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買い物困難地域で広がるライバル同士の共同輸送

2022年10月28日 (金)

記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「コンビニ共同配送実証で成果、大手3社と流経研」(10月17日掲載)と「ドラッグストア大手2社、青森の過疎地で共同配送」(10月25日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

荷主過疎地域の物流網をどう守るか。その一つの「解」として、同一業界のライバル同士の共同配送が広がりつつある。このほどコンビニエンスストアとドラッグストアの両業界から相次いで成果が報告された。日頃しのぎを削る企業同士を「呉越同舟」に向かわせたのは、将来への危機感と買い物弱者に対する責任感。緒に就いた取り組みからはさまざまな課題も見える。

(イメージ)

セブン-イレブン・ジャパン、ファミリーマート、ローソン。「激しい競争を繰り広げているライバルでも、共通の課題の前ではしっかり手を組む姿に感心した」。こう話すのは、3社の共同配送実証実験に携わった流通経済研究所(東京都千代田区)の吉間めぐみ主任研究員だ。大手コンビニ3社はことし2月、北海道南部の函館エリアでさまざまな商品の共同配送実験を行った。以前は想像もできなかった3社の協業だったが、いずれも過疎地で店舗密度や配送車両の積載率の低さ、買い物困難者への対応という課題に直面しており、実証実験に前向きに応じたという。

実験の舞台、渋滞地区から低密度エリアへ

その1年半前の2020年夏。3社は東京オリンピックの会場が集中する東京・有明地区で、交通渋滞を緩和するための飲料の共同配送を短期間試した経緯がある。その時は五輪が1年延期されたため、想定した渋滞はなかったが、それが下地となり有明からはるか北の函館で多品目の共同配送実験にチャレンジすることになった。内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の事業として予算もついた。

10月17日に3社が発表したように、2月の実験では、配送車両の走行距離と時間、CO2排出量の削減効果が確認できた。幹線での配送センター間の横持ち配送は、セブンイレブンとファミリーマート、セブンイレブンとローソンの2つの組み合わせで共同実施し、それぞれトラック1台分を節約できたことで、走行距離とCO2排出量はおおむね半減、走行時間は23%削減できた。

買い物困難地域の店舗への共同配送も試し、ファミリーマートを除く2社が参加し、走行距離を22%、走行時間を20%減らせた。3社は実験成果を足掛かりに、今後、正式の共同配送に向けた会議体を立ち上げ、数年後を視野に実現したい考えだ。

▲共同配送のルート(出所:セブン-イレブン)

データの取り扱いがポイント

吉間氏によると、この実証実験で浮かび上がった課題は大きく3つ。「商品などのデータの取り扱い」「マテハン(マテリアルハンドリング)やオペレーションの統一化」「仲介役」だという。

データの取り扱いはライバル企業同士では最も神経質になるポイントだ。配送する商品の種類や量、配送先の店舗やそれに関わる各種の情報は、各コンビニチェーンにとって営業や商品戦略上の機密事項。そのため、北海道での実証実験では「他社にオープンにできないデータを除いた、かなり大まかな情報しか取り扱えなかった」(吉間氏)という。

しかし、いま物流界では急速なDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展で、個々の荷物の詳細な情報がデータ化され、クラウドで荷主企業や物流会社、店舗などがリアルタイムで共有する「情報連携」が不可欠になってきている。共同配送でも一定のデータ処理が早晩必要になるとみられる。吉間氏は「大事な情報が他社に筒抜けにならないような配慮をしつつ、フォーマットの共通化など、扱うデータを何らかの形で改善する余地がある」と語る。

これについては、ドラッグストア大手のウエルシアホールディングス(HD)とツルハホールディングス(ツルハHD、札幌市東区)が10月25日に青森県下北エリアで始めた商品の共同配送が一歩先を行っている。この連携では、日立製作所の技術を用い、荷量や納品予定、配送トレースなどのさまざまな物流情報をデジタル化し、クラウド上でシームレスに連携させる。その際、扱う情報を暗号化することで、互いに相手企業の荷物の種類や量がわからないようにしている。

▲共同配送の運用スキーム(出所:ウエルシアホールディングス)

仲介役、物流企業の出番も

吉間氏が指摘する2つ目の課題は、マテハンやオペレーションの共通化。コンビニ3社の間では、商品の段ボール箱を配送トラックにそのまま積み込む方式と、かご車に入れて積む方式との違いがあった。使用するトラックにも後部のオートゲートの有無に違いがあった。実験ではかご車を使い、オートゲートで積み込む方式に統一したが、「共同配送が各地で展開されるようになれば、自社の方式を見直す動きも予想される」(吉間氏)という。物流分野ではいまパレットの標準化が進められているが、トラックへの積み込み場面でのこうしたマテハンやオペレーションの違いも収れんされることが期待される。

(イメージ)

流通経済研究所は実証実験に際して、コンビニ3社の調整役を果たした。やはり競合同士の緊張感はあり、同研究所のような「接着剤」の重要性も吉間氏は強調する。ウエルシア広報によると、ツルハとの共同配送では、システム面の支援をした日立のほか、大手のコンサルティング会社が重要な仲介役になったという。配送の現場を熟知し、各プレーヤーに対し等距離、中立的な立場で接せられる橋渡し役になれる企業はほかにもある。「物流企業への期待は大きい」と吉間氏は話している。

買い物困難地域は今後、さらなる拡大が予想される。ライバル同士の共同配送は、合理的、革新的で環境にやさしい取り組みであるとともに、地方に住む人に希望を感じさせるメッセージでもある。実証実験で得られた課題の解消に努め、「競争」と「協調」を両立していく。その粘り強い取り組みを通じて、人口減少時代の物流と地域社会の姿が見えてくる。(編集部・東直人)