エンジンの搭載車については、排出ガスや燃費にかかる税制優遇への影響を精査し、追加納付が必要な場合は負担する考えを示した。なお、ユーザーが不正対象エンジンの搭載車両を継続して使用する場合に、特に必要な対応はないとしており、日野自動車は速やかに顧客への連絡を進める方針だ。同時に、社内に特別調査委員会を早急に設置し、不正行為の全容究明と再発防止策を講じる考えも示した。

国土交通省と経済産業省は4日、日野自動車からの不正行為の報告を受け、事実関係の詳細な調査や再発防止策の検討などを実施したうえで速やかに報告するよう指示した。

「環境対応の加速」機運に冷や水、物流の持続的な成長にも支障を来たしかねない事態だ

日野自動車による排出ガスと燃費データの不正行為が明らかになった。国内販売台数の35%が出荷停止になる見通しで、物流業界にも衝撃が走っている。この事態の深刻さを際立たせているのは、その背景として現場における数値目標達成やスケジュール厳守へのプレッシャーが指摘されていることだ。カーボンニュートラルの実現に向けた機運が高まる自動車業界の「歪み」とも言える実態が浮き彫りになり、社会における環境対応の要求が不正行為の温床になっていたことは、メーカー製造現場の薄弱な環境対応意識を実感せざるを得ない。

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国内大型車メーカーのなかで、日野自動車の特徴は「技術的な優位性」とされてきた。一方で、他メーカーと比べてやや後塵を拝してきたのが、燃費性能だった。環境対応車として認知されるには、燃費性能は避けて通れない重要なファクターの一つだ。ここに、日野自動車の現場で焦りを誘発したとするならば、なんとも皮肉な話である。

日野自動車は今回の不正行為への対応として、三つの課題に直面することになる。一つ目がリコールをはじめとするユーザーへの真摯な対応だ。今回のデータ不正は、本来の性能基準を満たさないばかりか、性能そのものに問題がある事例も確認されるなど、信用を大きく損ねる事態に発展した。物流事業者をはじめとする日野自動車のユーザーは、社会を支えるインフラである物流の途絶を回避するためにも、事実関係の正確な報告と迅速で的確な事後対応を求めている。日野自動車には、物流インフラの持続的な確保に支障を起こしかねない事態を招いた事実を、重く受け止めるべきだ。

二つ目は、国内生産台数の実に3分の1超の台数が出荷できないことへの対応だ。日野自動車の技術力を信頼して車両を投入している物流事業者からすれば、まさに背信行為にほかならない。不正行為の全容解明を進めるとともに、出荷再開に向けた体制の再構築を加速する必要がある。

最後に、日野自動車の財務面における課題だ。リコールや出荷停止による経営へのダメージは決して小さくない。不正行為の高い代償を支払うことになった。一方で、環境対応エンジンや新型車種の開発を加速させることで、信頼回復に努めなければならない。

日野自動車には、厳しい状況への対応に取り組むことで、社内風土を含めた企業体質の見直しを進める契機となる。それが、物流サービスの高度化に直結するのは言うまでもない。(編集部・清水直樹)

日野自動車の緊急記者会見、質疑応答の概要