話題LOGISTICS TODAYは、オンラインイベント「運送会社DXに盲点、“点呼業務”の主要メーカー・販社と徹底討論」を9月7日に開催。点呼業務を支援する機器・システム業界の課題や今後の方向性について論戦を展開しました。イベントにおける登壇者の具体的なやり取りを詳報する連載企画。第2回は、前回に続いて点呼DX(デジタルトランスフォーメーション)の具体的な動きについてまとめます。
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<LOGISTICS TODAY赤澤裕介編集長>
次に遠隔点呼でございます。ことし4月に施行され、第1次の募集が終わりました。こちらの図にも書いてありますとおり、今まではGマーク(Gマーク制度=貨物自動車運送事業安全性評価事業)取得者だけに申請が認められておりましたけれども、Gマークがなくても申請できるようになったこと。これは大きなメリットかなと思っております。
さらにIT点呼のときには、同じ事業者内での営業所間が1つのIT点呼のルールになっておりましたが、この遠隔点呼におきましては、グループ企業間、いわゆる100パーセント出資されている企業間での点呼も可能になります。最近の運送業界でもM&Aというフレーズをよく耳にするようになりました。企業間におきましてグループ化がどんどん進んでいる中で、このグループ間での点呼が可能になるのは、これも大きなメリットになってくるのではないでしょうか。
遠隔点呼を実施するにあたっての3要件のクリア条件があること、これをまずご認識いただければと思います。
注目集める遠隔点呼、クリアすべき3要件
<タイガー取締役営業本部長・成澤正照氏>
機器システムに関する12項目、場所・環境における4項目、そして順守事項としての9項目。合わせて25項目に対して、要件を整理していかなければなりません。
まず、システム機器に関してでございます。カメラやモニターなどで本人の確認ができること、また生体認証なども今回は求められております。さらには点呼の記録。それらがシステム的に網羅されていること、それが重要な内容になっております。さらに場所と環境です。最近は運転手に「なるべく事務所に入らないように」と伝えているとも聞きます。控え室だったり、廊下であったり、点呼を取る場所の条件があまりよろしくないケースもよく聞きます。点呼場の明るさや監視カメラ、それから通信環境が整っているか。そういったものが1つの要件として挙げられております。さらには労務時間や指導監督の記録、運転者台帳など。皆様が日頃から管理されている内容もあると思います。
ただし今回の大きなポイントとなるのは、このデータを共有できること。いわゆる点呼執行者と点呼される側において、同一のデータで共有されることが大きなポイントになってくると思います。
これらをシステム的にどう網羅していくのかが、今回の大きなテーマになってきます。簡単ではございますけれども、点呼について触れさせていただきました。
<赤澤>
ありがとうございました。まず率直な感想なんですが、簡単にご説明いただいたと思うんですけれど、私には全然簡単じゃないと感じました。なかなかこれハードル高いなと、この時点で思ってしまいました。
<成澤氏>
そうですね。IT点呼のときにはここまでの内容は、現実ではございませんでした。といいますのも、皆様Gマークを取得される段階において、この辺のところをすべて網羅しています。IT点呼におきましては、Gマークを取得されていることで担保されている部分がございます。遠隔点呼になった段階においては、少なくともGマークの基準でなくとも「せめてここまでは最低限押さえてほしい」との内容になってくると思います。
<赤澤>
なるほど。非常に複雑でハードルが高いなと思ったのと同時に、昨今の運送業界の動きを見ていると、例えば中継輸送ですとか、あるいは今後本格化してくるであろう隊列走行ですね。そういう点呼ではない業界の中での変革も同時に進行しているわけで、こういったものに対応していくためには「毎回対面で点呼できないですよね」と、いうところも思い当たるわけです。そうするとITの力を使って遠隔地から点呼していく環境を整えていくのは、これはもう時代の要請なのかなという気もいたします。
<成澤氏>
はい、そうですね。身近に迫った「物流の2024年問題」(働き方改革関連法によってトラックドライバーの時間外労働の管理が厳格になることで起きうる諸問題)で、事業者も今までの運送事業から大きな転換期に来ているのかなと思います。長距離輸送も中距離輸送もだんだん難しくなってきた。輸送形態自体をどんどん変えていかねばならないご時世になってきておりますので、その上においてはこういったICTを利用してより効率的に管理していくのは、今後の重要なポイントになってくると思っております。
点呼DXの目的はあくまでも「ドライバーの安全」
<赤澤>
そうですね。この業界の状況を見ていても、我々もいろんな企業者に取材をさせていただく機会があるわけですけれども、幹線輸送のように大型トラックで拠点間をひたすらに往復するような運行形態もあるわけですよね。
そういうところでいうと、ドライバーの健康状態にいろんな荷主の思いや消費者の生活が乗っかってくることになるわけです。いかにいい健康状態を保っていくか、その上でも点呼はとても大事だとわかるわけです。最近だとトラックではありませんが、バスでありましたよね。原因ははっきりしていませんが、そこで思うのは「点呼はちゃんとしなきゃいけないんだな」ということです。なんとなくニュースを見ていても思います。「安全」のキーワードが今後ますます大きくなっていく。DXがどんどん進んだとしても、この安全が目的の1つであることは変わらない、そう考えてよさそうですか。
<成澤氏>
そうですね。どちらの企業におかれましても「安全」が第一になってきます。もちろん「荷主さんの荷物を運ぶ」ことも当然第一だと思うのですが、運転手がいてこその輸送になってきますので、いかに安全に輸送するかが第一になってくるかなと思っております。
<赤澤>
なるほど。点呼制度が中継やさまざまな今後の物流業界の動きに対応していく必要があるところから、まず時代の要請で先進的な点呼の仕組みが求められているわけです。そこに対応して、いろんな名前の制度が出てきたということですね。
逆から見ると、現行の対面点呼が対応できない側面、ここもはっきりとさせておく必要があると思います。今の対面点呼の仕組みが時代に対応できない、あるいは運送事業者の業務に対応できないと、なんとなくはイメージできるのですが、明確にするとしたら、どういうところが対応できないのか課題をご説明いただきたい思います。
対面点呼の問題点は「人員確保」、それを解決するのが点呼DXだ
<成澤氏>
はい。一概にはいえない部分はあると思うのですけれども、人の問題は大きいのではないかと思っております。運送会社では出庫や帰庫の時間は本当にバラバラですので、24時間張り付いているわけにはいかない。そうすると、何人かの人間で点呼を取ることになりますと、当然点呼の人員を確保することになります。するとまた違った面で課題にもなってきますので、国土交通省はいずれ自動化、できるなら無人化できうる点呼を目指しておられると思います。その中でのIT点呼、遠隔点呼と、ある意味で段階的に進行しているとは思っております。
<赤澤>
なるほど、ありがとうございます。この後議論が本格化してくると思いますが、改めて先ほどの話を整理しておきます。IT点呼と遠隔点呼って混同して捉えがちなんですけれども、先ほどの成澤さんのご説明に基づくと、IT点呼はGマークの取得事業者に認められているもの、ということですよね。
<成澤氏>
はい。そうですね。
<赤澤>
はい。遠隔点呼には、そういうしばりはない。さらにできることもIT点呼みたいに制限されたものではなくて、より柔軟で幅広いものになる可能性もある。そういう理解であっていますか。
<成澤氏>
そうですね。
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第3回は、いよいよ登壇者によるディスカッションが始まります。