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運送会社DXに盲点、点呼業務を支援する機器・システム業界の課題や方向性探る

導入への「壁」への懸念も-討論イベント詳報(5)

2022年9月28日 (水)

話題LOGISTICS TODAYは、オンラインイベント「運送会社DXに盲点、“点呼業務”の主要メーカー・販社と徹底討論」を9月7日に開催。点呼業務を支援する機器・システム業界の課題や今後の方向性について論戦を展開しました。イベントにおける登壇者の具体的なやりとりを詳報する連載企画。第5回は、テレニシの吉田氏が「理解不足」の意味するところについて語ります。さらにサンコーテクノの坂口氏は「導入ハードルの高さ」について持論を繰り広げます。

<LOGISTICS TODAY赤澤裕介編集長>
続きまして、テレニシの吉田様。先ほどフリップに「理解不足」とお書きいただきました。この理解不足というのは、「理解していれば、本来もう少し導入が進んでもいいのではないか」と、そういうことでもあるのかなと思います。このあたりの詳しい事情の詳細についてご説明いただければと思います。

「1つのメーカーで全ての機器をそろえられない」遠隔点呼の実情

<テレニシ法人事業本部ソリューション営業二部の吉田寛之部長>
はい。遠隔点呼導入のメリット、デメリット。あとは事例をお話しさせていただけたらと思います。

<赤澤>
はい、よろしくお願いします。

<吉田氏>
1つ目のメリットとしましては、まず先ほど成澤様もお話をいただいてるところで「Gマーク(Gマーク制度=貨物自動車運送事業安全性評価事業)がなくても使用可能」でしたり「貨物・旅客ともに使える」「グループ企業間でも使える」「時間制限がなく、24時間使える」「支局に申請して準備されれば、使用可能」というところは、まずメリットとして皆様も理解されていると思います。デメリットについては、「申請項目が多い」「遠隔点呼を実施するための25要件をそろえることは大変」「現時点では1メーカーで全てをそろえることができない」というところもございます。

<赤澤>
1メーカーでは全てそろわないと。

<吉田氏>
はい。防犯カメラはまた別のメーカーで用意しなければならないといった点です。あとは先ほどの裏話に近いところで、運輸支局の方々によって対応できる限界の違いや解釈の違いがあるのがデメリットとして大きいのかな、と思います。

<赤澤>
なるほど。これは結構厄介だと思います。全国展開する企業であれば、利便性を感じてどこか1か所、例えば東京で導入しますよね。これを静岡や神奈川、あるいは大阪でも展開していこうと思ったら、「いやいや、うちはそれじゃ通さないよ」ということが起こりうるわけですね。

<吉田氏>
そうですね。現時点では今おっしゃっていただいた複数のエリアで「そこは通ったけれども、あそこはこの資料だとダメだった」という話もあるみたいです。

<タイガー取締役営業本部長・成澤正照氏>
ありますね。

「IT点呼」と「遠隔点呼」をめぐる理解不足

<赤澤氏>
あるんですか。困ってしまうというのが、正直なところです。そのあたりも時期が進んでいくことによって、解消に向かうのではないかとの希望的な観測も当然ありうるわけです。今の話ですと、吉田様のお話いただいたことと、松本様のお話に共通点がみられると感じました。まだ時間の問題があったり、あるいはその運用側、行政側に不慣れなところが見られたりすることもあると思いますけれども、運送会社側もそういう事情は分かったとしても「それではどうすればいいのか」みたいなところは結構悩まれると思います。

そのあたりの実情を今まで皆さん、数多くの運送会社の方々と接してこられたと思いますが、どうですか。実際、運送会社の方はIT点呼や遠隔点呼に興味持たれたから、皆さんにコンタクトを取られるんだと思うんですけれども、結果的にどのような声になるのでしょうか。成澤さんは、運送会社の方と接せられることはありますか。

(イメージ)

<成澤氏>
そうですね。今、東海電子様もテレニシ様もおっしゃっていたのですが、1回で申請が済むとは思わない方がいいと思います。

<赤澤>
「現時点では」ということですよね。

<成澤氏>
現時点では。ことしの4月から始まったばかりなので、この遠隔点呼自体をしっかりと形作っていかなければならないと思います。国土交通省の方も、段階的に取り組んでいく形を取らざるをえないところがあると思います。

<赤澤>
はい、わかりました。ありがとうございます。途中で挟んでしまいましたが、吉田さん、引き続きどうぞよろしくお願いします。

<吉田氏>
はい。1つのお客様の事例としまして、現状の運用としてのIT点呼や遠隔点呼がある中で、お客様の中には「遠隔点呼が始まることによって、もうIT点呼がなくなってしまうんではないか」「遠隔点呼のみを使わなければいけないのではないか」そのような理解の不足があります。

<赤澤>
私もそう思っていました。そうではないんですね。

<吉田氏>
はい。あくまでも今回、遠隔点呼という点呼の方法が1つ増えただけです。従来の対面・電話の点呼、IT点呼、スマートフォンを使った点呼。それに合わせて、今回の遠隔点呼が加わったのが実際のところであるのに対し、まだまだ遠隔点呼ができてしまうことによって「これしか使えないんじゃないか」と思われている部分が、特に理解不足に当てはまるんじゃないかなと思っております。

「IT点呼」からのスライド運用ができない、それが「遠隔点呼」導入のハードルに

<赤澤>
なるほど。今ひととおりお話をうかがっても、なお「あ。そうなんだ」と思ってしまうところもありました。そこの整理は大切そうです。

続いてサンコーテクノの坂口様です。「導入ハードルが高い。その一方で……」となかなか興味深い書き方をしていただきました。ぜひ、詳しく教えていただけますか。

<サンコーテクノ機能材事業本部の坂口正一副本部長>
まず私どもは、お客様の声を聞いて開発を急ピッチにしてると先ほど申し上げました。東海電子様の申請におけるハードル、テレニシ様の実際の話を聞いて、視聴者の皆様と同じようにこの場にいながら「あ、そうなんだ」と聞いてしまっている自分が申し訳ないなと思っているところでございました。

そういった意味では、当社もIT点呼を多くの皆様にお使いいただいていますので、お客様や現場の声を今回クローズアップさせていただいて「導入をしない」または「踏み切れない原因」をご説明できればと思います。

<赤澤>
ぜひよろしくお願いします。

<坂口氏>
まず当社のお客様の場合、IT点呼をお使いいただいているお客様に関しては「遠隔点呼の存在を聞いて興味があるけれど、どのような準備が必要なのか」「IT点呼とどう違うのか」の声が圧倒的に多く感じます。

IT点呼から遠隔点呼への移行に関するご質問が多い中で、当社としてもお客様にはまず「遠隔点呼ってこういうものなんだよ」「点呼の方向性ってこうだよ」というお話をしたうえで、さらにいろいろな要件や確認すべき情報をお伝えしています。例えば、運用上の順守事項や監視カメラの設置、なりすましの防止、設備機器などに関する25の要件に必要な準備の話も含みます。ある程度の時間をかけてご説明させていただきますと、「遠隔点呼の要件のハードルって高いよね」と言われます。

<赤澤>
高いですね。

<坂口氏>
はい。「IT点呼からある程度スライドの運用で実施できると思っていたけれど、これではできない」「遠隔点呼のシステムをただ単にポンと入れるだけでクリアできるわけではないのか」と。さらには「社内の運行管理の方法、人、設備、データをどういうふうに管理するのか、という側面でさまざまな準備が必要になるね」といったところで、まずは「うん」と考えてしまうお客様が圧倒的に多い状況です。

現在は開発段階にある当社としては、そこで聞いた声に対して、遠隔点呼の25要件をクリアするにあたって、いろいろなメーカーさんとも連携をする必要があると考えています。いわゆるトータルシステム、パッケージで導入できることがハードルを下げていくところにつながっていくのかなと。そのあたりの事情も盛り込んでシステムを作っている状況です。

<赤澤>
なるほど。

「高いハードルを超えた」実績で差別化を図るケースも

<坂口氏>
先ほど、「その一方で……」という書き方をさせていただきました。この高いハードルをクリアした企業からすると「実は自分たちの差別化につながるのではないか」とお考えの声が出てきているのも事実です。

<赤澤>
なるほど。

(イメージ)

<坂口氏>
というのも、導入のハードルをクリアすることによって他社との差別化ができたり、さらにはこのハードルを超える課題を社内に落とし込むことによって、社内の労務管理の改革とか業務改革といった社内改善ができたりするのではないか、とお考えのようです。ハードルの高さをプラスに考えているユーザーも出てきているのが事実です。

<赤澤>
要するに、点呼を点呼としてだけで終わらせるのではなく、会社経営全体に波及させていくという効果ですか。

<坂口氏>
そうですね、それによって差別化、あと社内の業務改革・業務改革も含めてこれらのクリアを課すことが必要なのかな、と考えてる企業も出てきているのが事実だと思います。

<赤澤>
なるほど、ありがとうございます。今、坂口さんにお話しいただいた内容を踏まえると、それでもハードルは高いんだなというのが率直なところです。ハードルは高いんだけれども「その一方で……」とお示しいただいたように、メリットをもう少し明確に認識する必要があると感じました。

その話にいく前に、なぜハードルが高いのかというと、1つは周知不足であったり理解不足であったりということでした。コストや会社の雰囲気など、いろんなものが影響していると思うのですけれども、そのハードルの高さを見極めていくことが非常に大事な気がします。

そのあたりのところをいちばんお話いただいていたのが吉田様ですが、ハードルの高さに関して補足いただくことは可能ですか。

<吉田氏>
そうですね。ハードルの高さに関しましては、まず申請プロセスである25要件をそろえたうえで、各運輸支局に提出をするところだと思います。ここで勘違いをされているケースがあるんですが、この25要件をそろえていない段階で先に申請をしてしまっているお客様もいらっしゃいます。まずは要件をそろえたうえで申請しなければなりません。

そのうえで次の段階として基本は現地確認になるのですが、各支局の方々によっても解釈見解が違います。支局によっては事前にDVDに収録して、ある程度中身を見て問題ないとしたうえで現地に来るようなところが実際「出たとこ勝負」のようなハードルの高さにもなっていると思います。

<赤澤>
なるほど。そのあたりはなかなか難しいと思いますが、ただ取り組もうとしてる内容がデジタルの力を使った遠隔点呼であったり、IT点呼であったり、その他の先進点呼と考えると、それを運用する側の行政がもう少し運用基準を統一していく必要性は、メディアの立場からすると感じざるを得ないんですよね。

皆様は普段、行政の方々と接していらっしゃるのでなかなか言いにくい面もあるかと思いますけれども、運用基準が統一されると変わってくるんじゃないかなという気もするのですが、いかがですか。

<吉田氏>
そうですね。国土交通省で展開しているものと、実際には違うところが出てきてしまっていますので、統一化といったところは大事かなと思います。

第6回は、ことし4月に制度化された遠隔点呼をめぐるルールについて、各登壇者が意見を戦わせます。

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