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LOGISTICS TODAY Special Reports「防災・事故防止特集」<上>

防災意識で示せ、社会インフラ担う物流の「底力」

2022年10月18日 (火)

話題LOGISTICS TODAYは、9月21日に開始した「防災・事故防止特集」の一環として、物流関連ビジネスを展開する企業を対象としたアンケートを実施。災害への備えにおける問題認識や取り組みの状況について聞いた。

自然災害が多発するなかで、半数近くがBCP(事業継続計画)を策定するなど相応の対応を進めている一方で、対策を講じるにあたっての時間や人員の不足に悩む現場の実情が浮かんだ。

アンケートは物流事業者や荷主企業を中心とした本誌読者を対象に9月26日から10月3日まで実施した。有効回答数750件。回答者の主な内訳は、運送業37.6%▽3PL・倉庫業31.6%▽荷主企業15.9%▽その他14.9%。

災害復旧を促す物流の底力、それを支えるのは「現場の使命感」だ

毎年のように次々と列島を襲う自然災害。被災地をはじめとする社会基盤の復旧・復興の大きな力となるのが物流だ。「社会に欠かせないインフラ」として物流が位置付けられる契機となったのが、2011年の東日本大震災だった。被災直後に大きな被害を受けた道路をたどって物流トラックが現地入りして被災者に物資を送り続けたことで、物流の「底力」が強く認識されたのだ。

(イメージ)

まさに社会における様々な活動の原動力となる物流。裏を返せば、その物流そのものが被災して機能不全に陥ってしまうことになれば、社会活動に甚大な影響が及ぶことになる。こうした観点でみると、物流に携わる事業者にとっては、災害時の事業継続を意識した取り組みを平時から進める重要さを痛感する。

物流現場でこうした意識を支えるのは、ドライバーや倉庫での荷扱い従事者たちの持つ「使命感」だ。もちろんそれが前提の話なのは言うまでもないが、社会インフラを預かる事業者としては災害時における対策と事業を継続できるだけの計画を事前に策定しておくことは、もはや避けて通れない「命題」だろう。

7割超が「災害対策」を講じているが…

物流インフラの途絶を回避するために欠かせないBCP。まずは、その策定状況について聞いた。「策定している」との回答は全体の46.6%と半数近くに達した。「BCPは策定していないが、災害対策マニュアルなど自社独自の取り組みを実施している」(25.2%)企業を加えると、全体の7割超が事業継続に向けた災害対策を講じていることが分かった。

こうした取り組みの実績がない企業でも過半数が今後の策定を予定するなど、災害への備えを急ぐ動きが広がっている実態が浮かんだ。

次に、災害発生後の対応として準備できている事柄について質問した。「避難経路や避難場所の共有を徹底している」(77.9%)▽「従業員に緊急時の会社や家族との連絡手段を指示できている」(77.9%)▽「社内の被災情報を集約し、対策を講じる準備ができている」(71.4%)--との回答が上位を独占。従業員の安全確保にかかる取り組みが優先的に進んでいることがうかがえる。

事業の継続に向けた取り組みについては、「災害対策本部などの役割分担や責任者の代行順位などをあらかじめ決めている」(63.6%)▽「顧客・関係会社・自治体など関係先と連絡を取れる体制ができている」(57.1%)▽「建物・車両などの被害を迅速に把握する体制ができている」(50.6%)▽「関連企業などへの応援・支援を想定し、救援物資や輸送体制などが整備できている」(31.2%)--との回答状況から、一定程度の備えが進んでいる状況が垣間見える結果となった。

こうした取り組みのさらなる推進が、次の災害時における事業継続の力になるだろう。ただし、前提条件はそれが実効的なものであることだ。それが覚束ないようでは、まさに画餅に帰してしまう。

リスク認識が高まる「火災」「燃料費高騰」

「災害への対応」と言っても、その種類によって具体的な対処方法は異なる。海に囲まれ環太平洋造山帯に属する日本は、あらゆる災害への備えが必要なのが現実だ。さらに経済のグローバル化が加速する現代は、世界の地政学的リスクや感染症への対応も求められるなど、物流におけるリスクの因子はあらゆるところに転がっているのだ。

ここで、物流関連事業者として備えておくべきリスクを12項目に分類し、それぞれ対策の重要さの位置付けを聞いた。「非常に重要」とした回答は、自社の貨物事故・交通事故(77.6%)▽地震・津波(75.3%)▽「自社・関係会社のシステム障害・情報流出」(71.1%)▽火災(70.1%)▽「大規模な通信障害」(66.2%)▽「台風・洪水・高潮」(64.9%)--が上位を占めた。

「重要」とした回答は、電力不足(53.2%)▽その他異常気象(熱波、雪害など)(45.3%)▽感染症や病原菌・ウイルスの流行(36.8%)▽停電(36.8%)▽輸送インフラの停止(36.4%)--が目立ち、電力不足とその他異常気象については、「重要」が「非常に重要」を上回った。

リスク認識のトリガーになる「足元の社会動向」

貨物事故・交通事故は、自社のビジネスへのダメージが確実に発生する意味では、自然災害にも優先して対処すべきテーマであると言えるだろう。注目なのは、火災を挙げた回答率の高さだ。

本誌が21年8月に実施した「防災・BCPに関する実態調査」における同様の質問で、火災を「非常に重要」と挙げた回答は48.1%にとどまったことからも、その違いが鮮明であることが分かるだろう。

▲21年11月に発生した日立物流の倉庫火災

21年11月に発生した日立物流西日本舞洲営業所(大阪市此花区)の倉庫火災は、先進的な大型物流倉庫のリスクを見せつけた。その後も各地で倉庫火災が発生。いずれも鎮火までに時間がかかりサプライチェーンへの影響も出るなど、倉庫火災が物流におけるリスク要因であることを改めて認識させられる出来事となった。今回のアンケート結果も、こうした事情を色濃く反映している。

同様の傾向は、「燃料費の高騰」にもみて取れる。「非常に重要」の回答率は21年8月の前回調査で35.1%だったのに対して今回は57.5%に跳ね上がった。24年ぶりの円安水準やロシアによるウクライナ侵攻など地政学的リスクなど、複合的な要因で原油価格は高止まりが続いている。リスク対応の機運は、足元の社会動向や災害発生の有無によって大きく左右されるものなのだ。

「輸送インフラの停止」への低いリスク認識に懸念も

先程の質問に関連して、それぞれのリスクにおける対策や復旧手順の有無について質問した。「ある」との回答は、地震・津波(54.2%)▽感染症や病原菌・ウイルス(54.2%)▽自社・関係会社のシステム障害・情報流出(50.0%)▽台風・洪水・高潮(45.8%)▽火災(45.8%)--で目立った。

一方で「ない」は、その他異常気象(熱波、雪害など)(70.8%)▽輸送インフラの停止(66.7%)▽大規模な通信障害(66.7%)▽停電(50.0%)--の各項目で半数以上が回答した。

地震や台風は、もはや毎年のように列島のどこかで被害をもたらしており、対策を急ぐ機運が高まっている。さらに、新型コロナウイルス禍の経験から感染症は物流ビジネスにおけるリスクとして強くインプットされたことを裏付けている。

一方で、物流に不可欠な輸送インフラの停止に対するリスクの認識が弱いのは、気にかかるところだ。大規模な通信障害についても、大手通信会社によるトラブルが話題になったばかりだが、物流事業者へのインパクトはあまり強くないようだ。物流DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する動きが加速する現状にあって、懸念材料になりそうだ。

次回は、災害対策における問題認識とその背景に迫ります。
>>【下】物流災害対策のカギ、それは「時間と人手」の確保だ

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