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商船三井前期、コンテナ荷動き追い風に最終益8倍

2022年4月28日 (木)

(イメージ)

財務・人事商船三井が28日発表した2022年3月期連結決算は、売上高が前期比28.0%増の1兆2693億1000万円、営業損益が550億500万円の黒字(前期は53億300万円の赤字)、経常利益が5.4倍の7217億7900万円、親会社株主に帰属する当期純利益が7.9倍の7088億1900万円だった。

ドライバルク事業は、売上高が前期比62.4%増の3609億円、経常損益が432億円の黒字(前期は42億円の赤字)だった。鉄鋼原料や穀物、石炭などの輸送需要が堅調に推移。中国における新型コロナウイルス感染症の水際対策や台風の影響などによる滞船で船腹需給がひっ迫し、秋まで高い水準を維持した。ケープサイズの市況は調整局面に入り、年始以降は雨季に入ったブラジルからの出荷ペース減速によってやや低迷。パナマックス市況は年明けのインドネシアにおける石炭輸出規制の影響やロシア・ウクライナ情勢による混乱はあったものの、冬場の石炭や南米における穀物輸送の需要が拡大した。

エネルギー・海洋事業は、売上高が5.4%増の3031億円、経常利益が33.3%減の198億円だった。油送船は長引くOPEC(石油輸出国機構)の協調減産による荷動きの伸び悩みなどで低迷。石油製品の輸送船も需要の回復が鈍く輸出荷動きが減少した。LNG(液化天然ガス)船は、新たに完成したLNG船やLNG燃料供給船を含めて、既存の長期貸船契約を主体に安定的な利益を確保。海洋事業は、FPSO(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)事業やFSRU(浮体式LNG貯蔵再ガス化設備)事業でそれぞれ1隻が新たに完成したほか、既存プロジェクトも順調に稼働した。

製品輸送事業は、売上高が30.3%増の5166億円、経常利益が6.5倍の6629億円だった。そのうちコンテナ船事業は、売上高が25.7%増の2773億円、経常利益が5.6倍の6532億円だった。コンテナ船は、商船三井など国内海運3社が共同出資するコンテナ船事業会社のオーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)で北米・欧州航路を中心に旺盛なコンテナ荷動き需要が継続。北米における港湾・内陸輸送の混雑などサプライチェーン全体の混乱が続いており、スポット賃率は前期を大幅に上回るレベルで推移した。港湾・ロジスティクス事業における取扱量回復に伴う増益も寄与した。自動車船も、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた前期からの世界的な自動車販売の回復を受け、完成車輸送台数は大幅に増加した。

2023年3月期の連結業績予想は、売上高が1兆3530億円、営業利益が460億円、経常利益が5250億円、親会社株主に帰属する当期純利益が5000億円で増収減益を見込む。

好業績に沸く海運業界、地政学的リスクへの対応と成長市場でのビジネス機会獲得が今期の課題に

海運大手の2022年3月期連結決算発表が始まった。先陣を切った商船三井は、市場の予想通りの大幅な増益となった。今期は減益予想を公表したものの、好調な業績は当面続く様相だ。コンテナ船をめぐるサプライチェーンの混乱が収束するまでにはまだ時間がかかる見通しで、好調な業績は今後も維持しそうだ。

とはいえ、こうした好業績はあくまで特殊事情で支えられている“異常事態”であるということを忘れてはならない。地政学的リスクを含めた社会情勢の変化で、海運ビジネスは敏感に業績への影響を受けてしまうからだ。

ケープサイズバルカーAZUL BRISA (出所:商船三井)

ロシアによるウクライナ侵攻。最悪の場合は第三次世界大戦を誘発する可能性さえ捨て切れないほど、緊迫の度合いを強めてきている。事態が悪化することになれば世界における通商はさらに深刻さを増し、縮小する方向に動くことは間違いないだろう。そうなれば、海運ビジネスは正常な機能を喪失してしまうことになりかねない。

一方で、先進国から新興国への経済シフトのさらなる加速による、新たな海運ビジネスの獲得も課題になる。地球規模での経済重心の変化が続くであろう今後、海運における新市場が生まれるタイミングを逃さずつかんでいきたい。

まさに浮沈を繰り返している海運業界。「波に乗り遅れない」舵取りが生き残りを図る最善策だ。今後の事業展開に注目していきたい。(編集部・清水直樹)